※本記事は、2020年7月20日に初回公開しました。情報を更新してお届けします。
突然ですが、現在投資信託で資産運用をされている皆さんは、きちんと「成果」を出せていますか。特に、積み立てではないスポット(一括)購入の場合、「タイミングを狙ってスポット購入してみたけれど、うまくいかない」という方は少なくないかもしれません。あるいは、株式市場の先行きが一段と見通しにくくなっている中、積立投資で発生している損失を取り戻そうとスポット投資に挑戦し、結果的に傷口が広がってしまった…という方もいるかもしれません。
そこで今回は、投資信託のタイミング投資で陥りがちな落とし穴と、その回避法について解説していきます。
やってはいけない行動(1)
とにかく気になって、頻繁に基準価額を見てしまう
マーケットに関連する大きなニュースが出なくとも、投資信託の基準価額がどう変化しているか気になってしまうというのは自然なことです。しかし、あまり日々の値動きばかりに気を取られていると、知らず知らずのうちに、投資の原理原則から外れた投資行動を取ってしまうことがあります。
損失の苦痛は利益を得たときの喜びの2倍強く感じられる
2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、心理学的知見を経済学に取り入れた行動経済学という新しい学問分野で、人間の不合理な行動を数々解き明かしてきました。
代表的なのは損失回避に関する行動です。「損失の苦痛は利益を得たときの喜びの2倍強く感じられる」ことから、人は損失が発生した途端、その損失を取り返そうと、よりリスクの高い投資をしたり、「いつかは上がる」と信じて、含み損を抱えたまま投資信託や株式を保有し続けたりしてしまうのです。
ポートフォリオのリターンを見る回数が多いほど、リスクを取らなくなる
また、同じ行動経済学の分野で2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーが行った実験によれば、「人はポートフォリオのリターンを見る回数が多いほど、リスクを取りにいこうとしなくなる」とのこと。ポートフォリオを頻繁に確認すればするほど、確率的に損失の局面を目の当たりする可能性は高くなります。結果的に、目先の損失を回避しようとするあまり、株式の配分を減らすなど、株式投資で有利に働く長期投資という原理原則から外れた投資行動を取ってしまうのです。
なお、セイラーと共同研究者のシュロモ・ベナルチが発表した「近視眼的損失回避」論文では、人が株式と債券に対して中立なスタンスを取りたい(株式と債券に50%ずつ投資したい)と思うポートフォリオの確認頻度として「年1回」という数値が示されています。
やってはいけない行動(2)
前日のニューヨーク株式市場が大幅に下落していたので、S&P500種指数のインデックスファンドを購入した
もう一つの注意点は、本連載でこれまでにも取り上げてきた、海外資産を投資対象とした投資信託の約定日に関する内容です。
多くの機関投資家が運用指標とするS&P500連動型のインデックスファンドをはじめ、海外資産を投資対象としている投資信託は、約定日(やくじょうび)が1日ずれます。前日のニューヨーク株式市場を見て購入や解約をしても、その株価が投資信託の基準価額に反映されるわけではない、という点には十分に注意が必要です。
投資信託は、購入や解約を申し込んだ時点では、まだ適用される基準価額は決定しておらず、申し込みの締め切り後に算出される基準価額(これを約定価格といいます)で、約定が成立します(これを「ブラインド方式」といいます)。
この約定価格が決定するタイミングは、投資信託の投資先が国内か海外であるかによって異なります。投資先が国内の場合、適用される基準価額は申し込みをした当日中に決定しますが、投資先が海外の場合、適用される基準価額は申し込みをした翌営業日(原則)に決定します。つまり、前日のニューヨーク株式市場の終値がそのまま基準価額に反映されるわけではありません。
日本株連動型の場合
日経平均株価に連動するインデックスファンドの場合、極端に言えば取引終了間際の15時ギリギリまで日経平均の動向を見て、購入や解約の判断をすることも可能です。15時までに申し込みを済ませた投資信託の購入や解約注文に適用される基準価額は、当日の日経平均を反映したものになります。
海外株連動型の場合
一方、海外株式の場合は、申し込みの翌営業日に更新される基準価額が適用されることになります。S&P500やダウ工業株30種平均(NYダウ)の場合、申し込んだ日の翌朝(日本時間)の終値と為替レートを反映して基準価額が算出され、これが約定価格となります。こうした理由から、ニューヨーク株式市場が大きく動いたタイミングを狙って、ピンポイントで取引をするということは事実上不可能です。
「タイミング」ではなく「時間」に投資することの重要性
これまで見てきた二つの「落とし穴」に共通しているのは、目先の利益と投資のタイミングに気を取られてしまっている、という点です。指数の値動き以上の利益を目指す「ブル・ベア型」や「レバレッジ型」など、ごく一部のタイプを除けば、投資信託という金融商品は中長期投資を前提として商品設計がなされています。中長期投資の重要性は、インデックスファンドについても同様です。
目先の利益を求め、タイミングに賭けて結果を出し続けることは現実には難しい。だからこそ、「タイミング」ではなく「時間」に投資するという、投資の原理原則に立ち返ることが重要です。
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