米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。
米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合株価指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種指数」があります。
これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。
そこで2022年9月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します(株価、配当利回りなどのデータは2022年8月9日現在、為替は1ドル=135円で計算)。
その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な三つの違いについて、お伝えします。
(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。
※米国に上場していても米国籍企業以外の場合、配当金にかかる源泉税率は日本との租税条約によって異なり10%ではありません。
(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。
(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ無駄に手数料を支払うことになります。
米国高配当株1:ウィリアムズ・カンパニーズ(WMB)
天然ガスの収集、処理、輸送サービスやNGLの分留、輸送、貯蔵サービスおよびマーケティングサービスを展開しています。
世界が低炭素社会に移行する中、ウィリアムズ・カンパニーズは天然ガスに特化した戦略で米国全土において事業を展開しています。
時価総額は400億ドルで、日本円で約5兆3,000億円となっています(USD=135円換算)。
事業の注目ポイント
事業の中心は「天然ガスのパイプライン事業(Transmission & Gulf of Mexico)」で、続いて「西部天然ガス事業(West)」、「天然ガス等マーケティング事業(Gas & NGL Marketing Services)」、「北東天然ガス&発電事業(Northeast G&P)」となります。
「天然ガスのパイプライン事業」では、メキシコ湾から東海岸に至る州内天然ガスパイプライン「Transco」や、天然ガス収集・処理・加工、原油生産、NGL分留資産を事業展開し、「天然ガス等マーケティング事業」ではガスやNGLの販売、温室効果ガス排出の相殺を目的とした炭素クレジットの売買などをおこなっています。
競合他社
競合他社として、四つの事業区分により構成されるエネルギー・インフラストラクチャ会社であるキンダーモルガン(KMI)、収集と加工、および物流とマーケティング(下流事業)が含まれる北米の中流エネルギー会社であるタルガ・リソーシズ(TRGP) などがあります。
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値を超えて推移しています。また、配当は今年に入ってから増配をしています。
昨年から資源価格が上昇してきたことに伴いウィリアムズ・カンパニーズの株価も上昇してきました。
直近株価の下落があったものの徐々に回復してきており、会社側は今後も天然ガス・LNGの需要は高まると予想しており、引き続き堅調な株価の推移が期待されます。
業績動向
2022年8月1日開示の四半期決算では、1株利益は市場予想を上回りましたが、売上高は市場予想を下回りました。
売上こそ市場予想に届かなかったものの、1株利益・売上高ともに前年同期比の水準を上回る結果でした。
発電用・工業用・輸出用と天然ガス需要は全セクターで増加しており、今後も大規模な埋蔵量を有する海底への積極投資を行うことでさらなる生産量の拡大につなげていく方針です。
次回2022年11月2日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。
注意点
米国金利上昇からの景気後退によって資源需要低迷に陥った際に、需要低迷が業績に影響を与え、株価下落につながる恐れがあることには注意が必要です。
株価動向、配当利回り紹介
配当:1.7ドル
配当利回り:5.23%
株価:32.45ドル(約4,400円)
この銘柄、権利落ち日は9月8日(権利実施は9月26日)です。
配当利回りは8月9日時点で5.23%、株価は32.45ドルでおよそ4,400円から購入できます(1USD=135円計算)。
2019年からの最高値は37.82ドル、
最安値は9.25ドルとなっています(終値ベース)。
米国高配当株2:トリトン・インターナショナル(TRTN)
インターモーダル・コンテナの世界最大の貸し手企業です。
インターモーダル・コンテナは物品の国際輸送の際に利用される主要輸送手段となっており、トリトンは世界の主要なコンテナ船会社の全てにコンテナを供給するリーディングカンパニーです。
時価総額は40億ドルで、日本円で約5,400億円となっています(USD=135円換算)。
事業の注目ポイント
事業の中心は「コンテナ設備リース事業(Equipment leasing)」で、続いて「コンテナ貿易事業(Equipment trading)」となります。
「コンテナ設備リース事業」では、コンテナの取得・リース・再リースを中心に事業展開し、「コンテナ貿易事業」ではコンテナの再販を行っています。
競合他社
競合他社として、重工業および産業機器に重点を置く統合機器サービス会社であるH&Eエクイップメント・サービシズ(HEES)、機器レンタル事業を営む持株会社であるユナイテッド・レンタルズ(URI)、モジュラースペースとポータブルストレージソリューションを提供するウィルスコット・モバイル・ミニ・ホールディングス(WSC)などがあります。
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値近辺で推移しており、配当は2020年から増配しています。
