はじめに

今回は毎月恒例のアンケート集計期間(7月26日(月)~7月28日(水))の初日に東証の売買代金が9,492億円と1兆円割れの超低水準という状況になったため、あらためて緊急アンケート項目を加えて再調査させて頂きました。お手数をお掛けしましたが、皆さまのご協力に心から御礼申し上げる次第です。

集計期間は8月2日(月)~8月4日(水)の3日間です。それは日本企業の第一四半期決算の発表が峠を越え、市場の注目が米国経済に向かい、10年国債の金利が1%割れを7年振りに示現するのかという環境下で今回の集計は行われました。実際、アンケート結果を取り纏めている時点(8月4日)、長期国債の指標銘柄である第309回債は1%を割れ0.995%をつけました。しかし、それでもなおまだ債券市場に買い疲れ感はなく、さらなる長期金利の低下が見込まれているのが状況です。

市場に参加されている個人投資家の皆様の貴重なご意見は今後の市場動向を考える上で極めて重要な判断材料を提供して頂いているものと考えております。今回の楽天DI集計結果も、皆さまの今後の投資のご参考にして頂ければ幸いです。

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

緊急アンケートの結果から

冒頭、ご案内のように売買代金が極めて低調な状況が続いています。今年度に入り6月初め頃まではまだ回復の兆しとして2兆円を超えることも度々あったのですが、7月は1日の売買代金が1兆円を下回った日が2日あり、ちょうどアンケートの集計開始初日も9,492億円と低調なものとなりました。そこで今回は特別な設問を用意し、皆さまの最近の売買動向とそのポイントをお答え頂きました。

1. 1カ月前(6月28日)と比較して、お客様が日本株式の取引頻度は変化しましたか?(1つだけ選択)

1. 取引の頻度は変わらない 26.73%
2. 減少している 34.73%
3. 全く取引していない 30.55%
4. 増加している 8.00%

ご覧いただけるように、「2. 減少している=34.73%」と「3. 全く取引していない=30.55%」とを合せると7割近い投資家の方が市場から距離を置く形になっていることが浮き彫りになりました。これでは市場の売買代金が低調を極めることも頷けます。では「なぜ?」投資家は市場と距離を置くようになっているのでしょうか?

2. 取引しないもしくは、取引をしないと思われる理由は何ですか?(1つだけ選択)

何と40.33%もの方が「余裕資金がないため」という解答を選択されています。「ナンピン」もしくは「買い下がり」などというのが市場の下落局面では一般的な投資行動となりますが、キャッシュ・ポジション(余裕資金)が低くなってしまっていては動けません。もしそうならば、いずれにしてもこの狭い範囲のボックス圏を上下どちらかに抜けない限りは引続き夏枯れ相場が続く可能性が高そうです。
その他の回答例については、あえて日本株自体の魅力低下を質すものとして設定してみました。

「日本株に将来性を感じないため=23.51%」と「政治が安定していないため=21.00%」の個々の比率としてはまだ許容範囲かと思いますが、ただ合せるとやはり半数近くの人が根本的な部分で日本に魅力を感じられなくなっているのかも知れず、証券市場に関わるものとしては気になる結果となってしまいました。「各社の決算が揃うまで様子を見ている」が一番の理由で有れば、もうまもなく動き出すとも考えられたのですから。

通常の楽天DIの結果から

1. 日経平均の見通し

個人投資家の見方「短期弱気センチメントは前月と変わらずも、中期見通しが1月調査以来の弱気に傾く」

  • Q1:8月2日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △14.68
    (6月28日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △16.09)
  • Q2:8月2日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △5.13
    (6月28日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +3.64)

今回の基準日となった8月2日の日経平均株価の終値は9,570.31円です。毎回1カ月先と3カ月先の見通しについてお伺いしていますが、3カ月先の見通しの方が対前月比で9ポイント近く低下してマイナスになったことが気になります。このところの傾向からすると、短期的にはセンチメントは下振れしても、先々には回復するだろうという結果になることが多かったのですが、今回は1カ月先の見通しにあまり変化がないにもかかわらず、3カ月先の見通しが大きくネガティブに振れる結果となりました。こうして変化が起こったことは過去にありません。3カ月先のDIがマイナスになるのは2010年1月25日の調査以来で、水準は昨年9月末(△3.38)をもさらに下回るものです。

