はじめに
今回のアンケート集計期間は9月27日(月)~9月29日(水)の3日間です。6年半ぶりに行われた政府日銀による介入によっていったんは86円近くにまで押し戻された為替水準ですが、その効果が早くも剥落し、再び84円台を維持することさえも難しい印象が漂う期間に今回の集計が行われましたが、個人投資家の視線は為替動向よりも違うところにあるようにも見えました。
それはずばり政治と外交。投資に対するリスク許容度は全般に上がってきたようですが、その一方で緊張高まる日中関係を映して中国への注目度合いが激減しています。その落ち込み方はリーマン・ショック直後の不安感が高い頃の新興国市場への評価と似ていますが、ファンダメンタルには尖閣諸島問題絡みの話しか材料が見当たりません。それはすなわち政治と外交に目線が行っている証左です。10月1日から始まった臨時国会の行方がおおいに気になるところとなってきました。今回の楽天DI集計結果も、皆さまの今後の投資のご参考にして頂ければ幸いです。
楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆
1.日経平均の見通し
個人投資家の見方「過去1年間では前回の調査に次ぐ2番目の弱気を維持、ただしやや回復の兆しあり」
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Q1:9月27日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △29.41
(8月30日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △40.40) -
Q2:9月27日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △12.97
(8月30日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △18.77)
今回の基準日となった2010年9月27日の日経平均株価の終値は9,603.14円です。前回アンケートの“超”がつくほど弱気な結果とまではなりませんでしたが、今回も引き続きかなりな弱気を維持しています。短期的な見通しについては、過去1年間の集計結果の中で前回に次ぐ2番目の弱気水準です。前回と今回のファンダメンタルズの一番大きな違いは「首相が決まった」ということです。先行きが見えるか見えないという意味では我が国のリーダーが決まったわけですから、前回に比べればやや状況は改善しても良いはずなのですが、それでも我が国の先行きに立ち込めている暗雲を振り払うほどのインパクトはやはりなかったようです。
まず考えられることは、第二次菅内閣が市場の不安を払拭できるほどに期待はされていないということです。もし抜群の指導力を持って日本の景気回復をリードするだろうと市場が期待を寄せているとするならば、今回の結果を見るまでもなく、すでに株価は上昇しているはずですが、現実には株価は下がり、アンケートの結果も芳しくありません。つまりこれが現政権への市場の評価ということになると思います。
さらにそうしたムードを助長する事件が、尖閣諸島沖で発生した中国漁船と海上保安庁の巡視船の衝突事件ですが、民主党政権発足後1年が経ち、普天間問題の行方と合わせて日本の外交問題処理能力が問われています。これは単独で日本が介入に踏み込んだ為替動向にも映っており、戦略的に外交政策を構築している中国を垣間見る一方で、日本のそれは無策に等しいと誰の目にも映ったものと思われます。
すなわち、中国はその人民元為替政策については米国から散々「不当に安く放置されている」と指摘され続けながらも、のらりくらりとそれを交わしてきました。にもかかわらず、日本が単独で為替介入に踏み切り、そしてこの中国漁船の衝突事件がヒートアップしてくると、今度はそれに歩調を合わせるように人民元水準を切り上げてきました。つまり、経済政策面においては米国に対して恭順の意を示す代わりに、日本との問題については余計なことをするなよという意思表示の外交です。普天間問題で米国との関係をこじらせ、その一方で、隣国中国とも揉め事を起こしても成す術もない日本と比べれば遥かに手練手管に長けた感じがします。これらがあいまって、民主党代表選挙終了後も市場が新政権誕生を好感して上昇できない理由のひとつがここにあると思われます。
2.為替相場の見通し
ドル/円 | ユーロ/円 | 豪ドル/円 | |
---|---|---|---|
9月27日 | DI=△31.67 | DI=△17.80 | DI=+3.17 |
8月30日 | DI=△21.78 | DI=△21.63 | DI=+8.45 |