好調なコンテナ市場を背景として業績は好調に推移するとともに、積極的に自社株買いを進めることで株価は高値圏で推移しています。
コンテナの市況環境は今後落ち着いてくると会社側は予想していますが、今までの事業投資により市場が停滞したとしても好調な業績を維持できる会社の状態であるとしており、今後も好調な業績とそれに伴って株価も堅調に推移することが予想されます。
業績動向
2022年7月28日開示の四半期決算では、1株利益は市場予想を上回りましたが、売上高は市場予想を下回りました。
売上高は市場予想を下回ったものの、1株利益・売上高ともに前年同期比を大きく上回っており、決算を受けて株価は上昇しました。
今後も引き続き好調な業績が予想されているものの、一方で顧客のコンテナ需要の低下も予想されることから、資金を事業投資から自社株買いへシフトしていく事も計画に入れています。
次回は2022年10月27日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。
注意点
インフレに伴う景気悪化によって、需要が停滞した際に業績悪化・株価下落につながる可能性がある点には注意が必要です。
株価動向、配当利回り紹介
配当:2.6ドル
配当利回り:4.05%
株価:64.07ドル(約8,600円)
この銘柄、権利落ち日は9月7日(権利実施は9月22日)です。
配当利回りは8月9日時点で4.05%、株価は64.07ドルでおよそ8,600円から購入できます(1USD=135円計算)。
2019年3月からの最高値は71.63ドル、最安値は21.67ドルとなっています(終値ベース)。
米国高配当株3:フランチャイズグループ(FRG)
フランチャイズ事業の運営ならびにフランチャイズ可能な事業の買収を中心に事業展開しており、2021年12月25日時点で1,221のフランチャイズ店舗、1,410の直営店舗、317のディーラーからなる2,948の店舗を運営しています。
時価総額は13億ドルで、日本円で約1,770億円となっています(USD=135円換算)。
事業の注目ポイント
事業の中心となるブランドは、「Vitamin Shoppe」で、続いて「Pet Supplies Plus」、「Badcock」、「American Freight」、「Buddy's」、「Sylvan Learning」となります。
「Vitamin Shoppe」ではビタミン、ミネラル、サプリメントなどを自社ブランドとナショナルブランドで展開し、それらを直営店やオンラインショップで販売しています。
また、「Pet Supplies Plus」はトリミングやセルフサービスペットウォッシュなどフルサービスのペット用品フランチャイズとして全米39州に620以上の店舗を展開しています。
競合他社
競合他社として、自然食品と有機食料品および栄養補助食品の専門小売業を手掛けるナチュラルグローサーズ・バイバイタミンコテージ(NGVC)や、家庭用電化製品・家電製品・家具などの所有権のレンタル購入サービスを手掛けるレントAセンター(RCII)などがあります
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値までは戻っていませんが、配当は昨年・おととしと増配しています。
コロナ発生直後こそ株価は下落したものの、すぐにほかの業種に先んじて株価は回復しました。
しかし、最近はインフレの影響などにより、家具、マットレス、電化製品を手掛けるAmerican FreightやBuddy'sの業績低迷もあり株価は低迷しています。
その分、配当利回りは好条件となっており配当を目的として保有するのには良いのではないでしょうか。
業績動向
2022年8月4日開示の四半期決算では、1株利益・売上高いずれも市場予想を下回りました。
1株利益・売上高ともに前年同期比を上回ったものの、決算を受けて株価は下落しその後横ばいで推移しています。
会社側の見通しではインフレはピークアウトしつつあり、来年には停滞している事業の業績が以前の水準まで回復すると予想しています。
Vitamin ShoppeやPet Supplies Plusはしっかりとした業績であることから、停滞している事業の回復が待たれます。
次回2022年11月9日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。
注意点
直近米国ではガソリン価格の下落も見られ、一時期に比べるとインフレの落ち着きを見せていますが、それでも何らかの影響で再びインフレ加速となった際には株価にも影響をおよぼす可能性がある点に注意が必要です。
株価動向、配当利回り紹介
配当:2.5ドル
配当利回り:7.68%
株価:32.53ドル(約4,400円)
この銘柄、権利落ち日は9月29日(権利実施は10月14日)です。
配当利回りは8月9時点で7.68%、株価は32.53ドルでおよそ4,400円から購入できます(1USD=135円計算)。
2019年からの最高値は54.18ドル、最安値は6.47ドルとなっています(終値ベース)。
米国高配当株4:ステート・ストリート(STT)
世界大手の総合金融グループです。JPモルガン・チェース、シティバンク、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンなどと並ぶグローバル・カストディアンとして有価証券の保管・管理や調査、資産運用など幅広い金融サービスを展開しています。
日本でも事業展開しており、傘下の金融機関を通じて資産管理、投資調査およびトレーディング、外国為替、資産運用などのサービスを提供しています。
時価総額は258億ドルで、日本円で3兆5,000億円となっています(USD=135円換算)。
事業の注目ポイント
事業の中心は「投資サービス業(Investment Servicing)」で、続いて「投資運用業(Investment Management)」となります。
