はじめに

2011年に入り市場の予想以上に回復感の強い米国経済の立ち直りを背景に、米国株式市場を先導役とした先進国の株価回復が見られるようになりました。NYダウは2008年6月以来となる12,000ドルを回復しましたし、日経平均株価も年明け早々に10,500円台を回復しました。しかしその一方で世界経済牽引の原動力の一翼を担うようになった中国が景気過熱感もあり、インフレ警戒から利上げモードになってしまったり、一方でチュニジアのいわゆる「ジャスミン革命」に始まった動揺がエジプトに飛び火したことで再び地政学的リスクが取り沙汰されたりと、市場関係者を悩ます材料には日々事欠きません。南欧の信用リスク問題はやや沈静化した感がありますが、一方で日本の国債格付けが米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)社によって格下げにあうなど、カントリー・リスクというテーマも引き続き燻ぶり続けています。そして24日から始まった第177回通常国会は予想通り当初から難航して話題を振りまいているようです。そんな中で行われた2011年最初のアンケートの結果をお届けします。今回の結果も、皆様のこれからの投資活動の一助となれば幸いです。

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「目先やや警戒感を抱きつつも、先々の見通しはより強気に傾く。」

  • Q1:1月31日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △7.65
    (12月27日と1カ月後の日経平均の見通し DI= +9.91)
  • Q2:1月31日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +14.52
    (12月27日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +12.86)

今回の基準日となった2011年1月31日の日経平均株価の終値は10,237.92円です。年初来、早々に日経平均株価で10,500円台も回復するなど好調を続けていた我が国の株式市場でしたが、エジプト情勢の混乱拡大を危惧した利食い売りなどがかさみ、月内における最安値を付ける中でアンケートが行われました。投資判断をする上でファンダメンタルズとして評価すべきポイントはたくさんありますが、それを専業とするファンドマネジャーでも、最も判断に悩む問題の一つがこうした地政学的リスクなどいわゆる「イベント・リスク」と呼ばれるリスク項目への処し方です。実際過去の経験値としても、湾岸戦争や911同時テロなどは連続性のある変化ではないため極めて判断に苦しむというのが偽らざる正直な本音です。アラブ諸国の政治問題を専門に分析し続けていれば、もしかすると延長線上で連続性のある変化と取れるのかも知れませんが、通常はそうでは無いはずです。また経験則としてよく引用する例ですが、90年湾岸戦争の時、米軍がパトリオット・ミサイルを発射した直後は、日経平均株価は先物主導でいったん暴落し、後場に入ると一度も値を付けることなく一気に急騰したという例がありました。どの時点を持ってこうしたイベント・リスクは"始まり"であり、“終了”と判断して良いのか非常に悩ましい問題と言えます。

恐らくそうした現状を踏まえて、短期1カ月先を展望した場合は警戒感の高まりから前月より弱気に傾いたと取れる△7.65(前月は+9.91)となりましたが、3カ月先については+14.52(前月は+12.86)と強気度合いを高める結果となったものと思われます。アンケート基準日の1月31日から3カ月先と言えば4月末ですから、当然2010年度末を跨ぎます。最近は年度末の機関投資家の決算要因による特殊需給ということもほとんどなくなりましたが、それでも年度末を跨いだ先を展望した場合の株価水準を現状よりも強気と捉える傾向が出ているのは注目すべきセンチメントの変化だと考えます。

背景には米国を中心とした世界景気回復への期待値向上があるものと思われます。実際、米国でこのところ発表になる各種経済統計は市場の予想を上回る好調なデータとなることが多く、その都度市場はこれを好感してNYダウが2008年6月以来となる12,000ドルを回復しました。またアップルの好決算に代表されるように、スマートフォン関連ビジネスの企業が好決算を発表することで、ハイテク関連への自信を市場が高めてきたことが背景にあるように思われます。

一方で、この先当分は日本で捻じれ国会が進行していくはずであり、また予想通り当初から問題山積でネガティブな話題を振りまいていることは事実ですが、これらの結果を見る限りにおいて、やはり市場は現在「日本の政治状況」については黙殺していると見るのが正しいのだと思います。いつか市場が注視する状況になるのかも知れませんが、相当国政の混乱については免疫力ができているように思われます。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
1月31日 DI=△2.88 DI=△4.43 DI=+9.09
12月27日 DI=△4.85 DI=△18.86 DI=+14.75

