はじめに
今回のアンケート集計期間(8月30日(月)~9月1日(水))は、まさに直近の急激な円高・株安に対して政府・日銀がどのような対応をするかに視線が集まっていた時であり、また初日の30日は日銀が追加の金融緩和措置を発表した上に、夕方には菅首相が経済対策を発表したちょうどその時ですから、市場がそれらをどう受け止め、また今後にどの程度の期待を抱いているかを垣間見ることができました。
総論としては「やっぱり期待していないんだ」という感じに見えます。私のメルマガでもお伝えしている通り、市場には諦めムードがあります。すなわち、政府・日銀としては市場の動向をかなり強く意識した上でソリューションを発表したつもりにもかかわらず、『楽天DI』の結果が示しているのは「リーマン・ショック以降で過去最高の弱気」であり、悲観と言うよりも、むしろそれは市場の怒りに近いようなものだと感じるからです。そして個人投資家はリスク回避的な姿勢をかなり強めているという結果になりました。
市場が示しているのは、賛成(買い)と反対(売り)といった選挙結果にも等しいものです。この先これらがどう変化していくのか、市場参加者の一人としても目が離せない展開は当面続きそうです。今回の『楽天DI』集計結果も、皆さまの今後の投資のご参考にして頂ければ幸いです。
楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆
1.日経平均の見通し
個人投資家の見方「政府や日銀の円高・株安対策にかかわらず、リーマン・ショック以降、過去2番目の弱気に傾く」
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Q1:8月30日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △40.40
(8月2日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △14.68) -
Q2:8月30日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △18.77
(8月2日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △5.13)
今回の基準日となった2010年8月30日の日経平均株価の終値は9,149.26円です。じつはこの日は午前中に日銀が9月6日、7日に行われる金融政策決定会合に先立ち、臨時の政策決定会合を行い追加の金融緩和措置を発表した日であり、またその夕刻には菅首相が追加の経済対策を発表した日でもあります。市場はそれまで政府・日銀に対して、財務相の「注意深く注視している」という口先介入だけでなく、円高・株安対策としての具体的なアクションを示せと催促していた最中であり、その答えとして10兆円の追加金融政策が発表され、新卒扱いを既卒3年目までとするなどの雇用対策を含む経済対策が発表されました。これを受けて市場は前営業日対比で一時250円を超える値上がりを見せる場面もありましたが、この日を基準日としたアンケートの結果はその真逆ともいえるリーマン・ショック以降で過去2番目の弱気に傾くというものでした。
日銀が追加の金融緩和策を発表したのは取引時間中でしたが、菅首相が経済対策を発表したのは夕方です。ただし、夕方に「円高に喘ぐ東京都大田区の中小企業を視察に行った先で記者会見方式ではなく、いわゆる"ぶら下がり方式"で発表する」というような演出を予告したのは取引時間中でした。それらをすべて踏まえての今回のアンケート結果ですが、DIの示す数値「△40.40」は2008年10月6日に行った初回の楽天DI時データ「△48.21」に次ぐ弱気を示すものです。この次に弱気、つまり集計開始後3番目となる時は2009年1月26日の「△40.02」で、これはオバマ大統領が就任された直後に材料出尽くし感もあって市場が急落した時となります。今回はそれほど「弱気」ということになります。
今回の株安の最大の理由は15年ぶりの水準にまで達している円高であり、政府・日銀が有効な円高・株安対策を具体的に打ち出せないままに、無為無策の時が過ぎて行くだけということが背景にあります。それもそのはず、すでにゼロ金利に近いところまで金利を引き下げている日銀にとっては、円高対策のための金融緩和措置と言っても切れるカードはもうないに等しく、一方で政府の状況と言えば9月14日の民主党代表選に向かって党が真っ二つに割れて思い切った経済対策など出せようはずがないという状況にあるからです。
こうした流れを背景に、株価は瞬間的に吹き上がったものの、為替市場では、結局円高が阻止できないという状況が続き、こうした弱気のアンケート結果が出たものと思われます。ただこれが正しいとすると、9月14日以降に政府民主党が代表選の結果にかかわらず、掌を返したように挙党態勢を構築して限られた財政の中で有効な手段を打ち出してくると考えるのは楽観的すぎましょう。当面は国内要因以外の円高・株安対策になるものを市場は模索する展開が続くのかも知れません。3カ月DIが△18.77というのも、前述のオバマ大統領就任直後のアンケート時に次ぐ弱気のものです。
2.為替相場の見通し
ドル/円 | ユーロ/円 | 豪ドル/円 | |
---|---|---|---|
8月30日 | DI=△21.78 | DI=△21.63 | DI=+8.45 |