調査時点の円/ドルは84.15円、円/ユーロは113.26円です。前回時点に比べると対ドルでは約1円の円高、対ユーロでは逆に約5円の円安になったにもかかわらず、アンケートの結果は対ドルの円高見通しを強め、対ユーロはわずかに円高見通しを弱めています。対豪ドルでは再び円安志向に傾き、豪ドルが資源国通貨であることの強みを見せています。
問題は対ドルにまずは尽きます。政府日銀は9月15日に、じつに6年半振りの為替介入を行いました。すでに緊急レポートでもお届けしているように抜群のタイミングでそれは行われたと思われますが、やはり市場が予想していた通り、単独での介入効果は長続きせず、介入からおよそ2週間目に当たるアンケート集計期間においては、その効果がすでにほとんどなくなっていたという状況です。ただそれでもなお、集計結果からみればまだこの水準からさらなる円高を見通しているというのはとても興味を引く結果です。つまり市場は前回15年振りの高値となった82円台への再トライの可能性を真剣に考えているということだと思います。じつはこの△31.67という水準は2009年1月以来のものですから、その円高見通しは相当強いと思われます。
3.今後注目する投資先
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
アメリカ | 20.21% | 20.34% | ↓ △0.13% |
EU諸国 |
8.60% |
8.17% | ↑ 0.43% |
ブラジル | 45.70% | 38.83% | ↑6.88% |
ロシア | 6.49% | 8.17% | ↓ △1.68% |
インド | 55.20% | 45.56% | ↑ 9.64% |
中国 | 27.30% | 40.69% | ↓ △13.39% |
中東・北アフリカ | 6.18% | 8.31% | ↓ △2.13% |
東南アジア | 33.63% | 32.81% | ↑ 0.83% |
中南米 | 7.54% | 8.88% | ↓ △1.34% |
東欧 | 4.07% | 3.58% | ↑ 0.49% |
市場が気にしているものが外交問題と申し上げた理由のひとつがここにあります。ご覧いただけますように今まで常に注目の的だった中国への注目度合いが激減しました。これはこの個人投資家サーベイを始めた2008年10月以来の低水準であり、ピークの半分以下です。2008年10月といえば正にリーマン・ショックに市場が怯えきった時ですから、その時の水準まで激減したということは、いかに市場を見る個人投資家の目に今回の中国漁船の衝突問題が大きな影を投げ掛けたのかが見て取れます。
その傍らでブラジルやインドが急上昇しており、中国からの振り替え先ということになるのか、あるいは新規に注目したいと思っているのかは解りませんが注目が引き続き成長著しい新興国にあることが見て取れます。
4.今後注目する投資商品
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
国内株式 | 66.37% | 60.89% | ↑ 5.48% |
外国株式 | 29.56% | 26.07% | ↑ 3.49% |
投資信託 | 30.32% | 26.50% | ↑ 3.81% |
ETF | 15.23% | 14.04% | ↑ 1.19% |
FX(外国為替証拠金取引) | 23.83% | 24.36% | ↓ △0.52% |
国内債券 | 7.84% | 5.73% | ↑ 2.11% |
海外債券 | 13.57% | 11.32% | ↑ 2.26% |
金 | 17.65% | 16.91% | ↑ 0.74% |
原油 | 3.92% | 5.30% | ↓ △1.38% |
商品 |
4.22% |
5.16% | ↓ △0.93% |
REIT | 9.35% | 8.74% | ↑ 0.61% |
CFD | 3.77% | 4.44% | ↓ △0.67% |
前回、極端に低下したリスク資産へ対する興味がやや回復してきたように思われます。国内株式+5.48%、外国株式+3.49%、そして投資信託も+3.81%の対前回比アップとなっています。投資家は再びある程度のリスクテイクに前向きになって来たようです。原油が△1.38%と大きいのは、原油価格のボラティリティが最近無くなってきているからなのか、この先冬の需要期を控えても価格が低下すると考えているのか、ちょっと判断は微妙な感じです。
「DI(Diffusion Index)」とは
景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替 DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。
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