米国のインフレピークアウト期待高まり、日経平均は2万9,000円台を回復

 直近1カ月(7/15~8/19)の日経平均株価は8.0%の上昇となりました。期間中は大きな調整場面もなく、上昇基調が続く形になっています。8月12日には6月9日の戻り高値水準2万8,389円を突破し、8月17日には1月以来の2万9,000円台を回復、2万9,222円にまで上昇しています。

 同期間のダウ工業株30種平均は7.7%の上昇であり、ほぼ米国株式市場と連動する動きになりました。また、マザーズ指数は同期間で10.4%の上昇となっています。

 米国の7月ミシガン大消費者信頼感指数の長期期待インフレ率が1年ぶりの低水準となったほか、7月27日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では予想通りに0.75%の追加利上げが決定されましたが、ジェローム・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が今後の利上げペースについて慎重な姿勢を示したこともあり、今後の金融引き締めの動きが緩和するとの期待につながりました。

 また、4-6月期決算発表シーズンに入り、警戒された米IT企業の決算が想定ほど悪化しなかったことも買い安心感を強めさせました。

 日経平均2万8,000円レベルでは、一時戻り売りに上値が重くなる場面も見られましたが、8月半ばにかけては再度騰勢を強める動きとなっています。これは、10日、11日に発表された米消費者物価指数や生産者物価指数がそろって市場想定以上に減速したことで、インフレピークアウトへの期待があらためて高まったためです。

 米雇用統計の上振れ、米小売企業の底堅い決算を受けて、景気の先行きに対する過度な警戒感も後退したようです。なお、決算発表も含めて、国内要因による株価変動は限定的でした。

 この期間の上昇率上位には、決算発表が本格化したタイミングでもあり、好決算発表銘柄が名を連ねています。ラウンドワン(4680)FPG(7148)イリソ電子(6908)寿スピリッツ(2222)加賀電子(8154)KeePer技研(6036)ダブルスコープ(6619)などが決算発表後に急伸して30%以上の上昇となっています。

 一方、東京電力(9501)東北電力(9506)などを筆頭とした電力株、東邦ホールディングス(8129)スズケン(9987)アルフレッサ(2784)など医薬品卸企業が下落率上位となっています。決算が想定以下となった小野薬品(4528)キッセイ薬品(4547)など医薬品の一角も軟調でした。

 ほか、主要企業の決算と株価動向ですが、日本電産(6594)は決算後に軟化しましたが、その後は地合い好転で切り返しました。村田製(6981)ルネサス(6723)ソニー(6758)トヨタ(7203)なども同様の動きとなりました。ファナック(6954)信越化学(4063)TDK(6762)などは好決算がストレートに評価されました。

 川崎汽船(9107)など大手海運株も業績上方修正や増配を発表して買い優勢になりました。一方、小糸製(7276)デンソー(6902)などトヨタ系の部品メーカーにはネガティブな決算が目立った印象です。

インフレピークアウト期待続く公算、中間決算月に入り権利取りによるバリュー株物色も

 目先の注目イベントとしては、8月26日にジャクソンホールにおいてパウエルFRB議長の講演が予定されています。米金融政策の行方を占うものとして、毎年この時期に注目されるイベントになっています。

 株式市場の上昇局面においては、FRB高官のタカ派発言が目立つようになりますが、現在もまさしくその状況にあり、パウエル議長発言もインフレ抑制に向けた強い示唆が見込まれます。

 ただ、原油市況の低下もあって、世界的にインフレはピークアウトの方向にあり、タカ派姿勢がとられたとしても、株価へのネガティブインパクトは限定的とみられます。米国では過度な景気減速懸念も後退しつつあり、当面は押し目買いが集まりやすい状況になるものと考えます。

 米国株に追随する形で、日本株も目先は堅調な展開が続く見通しです。2021年9月以来の3万円台回復も十分に視野に入るとみられます。日本株固有のリスク要因としては、まずは為替円安の揺り戻しが挙げられます。

 インフレピークアウト観測が米長期金利の低下につながり、これがドル安円高への転換を誘う可能性はあるでしょう。ただし、その場合でも、自動車関連業界など一部への影響にとどまるものとみられます。

 一方、参院選が無難に通過したことで、岸田文雄政権の長期安定化が見込まれています。今後、財政再建策への比重が高まること、分配政策が強く推し進められることは、株式市場にとってネガティブに効いてきます。

 金融所得課税の見直しなども中期的に大きなリスク要因といえるでしょう。現在は旧統一教会問題が逆風となっており、こうしたリスク要因は表面化しにくいでしょうが、これが一段落した後の政策運営には引き続きリスクが大きいと考えます。

 新型コロナ感染者数がピークアウトしつつある局面に入り、あらためてリオープニング関連には関心を高めたい場面といえます。とりわけ、今後の緩和策においては、インバウンド需要の回復などに期待が向かう可能性もあるでしょう。また、今回の決算で当面の悪材料は出尽くしたとみられる自動車関連なども注目されます。