8月2日 | DI=△14.20 | DI=△2.83 | DI=+11.58 |
調査時点の円/ドルは85.11円、円/ユーロは108.35円です。と言っても、これは新聞等で確認できる17時現在の東京市場の終値で、この後ロンドン市場に入ると再度円高が加速し、翌31日には15年ぶりの円高水準となる83円台へ突入する結果となりました。5月の連休当時の為替水準は94円台から95円台ですから、わずか4カ月で10円程度円高に動いたことになります。その頃のユーロの水準は126円から127円台ですから、対ユーロでは約20円近い円高が進んだことになります。さすがにここまで円高に動くと企業収益への影響は大きくなるだろうと予想するのは難しくないですが、現状、円高対策の具体案を市場は確認できていません。そしてここからさらなる円高を予測しているというのは、すなわちそれは95年4月19日に付けた最高値79.75円を強く意識しているということだと思われます。
じつは、今回の調査結果の特徴のもうひとつの一面は、11カ月ぶりに対豪ドルでも円高を示唆する結果になったということです。このところ一貫して資源国通貨に対しては強気の見方が続いたのですが、今回久しぶりにDIがマイナスになっただけでなく、水準で言うならば2009年4月の水準にまで逆戻りしているという感じです。これは投資家のリスク許容度が低下したという見方と、リスク回避的な姿勢に傾いたという両方の見方ができるものと思われます。
3.今後注目する投資先
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
アメリカ | 20.34% | 21.00% | ↓ △0.66% |
EU諸国 | 8.17% | 8.47% | ↓ △0.31% |
ブラジル | 38.83% | 42.36% | ↓ △3.54% |
ロシア | 8.17% | 9.55% | ↓ △1.38% |
インド | 45.56% | 44.75% | ↑ 0.81% |
中国 | 40.69% | 39.26% | ↑ 1.43% |
中東・北アフリカ | 8.31% | 6.21% | ↑ 2.10% |
東南アジア | 32.81% | 30.31% | ↑ 2.50% |
中南米 | 8.88% | 8.95% | ↓ △0.07% |
東欧 | 3.58% | 3.58% | → 0.00% |
まず結果で目に留まるのが、ブラジルの注目度が低下したことです。2014年のサッカー・ワールドカップ、2016年の夏季オリンピックと注目が集まることもあってブラジル・レアル建て債券の販売も各金融機関では好調のようですが、そうした現実とは裏腹にブラジルへの注目度合いが下がったということは、前述した豪ドルのDIがマイナスに転じたことと合わせて市場がリスク回避的になっていることのひとつの証左かと思われます。ただ一方で、中国や東南アジアはプラスとなっており、投資家の目線が目先少しずつ変化していることを示唆しているのかも知れません。
4.今後注目する投資商品
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
国内株式 | 60.89% | 64.44% | ↓ △3.55% |
外国株式 | 26.07% | 30.79% | ↓ △4.71% |
投資信託 | 26.50% | 33.53% | ↓ △7.03% |
ETF | 14.04% | 18.85% | ↓ △4.81% |
FX(外国為替証拠金取引) | 24.36% | 21.00% | ↑ 3.35% |
国内債券 | 5.73% | 5.49% | ↑ 0.24% |
海外債券 | 11.32% | 13.37% | ↓ △2.05% |
金 | 16.91% | 19.33% | ↓ △2.43% |
原油 | 5.30% | 6.32% | ↓ △1.02% |
商品 | 5.16% | 4.30% | ↑ 0.86% |
REIT | 8.74% | 9.90% | ↓ △1.17% |
CFD | 4.44% | 4.89% | ↓ △0.45% |
今回の結果で最大の問題と思われるのが、国内株式への注目度が過去最低を更新したことです。本アンケートが、銀行など他の金融機関の主催しているものならば別ですが、大手ネット証券のお客様向けのアンケートでこの結果と言うのは、株式市場に関わる者としてかなり憂慮すべき現実を突きつけられた感じ致します。
ただFX、国内債券、商品を除いてほぼ総ての投資分野が前回比マイナスであるところを見ると、恐らく投資家のリスク許容度が落ちている、あるいはリスク回避的になっているという説明が最も的を射たものとなるだろうと思います。もし質問項目に「銀行預金・郵便貯金」という欄を増やしていたら、きっと大きくプラスになったのではないでしょうか。いずれにしても、投資家の皆さんが安心してリスク・テイクできるような環境が早く回復することを願うばかりです。
「DI(Diffusion Index)」とは
景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替 DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。
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