5年に1度の党大会の日程がついに発表。第20回党大会はなぜ重要なのか?

 8月30日、中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局が会議を開き、10月16日に第20回党大会を開催する旨を発表しました。5年に1度の党大会です。

 中国政治の研究をなりわいとする私自身にとって、この党大会以上に重要な分析の対象はないといっても過言ではありません。身が引き締まる思いです。

 今回の党大会がなぜ重要なのか。改めて思考、整理すると、3点に集約できると思います。

(1)「前途多難」といえる国情、国勢の中で迎える党大会だから

 2022年は中国にとってまさに多難の年だと現時点でも総括できます。人権問題で物議を醸す中で開幕した北京冬季五輪、その20日後にはロシアによるウクライナ侵攻、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う都市封鎖(ロックダウン)、景気の低迷、ナンシー・ペロシ訪台による台湾海峡の緊張、米中対立の激化、猛暑と電力不足…一つの困難が過ぎ去れば、あるいは過ぎ去らないうちに新たな困難が襲いかかる。まさに前途多難といえる状況なのです。

(2)新時代における習近平政権の権力基盤が試される党大会だから

 習近平(シー・ジンピン)総書記、国家主席、中央軍事委員会主席の続投、3期目突入が「焦点」という報道が散見されます。私の理解では、それ自体は既定路線であり、問題はその路線の内訳です。習氏は新政権をどんな体制で迎えるのか、掲げる国家戦略・目標や人事から、習政権としての権力基盤がどれだけ強固なのかが見えてくると思います。

(3)中国の今後の発展の在り方と方向性を左右し得る党大会だから

 今回の党大会を通じて、政治構造、イデオロギー、経済政策、市場動向、対外関係、軍事目標、台湾問題などを含め、これからの5年、10年、15年の中国がどのように歩むのか、すなわち現状維持なのか、変革するのか、どんな盛衰の軌道をたどるのかが見えてくると思います。

なぜ10月16日開幕なのか?景気と人事を巡る微妙な関係

 日程に関して、開幕日から47日前の発表は自然な流れだと理解しています。10月16日という開幕日も、「早めの開催なんだな」という第一印象がありましたが、決して異例ではありません。過去数回の党大会スケジュールを振り返ってみたいと思います。

第16回大会     2002年 11月8~14日
第17回大会 2007年 10月15~21日
第18回大会  2012年 11月8~14日
第19回大会 2017年 10月18~24日
第20回大会 2022年 10月16日開幕
筆者作成

 ご覧の通り、党大会は5年に1度、基本、秋(9~11月)に開催されてきました(1949年の建国後で見ると、1969年の第9回大会が4月、1973年の第10回大会と1977年の第11回大会が8月に開催されている)。一点だけ、第16回大会以降、11月と10月が交互に来ていた経緯から、今回は11月かなと予想していた側面もあったので、上記の第一印象とも重なりますが、「おお、10月なんだ」、「習さん的には早くやってしまいたいんだな」という感想を抱いたというのが正直なところです。

 閉幕時には今回の党大会を経た新たな指導体制の全貌と内訳が相当程度明らかになりますが、その時、なぜ10月という時期の開催を決定したかが分かる気がしています。この点、党大会閉幕後、検証作業を加えたいと思います。

 10月16日開幕に関して、1点指摘すると、2022年7-9月期の主要経済指標(国内総生産、固定資産投資、社会消費品小売総額など)の統計結果が10月18日に発表される予定で、それよりも前に開幕したいという思惑が党指導部にはあるのではないかと推察しています。先週のレポートでも検証したように、新型コロナの感染拡大に伴うロックダウンや猛暑による電力不足などを背景に、足元の景気は芳しくなく、7-9月期においても、0.4%増という市場予想を下回る結果に終わった4-6月期からの劇的なV字回復は期待できそうにありません。

 そんな中、市場の予想や世論の期待を裏切るような統計結果が発表されてから開催するよりも、それより前に開催してしまうほうがダメージコントロールはしやすくなると考えているのでしょう。というのも、党大会の閉幕時(10月22日の見込み)に指導体制をめぐる新体制がお披露目になりますが、私の見方では、遅くとも開幕時には新体制の人事が相当程度固まっています。要するに、7-9月期の経済統計が発表される頃には、党人事が基本的に確定している、言い換えれば、7-9月期の景気がどれだけ悪かったとしても、人事に影響することは原則ないということです。

 ここで、「相当程度」、「基本的」、「原則」という類の言葉を連発したのは、特に多難の年である2022年に開催される、中国の今後の方向性を左右し得る第20回党大会をめぐるあらゆる事象や局面には、外部からは計り知れない不確定要素がうごめいていると考えるからです。中国問題(政局、市場、世論、対外的な動きなど)を巡って、断定は禁物だと考えるゆえんでもあります。

党大会に向かう中で緊迫するゼロコロナVS経済成長。勝つのはどっち?

 習政権として、足元、および近未来の経済情勢を楽観視していないということです。党大会の日程発表を受けて、全国各地で新型コロナの感染拡大予防措置が厳格化されています。広東省深セン市では多くの施設が閉鎖され、遼寧省大連市でも数百万人がロックダウンの対象となっています。首都北京周辺でもコロナ対策が強化されています。

 党大会までの期間、ゼロコロナと経済成長の関係性はかつてないほどに微妙で緊張したものになるでしょう。というのも、本連載で適宜検証してきたように、政治の季節である2022年に経済成長は必須。経済の成長こそが政治の安定を生むからです。今年の全人代において、「5.5%前後」という多くの関係者の予想を上回る成長目標が設定されたのも、政治の季節だからこそ、です。

 ただでさえ足元の景気が上向かない中、これからの1カ月半、中央、地方政府はあらゆる方策を尽くして景気を改善しなければならない。そして、そのプロセスにとっての最大の不安要素がゼロコロナ策、特にロックダウンをはじめとした厳しい措置に他なりません。要するに、党大会までに経済を良循環で回していくためには、厳格なコロナ抑制措置は取るべきではない、これが経済の論理です。

 一方、党大会までの1カ月半が政治の論理に覆われる、支配される、というのも中国政治の真実です。上記の(1)~(3)で整理したように、これほど重要な今年の党大会を、新型コロナの感染拡大が進む中で迎えるわけにはいかない、仮にそうなれば、最大の政治儀式の「偉大性」にヒビが入ってしまうというのが党指導部の立場です。

 要するに、これからの1カ月半、ゼロコロナと経済成長という2大イシューがかつてないほどの緊張関係の下「綱引き」を展開する、その過程で、政治の論理が経済の論理に優先する、ゼロコロナが経済成長を凌駕(りょうが)する確率が高いということです。

 これからの1カ月半、中国政治経済を巡って予断を許さない状況が続くでしょう。来週は、第20回党大会の見どころを、人事を中心に解説したいと思います。乞うご期待。

マーケットのヒント

  1. 10月16日に開幕する党大会は中国の将来を占う上で決定的に重要
  2. 足元の景気は党大会の日程調整を左右するほど予断を許さない状況
  3. ゼロコロナと経済成長の間で展開される「綱引き」に注目