 円高反転リスクは残るものの、部材調達の正常化による挽回生産の本格化タイミングは接近していると考えられます。足元の受注が好調でも、先行きの失速懸念が拭えない半導体関連株の行方は不透明です。ただ、東京エレク(8035)SCREEN(7735)などはPER(株価収益率)水準から十分に割安感が感じられ、長期的観点ならば投資妙味のある状況ともいえるでしょう。

 9月に入ると、配当権利取りや株主優待権利取りの動きなども強まってきそうです。タイミング的には、グロース株からバリュー株へ再度資金シフトが強まる余地もあるでしょう。

9月相場入り接近で権利取りの動きに注目

 9月相場に入ると、月末の権利取りの動きも注目されてくるでしょう。配当と同様に、株主優待も3月末と9月末を基準に実施する企業が多く、配当と優待を合わせた実質利回りの高い銘柄、あるいは、興味のある優待が得られる銘柄などに関心が高まる公算です。

 ただ、株主優待で今後注意したいのは、株主優待制度そのものをなくす銘柄が増えてくると考えられることです。2022年4月に東証で市場区分の見直しが行われ、プライム上場基準の株主数は800人以上と、これまでと比べて、株主数の基準はかなり緩やかになっています。

 株主優待制度の実施には、個人投資家の株主を増やし、株主数増加につなげることを目的とすることが大きな要因の一つになっていたと考えられます。これからは特に、QUOカードなどの配布を見直す企業が多くなりそうです。一方、自社の製品やサービスを幅広く使ってもらう・理解してもらう意図での株主優待は継続の可能性もあるでしょう。

 下表は、配当利回りが4%以上ある銘柄の中で、時価総額100億円以上、QUOカード以外の株主優待を9月末基準に実施する予定である銘柄となっています。以下に、それぞれの優待内容や足元の決算内容をまとめています。なお、利益水準と比較して極端に配当金が高い銘柄などは減配リスクが残るものとして除外しています。

(表)9月末基準に株主優待が受け取れる高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り 8月19日終値 時価総額 今期営業 増益率 9月末配当有無
9832 オートバックス 4.19 1,431.0 1,174 ▲13.4
7278 エクセディ 4.87 1,847.0 898 ▲18.2
1952 新日本空調 4.11 1,824.0 443 ▲5.5
7231 トピー工業 4.95 1,415.0 341 黒転
7638 NEWARTHD 6.58 1,520.0 253 18.9
注:配当利回り、今期営業増益率、配当性向の単位は%、時価総額の単位は億円

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが4.0%以上(8月19日終値)
  2. 9月末株主に株主優待実施
  3. 時価総額が100億円以上
  4. 優待品がクオカードのみの銘柄を除く
  5. EPS水準上回る配当計画企業や大幅減配企業除く
  6. 銀行株を除く

1 オートバックスセブン(9832・東証プライム)

 国内最大手の自動車用品店となります。タイヤやカーエレなどカー用品の販売や取付・交換サービス、車買取・販売、車検・整備などをフランチャイズで運営しています。

 8月7日現在での国内店舗数は588店舗、ASEAN地域を中心に海外事業の基盤強化も進めており、海外店舗数は67店舗となっています。海外では新規ビジネスとして、小売店舗のほかに、商品の卸売事業も拡大させています。

 2023年3月期第1四半期営業利益は15.6億円で前年同期比3.1%増益となっています。原材料価格の高騰に伴う一部商品の価格改定実施によって需要減退が懸念された中、新車減産で高まった既存車のメンテナンス需要などを獲得して、堅調な推移となっています。

 海外事業は大幅増収となりましたが、中国の一部商品在庫処分などで営業赤字幅は拡大しました。2023年3月期通期では、営業利益は100億円で同13.4%減益の見通しとしています。半導体不足によるカーエレ商品の販売減少を見込んでいるようです。なお、年間配当金は前期比横ばいの60円を計画しています。

 3月末、9月末の1年以上株式を保有している株主に対して、保有株数と継続保有年数に応じ国内オートバックスグループで利用できる商品券(オートバックスグループギフトカード)を贈呈しています。

 100〜299株で1年以上保有株主には1,000円分、300〜699株で1年以上保有株主には3,000円分、700〜999株で1年以上3年未満保有株主には7,000円分、3年以上保有株主には8,000円分、1,000株以上で1年以上3年未満保有株主には1万円分、3年以上保有株主には1万3,000円分となっています。

2 エクセディ(7278・東証プライム)

 マニュアルクラッチやトルクコンバータ(自動変速装置用部品)などを主力とする自動車部品メーカーです。25カ国に工場や営業拠点を有し、世界100カ国以上でビジネスを展開しています。EV・HEV向けなど脱炭素貢献製品の売上構成比を2030年までに15%に高めることを目標にしています。ドローン用製品、小型風力発電機などの領域にも展開しています。

 2023年3月期第1四半期営業利益は10.3億円で前年同期比75.0%減益となっています。中国でのロックダウンや半導体不足による販売先の減産の影響に加えて、原材料価格の高騰が響く形になりました。第1四半期決算発表時に通期業績予想を下方修正、営業利益は従来の185億円から150億円、前期比18.2%減に下方修正しています。