調査時点の円/ドルは82.03円、円/ユーロは111.73円です。前回調査時点の12月27日時点に比べるとドルの水準は殆ど変化していませんが、ユーロはDIの結果が示した通り108.85円から大きく円安に動いたことがわかります。背景は燻ぶり続けていた南欧諸国の信用リスク問題がやや沈静化してきたことが挙げられます。ポルトガルなどが国際債券市場で資金調達をすることが可能かどうかということに資本市場は一時とても神経質になりましたが、結果的に国債発行が上手く行ったことで市場に安心感が戻りました。1000ptsを超えていたギリシャのクレジットデフォルトスワップ(CDS)なども800pts台半ばまで低下したこともユーロの買い戻しを後押ししたと思われます。これらによりドルに対しても1ユーロ=1.36ドル台(2月に入り1.38ドル台)まで回復する状況です。

しかしながら当月のアンケート結果によると、対ドルが△2.88(前月は△4.85)、対ユーロが△4.43(前月は△18.86)、あわせて9.09(前月は14.75)とDIの絶対値が縮小しニュートラル化していることが伺えます。ひとつの仮説に過ぎませんが、地政学的なリスクの台頭に全般的に様子見姿勢が強まった中でのアンケート・タイミングとなってしまったからということかも知れません。豪ドルに関して言えば、中国景気の見通しに資源価格が相関性を強めていることから、春節明け後の状況を見極めたいということかも知れません。

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 27.05% 23.39% 3.66%
EU諸国 6.65% 6.22% 0.43%
ブラジル 38.58% 34.77% 3.81%
ロシア 8.98% 8.32% 0.66%
インド 48.45% 52.79% △ 4.34%
中国 30.93% 28.13% 2.80%
中東・北アフリカ 7.87% 8.75% △ 0.87%
東南アジア 37.92% 38.25% △ 0.34%
中南米 8.87% 9.91% △ 1.04%
東欧 3.99% 3.37% 0.62%

投資先としてのアメリカの注目度が2009年2月実施のアンケート以来最大となりました。2009年2月と言えば、リーマン・ショック後の金融危機の中で大きな期待を集めてオバマ大統領の新しい政権が誕生し、米国景気の回復を株式市場が織り込み始める起点ともなった重要なタイミングです。この時の米国市場への期待感は思い出してもかなり高いものでしたが、それと今回が同じレベルというのは注目すべきポイントかと思います。最新の雇用統計はまだ発表前で織り込まれていませんが、2010年第4四半期の国内総生産(GDP)をはじめ、個人消費や住宅市場関連に改善の兆しが経済統計上からも確認されており、この流れが続くことを期待したいものです。

あわせてブラジルへの注目度が回復しています。中国についても改善していますが、一方でインドについては注目度が下がっています。もちろん、ブラジルや中国に比べてこのところのインドの注目度の高さは一歩抜き出た状況でしたから、その調整と見ることもできますが、新興国市場(最近は新興国と呼ぶべきではないという議論も出てきていますが・・・)に対する注目度合いは常に全般的に高く、その中でローテーションをしているという見方もできなくはないようです。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 67.74% 68.81% △ 1.07%
外国株式 28.16% 27.40% 0.76%
投資信託 30.38% 29.40% 0.98%
ETF 20.62% 18.44% 2.18%
FX(外国為替証拠金取引) 20.95% 22.02% △ 1.07%
国内債券 5.65% 5.90% △ 0.25%
海外債券 10.20% 9.59% 0.61%
18.74% 17.39% 1.35%
原油 8.98% 7.17% 1.81%
商品 7.98% 5.90% 2.08%
REIT 14.30% 13.80% 0.50%
CFD 3.88% 3.58% 0.30%

金、原油及び商品などコモディティの注目度が高まっています。過剰流動性が商品市場に流れ込むということが市場で話題になっていますが、こうした動きを反映した結果とみることができます。あわせてETFの注目度が上がっているのは、株式市場のインデックス型ETFへの関心というよりは、むしろこうしたコモディティ関連の市場に連動するものがたくさん出始めているからかと思います。例えば、ハイブリッドカーや電気自動車の普及で注目を集めているレアメタルなども、ETFを利用すればその値上がりを狙う投資が可能です。もちろん、穀物などの値上がりを狙うこともできるETFもあります。今回のアンケート結果から見えてくるのは、そんな個人投資家の新しい目線なのかも知れません。 

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。

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