「投資サービス業」では年金・ウェルス・ファンドマネージャーなどさまざまな顧客を対象とした、運用一元化プラットフォームであるステート・ストリート・αの提供などをおこなっており、「投資運用業」ではステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズを通じて「SPDR」の名称でMSCIやS&P500といったさまざまな対象を投資先としたETF(上場投資信託)の運用などを行っています。
競合他社
競合他社として、世界中の富裕層に金融サービスを提供し、資産管理事業も展開するUBSグループ(UBS)や、グローバル・カストディアンとして有価証券の保管・管理や調査、資産運用など幅広い金融サービスを提供するバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BK)などがあります。
株式の注目ポイント
株価は3月以降下落し、まだ年初の水準には戻っていません。
また、配当は2012年から連続で増配しています。
ステート・ストリートの株価も採用されているS&P500同様、3月以降下落し、その後7月中旬より株価が回復してきています。
売買手数料の低下などのマイナス要因を利息収入の増加で補うことで、業績の悪化を抑えることができており、それも直近株価が上昇している理由の一つかもしれません。
業績動向
2022年7月15日開示の四半期決算では一株利益は市場予想を上回りました。売上は市場予想を下回りましたが、一株利益・売上ともに前年同期比と同程度の水準であり、決算を受けて株価は約1割上昇しました。
株式・債券市場の低迷による手数料収入のマイナス部分を他のビジネスでカバーすることで業績の大幅な悪化を避けることができました。次の決算でも堅調な業績が予想されており、マーケットの改善次第ではさらなる業績拡大となるかもしれません。
次回2022年10月17日開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。
注意点
今回の決算では、値動きが大きかった為替を背景としたFXの収入が大きく貢献し、落ち込んだ業績をカバーしましたが、持続性があるものでもないので、次回決算までにマーケットが大きく変動した際には注意が必要です。
株価動向、配当利回り紹介
配当:2.52ドル
配当利回り:3.58%
株価:70.30ドル(約9,500円)
この銘柄、権利落ち日は9月30日(権利実施は10月13日)です。
配当利回りは8月9日時点で3.58%、株価は70.30ドルでおよそ9,500円から購入できます(1USD=135円計算)。
2019年からの最高値は103.77ドル、最安値は43.21ドルとなっています(終値ベース)。
米国高配当株5:デボン・エナジー(DVN)
石油および天然ガスの探査と生産を行う独立系エネルギー企業です。
2021年1月、炭化水素探査に特化したWPXエナジーと対等合併を行い、業績は大きく拡大しています。全米企業の総収入ランキングを表す「フォーチュン500」の一社で、S&P500の採用銘柄でもあります。
時価総額は380億ドルで、日本円で約5兆1,000億円となっています(USD=135円換算)。
事業の注目ポイント
事業は2019年のカナダ事業の売却以降、北米の事業(U.S. operating segments)に集中しています。その中で売上の中心は「石油・天然ガス・液化天然ガス事業(Oil, gas and NGL)」で、続いて「市場調査・ミッドストリーム事業(Marketing and midstream)」となります。
「石油・天然ガス・液化天然ガス事業」では石油・天然ガス・NGLの探鉱・生産を行っており、「市場調査・ミッドストリーム事業」では石油・天然ガス・NGLの輸送・貯蔵・販売マーケティングなどを行っています。
競合他社
競合他社として、北米、カナダ西部、イギリスで原油および天然ガスの探鉱・開発・生産を手掛けるカナディアン・ナチュラルリソーシズ(CNQ)や、独立系石油・天然ガス会社であるダイヤモンドバック・エネルギー(FANG)などがあります。
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値を上回って推移しています。また、配当は2018年より毎年増配しています。
資源価格の上昇に伴いデボン・エナジーの株価も上昇してきました。直近、デボン・エナジーの株価は資源価格の影響で下落したものの、自社株買いや、6月8日に「Bolt-On」の買収を発表するなど積極的な事業拡大も好感されたことで株価は少しずつ回復してきています。
業績動向
2022年8月1日開示の四半期決算では売上・1株利益ともに市場予想を上回りました。
決算を受けて株価の変動はほとんどなく、その後も堅調に株価は推移しています。
石油の生産量が増えていることや戦略的に買収を進めていることで業績が拡大しています。
会社側は、2022年に関して買収費用とインフレによるコスト増を追加でおりこみましたが、それでも業績を上方修正しており今後も堅調な業績が予想されます。
次回は2022年11月1日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。
注意点
石油および天然ガスを取り扱っていますが、石油は天然ガスに比べてCO2排出量が多く、今はインフレもあり環境への注目は以前に比べて低くなっていますが、再び環境への取り組み方が大きく叫ばれた時には業績に影響を与える可能性がある点に注意が必要です。
また、配当は四半期ごとに変動する点にも注意が必要です。
株価動向、配当利回り紹介
配当:4.66ドル
配当利回り:8.10%
株価:57.52ドル(約7,700円)
この銘柄、権利落ち日は9月9日(権利実施は9月30日)です。
配当利回りは8月9日時点で8.10%、株価は57.52ドルでおよそ7,700円から購入できます(1USD=135円計算)。
2019年からの最高値は78.04ドル、最安値は5.22ドルとなっています(終値ベース)。
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