国内企業の第一四半期決算の発表は峠を越え、市場が危惧していた前提為替の修正を行ってもなお上方修正を行う企業があるなど、総じてポジティブな印象の決算内容であったにもかかわらず、それでもなお3カ月先見通しがネガティブに振れたことは、市場は世界景気の2番底懸念を払拭し切れていない、というよりもう一度マクロが落ち込むことを危惧していることを示しているかに思われます。週末に発表される米国7月の雇用統計が気になるところですが、すでにそれらの悪化を見越して債券市場では長期国債309回債が1%割れをつける状況となっています。

2. 為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
8月2日 DI=△14.20 DI=△2.83 DI=+11.58
6月28日 DI=△6.51 DI=△21.07 DI=+10.15

調査時点の円/ドルは86.72円、円/ユーロは113.39円です。前回との大きな違いはドルとユーロに対する見方が逆転したことです。為替の水準的には前回調査時点とそう大きな変更はなく、むしろドルがより売られた状況(円高)となっているのですが、市場はドルがさらにまだ売られることを見ているようです。これは前述の株式市場のDIにもリンクしますが、衰えたとはいえ未だ世界最大のGDPを誇る米国経済のマクロ悪化を読み込んでいるように思われます。米国でさらなる金融緩和が行われることで、日米の金利差がさらに縮小する、そしてさらに円高が進むという見通しがあるかと思われます。

一方、このアンケートの初日には欧州系金融機関が予想外の高収益を発表したことで、ギリシャ問題から始まった欧州金融危機やソブリン・リスク問題はいったん影を潜めたのかも知れません。これがユーロへのネガティブな印象を更に和らげているとも言えます。そして前回同様、資源国通貨の見通しは強いままが続いています。

3. 今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 21.00% 17.05% ↑ 3.95%
EU諸国 8.47% 9.00% △0.53%
ブラジル 42.36% 42.34% ↑ 0.03%
ロシア 9.55% 7.66% 1.88%
インド 44.75% 44.44% 0.30%
中国 39.26% 40.80% ↓ △1.54%
中東・北アフリカ 6.21% 5.36% 0.84%
東南アジア 30.31% 30.84% △0.53%
中南米 8.95% 10.54% △1.59%
東欧 3.58% 3.07% 0.51%

米国マクロの状況に市場の注目が集まり、さらなる金融緩和が期待されるような悲観見通しが強い中で、対前月比では米国への注目度合いが4%近い回復を見せたのは興味深い結果です。つまり悪い話が足元では出ると思われるが、それに対する金融緩和措置などがさらに講じられることで、米国経済の回復が期待できるということなのかも知れません。事実、個別企業の決算状況で見る限りにおいては状況が大きく改善しており、ドル安を通じた外需の取り込みがさらに企業収益を支援するという流れがあります。

これは欧州経済においても同様で、5月と6月には叩き売られたユーロの恩恵を、ドイツ自動車産業などは自国通貨安メリットとして大きく収益向上に繋げており、同様な流れが米国にも齎されるという見方ができます。逆に中国やブラジルへの人気トーンにやや陰りが出てきたようにも見えます。

4. 今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 64.44% 66.86% △2.42%
外国株式 30.79% 27.78% 3.01%
投資信託 33.53% 32.38% 1.16%
ETF 18.85% 17.05% 1.80%
FX(外国為替証拠金取引) 21.00% 20.50% 0.50%
国内債券 5.49% 7.66% △2.17%
海外債券 13.37% 13.41% △0.04%
19.33% 19.35% △0.02%
原油 6.32% 5.17% 1.15%
商品 4.30% 4.79% △0.49%
REIT 9.90% 10.73% △0.82%
CFD 4.89% 4.60% 0.29%

国内株式と国内債券の注目度合いが落ちています。国内債券はさすがにこの10年国債の金利が1%を割るような超低金利の状態では、ここから買い増しを考える個人投資家が少ないというのは頷けます。ただ、そうした低金利状態になっても、国内株式の注目が上がらないというのはもっと違う構造上の問題を意識した根の深いテーマがあるようにも思われます。

一方、外国株式の注目度合いは上がっています。前項の注目する投資先で米国が人気を回復していますので、これはETFも含めて米国市場に関するものが投資対象として物色されているという意味とも受け取れます。また再びWTIで80ドル台に入り始めた原油が商品の中で注目度合いを上げているのが目にとまります。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。