意外と使える?国内株式の信用取引との違い・共通点
2022年7月より米国株式の信用取引が解禁され、楽天証券でもそのタイミングに合わせて同サービスの提供を開始しました。これにより、従来の米国株取引と比べて投資の選択肢の幅が広がり、収益チャンスも増えることになります。
とはいえ、信用取引というのは、個人投資家にとってハードルが高いものであることも否めません。「リスクが高そう」、「元手以上の損が出る」、「仕組みが複雑でよく分からない」といった声も多く、どちらかというと、ネガティブなイメージの方が強いかもしれません。
こうした信用取引のネガティブイメージに対して、「確かに、リスクや注意すべき点もあるけれど、きちんと理解してうまくコントロールすれば大丈夫」的な説得が業界側からよく投げかけられてきたわけですが、果たして、リスクの詳細やそのコントロールの方法まで丁寧かつ十分に説明してきたのかについては、私自身の反省も含め、まだ足りない部分が多くありますし、殊更にメリットだけを強調するのもどうなのかなという思いもあります。
そこで、ここから複数回にわたって、米国株信用取引についての概要や活用、注意点などについて、初心者にも分かりやすく解説していきたいと思います。
実は「待ちわびている」投資家も多かった?米国株信用取引の解禁
冒頭でも述べたように、2022年7月に解禁となった米国株式の信用取引ですが、そもそも、外国株の信用取引の取り扱いについては法令上禁止されていませんでした。やろうと思えばずっと以前にサービスを開始することも可能だったわけです。
ただし、そのためには、取引ルールの整備や与信管理、投資家の保護などの仕組みを整備するなど、かなりの労力・コストを要します。投資家からのニーズが高まらない状況ではビジネス上、なかなかサービス開始に踏み切れなかったのですが、それがここにきて、解禁に至ったということは投資家のニーズが高まってきたことの裏返しとも言えます。
米国株で信用取引ができると、どんなメリットがあるのか?
国内株の信用取引にも同様のことが言えるのですが、一般的に信用取引のメリットとして以下が挙げられます。
1)「レバレッジ」効果…手持ち資金以上の取引、取引金額の節約が可能になる
2)「売り建て」…株価の下落局面でも収益チャンスが生まれる
3)「回転売買」…1日に何度も取引が可能
結論から言ってしまうと、「レバレッジ」よりも「回転売買」や「売り建て」が米国株信用取引で活用できる機会が多そうですが、これらの1~3について、以下で一つずつ見ていきたいと思います。
「レバレッジ」効果について…手持ち資金以上の取引、取引金額の節約が可能になる
この後のルールでも触れますが、米国株信用取引では手持ち資金の約2倍の取引を行うことができます。例えば、現物取引で100株取引できる資金があれば、同じ資金で200株取引ができるというわけです。取引の規模が大きくなれば、それだけ得られる利益も大きくなる分、発生してしまう損失も同様に大きくなります。
また、別の見方をすれば取引金額の節約も可能です。例えば、1万ドルの手持ち資金があり、買いたい銘柄も1万ドルだった場合、手数料などのコストを考慮しなければ、そのまま現物取引で買うことができますが、その時点で手持ちの資金を全て使ってしまうことになります。
そこで、信用取引を活用すれば、1万ドルの株を半分の5,000ドルで買うことができ、残った5,000ドルで他の銘柄を取引したり、事態が急変した時の余裕資金にするなど、投資の選択肢を増やすことができ、資金効率は良くなります。
「売り建て」について…株価の下落局面でも収益チャンスが生まれる
また、信用取引の「売り建て」を活用することで、相場の下落局面でも利益をねらうことが可能になります。売り建てとは、「証券会社から株券を借りて売却し、株価が安くなったところで、その売却代金を使って買い戻して返済する」という取引です。
例えば、現在の株価が100ドルの銘柄Aを100株売り建てしようとします。その際、証券会社から100株借りて、銘柄Aを100ドルで売却し、この時点で、売却代金の1万ドルをいったん手にすることになります。