 ただ、修正計画から見ても、第1四半期がボトムと考えられ、当面の悪材料は出尽くした印象があります。なお、年間配当金は据え置きで、前期比横ばいの90円を計画しています。

 9月末時点で、1年以上継続保有している100株以上の株主に対して、3,000円相当のWEBカタログギフトを贈呈しています。2021年から、株主優待の基準日が3月末から9月末に変更されています。配当+優待のトータル利回りは年間で6.5%の水準となります。

3 新日本空調(1952・東証プライム)

 空調設備工事会社で、リニューアル分野の売上構成比が新築分野よりも高くなっています。また、国内で初めて原子炉空調を施工した実績もあり、原子力向けも売り上げの10%近くを占めています。

 世界初の全列車空調施行、全船空調施行、国内初の超高層ビル空調施行企業でもあります。中国やシンガポールなど海外でも展開しています。感染リスク低減への取り組み、AI活用の制御技術開発なども進めています。

 2023年3月期第1四半期営業利益は6.2億円で前年同期比58.0%減益となっています。売上は順調に拡大したものの、コロナ収束傾向に伴う営業活動の再開で経費が増加したほか、受注案件の引当金なども増加しました。

 通期予想は据え置いており、前期比5.5%減の65億円を計画しています。期ずれした大型案件の計上などで減益率は縮小していく見通しです。足元では、新規制基準対応案件が堅調で、原子力の受注が拡大しています。なお、通期配当金は前期比横ばいの75円を計画しています。

 9月末に300株以上保有している株主のうち、2年以上継続保有している株主には、キッズスマイルQUOカード1,000円分が贈呈されます。1枚につき50円が東日本震災被災地の子供たちを笑顔にする活動に寄付されることになります。

 また、3月末に300株以上を保有する株主には、カタログギフト2,000円相当が贈呈されます。商品には、東日本大震災の復興支援として、東北地方の特産品が含まれるもようです。社会的意義も高い株主優待であるといえます。

4 トピー工業(7231・東証プライム)

 商用車用のホイール、建設機械の履板(キャタピラ)などで世界トップクラスの実績を誇っています。米キャタピラー社からは、取引先最適品質体制において、鉱山機械用ホイール部門で最高位認証を10年連続で取得しています。

 また、H形鋼や棒鋼といった電炉生産による鉄鋼事業も行っています。海外売上比率は約3割の水準となっています。新規事業として、床下・設備点検ロボットなどの開発も行っています。

 2023年3月期第1四半期営業損益は5.7億円の赤字で、前年同期比3.1億円の損益改善となっています。建設向け鋼材需要が底堅く推移したほか、主原料である鉄スクラップ価格の下落も寄与しました。

 通期では66億円、前期比83億円の損益改善を予想、3期ぶりの営業黒字転換となる見通しです。自動車・産業機械部品事業の販売数量増加、販売価格の改善を見込んでいます。なお、年間配当金は前期比50円の増配となる70円を計画しています。

 3月末、9月末の株主に対して、交通傷害保険(交通事故によるけがが対象)の半年間の付保を行っています。

 100株以上300株未満の株主には、死亡・後遺障害保険(最高100万円)、入院特約(3,000円/日)となっており、300株以上1,000株未満の株主には、通院特約(1,000円/日)もプラスされます。さらに、1,000株以上の株主には、フラワープレゼントも行われます。

5 NEW ART HOLDINGS(7638・東証スタンダード)

 婚約指輪や結婚指輪などブライダルジュエリーの製造・販売、エステティックサロンの運営、美術品販売やオークションの運営、ゴルフ用品の販売などを手掛けています。

 ブライダルジュエリー事業では、「銀座ダイヤモンドシライシ」を国内外52拠点、「エクセルコダイヤモンド」を37拠点、エステティックサロン「ラ・パルレ」は27店舗(ともに2020年6月末)で展開しています。

 オークション事業においては、2021年7月にエスト・ウェストオークションズを子会社化しています。また、ヘルス&ビューティー研究所を立ち上げ、化粧品や健康食品の開発も進めています。

 2023年3月期第1四半期営業利益は6.1億円で前年同期比2.4倍の水準となっています。ジュエリー販売において積極的にシェアの拡大を図ったほか、アート事業も集客が増加、積極的なオークション開催なども寄与しました。

 エステ事業における販管費の抑制なども奏功したようです。通期予想は32.1億円、前期比18.9%増を据え置いています。なお、年間配当金に関しては6月に増配を発表し、従来計画の75円から100円に引き上げ、前期比25円の増配としています。

 3月末、9月末の株主に対して優待カードを贈呈。優待カードを使った2022年3月の優待内容は、国内での全ジュエリー運営店舗で使える商品割引(15%、20%)、「ラ・パルレ」で使える「全体験コース50%OFF」や契約時の優遇特典、オリジナル・ゴルフ用品購入時の20%OFFでの提供、軽井沢ニューアートミュージアム無料観覧券、子会社が開催するオークションへの出品手数料を5%で提供(通常10%)などとなっていました。