その後、株価が80ドルまで下落したので、この値段で100株を買い戻して証券会社に返済します。これによって、売却代金の1万ドルと、株を返済するためにかかった買い戻しの費用8,000ドルの差額分の2,000ドルが手元に残り、それが利益になります。
売り建ては、株価が下落するほど買い戻しの費用が少なくなり、利益が増えるというのがポイントです。現物株オンリーの方にとっては、「売り建て」に対して少しイメージしにくい面があるかもしれませんが、売り建てによって取引の自由度は大きくなりますし、信用取引におけるメリットの筆頭に挙げる人も多いです。
「回転売買」…1日に何度も取引が可能
そして、信用取引にはレバレッジ以外にも別の資金効率の良さがあります。それが「回転売買」です。回転売買とは、「同じ資金で何回も取引を繰り返すこと」です。
現物取引には「同じ資金を使って同じ銘柄を1日に何回も取引できない」というルールがあり、回転売買ができません。例えば、銘柄Aの株を1万ドルで買い、株価が上がったので、その日のうちに1万1,000ドルで売却します。
そして、同じ日に「まだ株価が上がりそう」ということで、再び売却代金でA株を買おうとしてもできません。A株を買うには別途代金を用意する必要があります。
信用取引を利用すれば、こうしたルールに縛られず、繰り返し売買することが可能になります。とりわけ、日本株のように1日の値幅制限のない米国株では、日本株以上に値動きが大きくなることも想定されるため、回転売買ができることは大きなメリットと言えます。
ちなみに、なぜ現物取引では「1日に同じ資金で取引を繰り返すことができないのか?」ですが、同日に買いと売りの取引を行った場合、当然ながら受渡日も同じになります。すると、受渡日にやり取りする金額は、利益もしくは損失相当額のみの「差金分」で済むことになり、元手の資金が無くても取引が可能になってしまいます。
そのため、きちんと「株を買う資金を持っていたよ」ということを示すため、同日に反対売買を行った時点で、買い付け代金を拘束する必要があるわけです。
米国株信用取引のルールと国内株信用取引との違い
続いて、米国株信用取引と国内株信用取引のルールの違いについても簡単に見ていきます。米国株信用取引の概要や方針については、日本証券業協会を中心に検討を進めた経緯もあり、基本的なルールは、国内株信用取引と似ているところが多いです。
<図:米国株信用取引と国内株信用取引との比較>
各項目の細かい話については次回以降で説明しますが、ここではざっくりとしたポイントを挙げていきます。
いちばんの大きな違いは「委託保証金率」のところです。信用取引の未経験者にとっては、いきなり耳慣れない語句が登場してきたわけですが、先ほど説明した「レバレッジ」に関係している項目です。
図を見ると、米国株信用取引では50%、国内株信用取引では30%となっていますが、これは「信用取引で取引したい金額に対して何%の手持ち資金(保証金)が必要か?」を意味しています。
言い換えれば、米国株信用取引はレバレッジ2倍、国内株信用取引はレバレッジ約3倍ということになり、米国株信用取引のレバレッジは国内株信用取引に比べて低く抑えられていることになります。
その理由は、米国株が日本株よりも比較的リスクが高いからです。回転売買のところでも触れましたが、米国株は値幅制限がなく、1日で大きく株価が動く可能性があることや、日本時間の深夜に取引が行われている米国株市場が急変した際に、すばやく対応できるとは限らず、「朝目覚めて確認したら大変なことになっていた…」という事態も考えられます。
そのため、予期しない損失や追証が生じる可能性に備えて、いわゆる「追証ライン」と呼ばれる最低委託保証金率が高めに設定されていたり、自動ロスカットルールが設けられたり、代用有価証券の評価割合も低めに設定されていたりと、国内株信用取引と比べて全体的にルールが厳しめとなっています。
次回は信用取引の基礎と諸費用などについて考えていきたいと思います。
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