日経平均は2万8,000円割れ

 9日の日経平均株価は前日比249円安の2万7,999円でした。米景気にソフトランディング(軟着陸)【注1】の期待が高まり、米国株につれて日本株も上昇してきましたが、節目の2万8,000円を超えたところで、戻り売りも出やすくなりました。

 業績不安からソフトバンクG(9984)東京エレクトロン(8035)が急落したことに加え、中国人民解放軍が台湾を包囲する形で軍事演習を続けていることへの不安も売り材料となりました。また、米景気がハードランディング(硬着陸)【注2】に陥るリスクへの警戒もあります。

【注1】米景気ソフトランディング(軟着陸)
 米景気減速が鮮明になってきたが、景気後退には至らず、ゆるやかな景気拡張が続く。原油・穀物・商品市況の下落によってインフレは徐々に沈静化、それを受けてFRB(米連邦準備制度理事会)は利上げを早期停止、来年に向けて利下げが視野に入ってくる。

【注2】米景気ハードランディング(硬着陸)
 米景気減速が鮮明になってきたがインフレ高止まりが続き、スタグフレーションの様相を呈する。FRBが急激な引き締めを続けるうちに、米景気は急速に悪化してリセッション(景気後退)入りする。

日経平均日足:2022年1月4日~8月9日

出所:楽天証券MSⅡより作成

台湾有事リスクは未消化

 8月2~3日、米国のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問し、台湾と世界の民主主義を守る米国の決意が揺るぎないことを表明しました。

 これに中国が猛反発、中国軍が4日より台湾を取り囲んで封鎖する形で、過去に例のない大規模な軍事演習を実施し、台湾海峡の緊張が一気に高まりました。

 当初7日までとしていた軍事演習は8日も続けられました。演習を常態化して台湾への圧力を強める可能性があります。今後、黄海や渤海でも新たな軍事演習を行うと発表しています。これに対し、台湾陸軍は9日、台湾沿岸部で上陸阻止を狙った射撃訓練を行いました。

 ロシアによるウクライナ侵攻に不意をつかれた世界の株式市場に、また新たな不安が加わりました。もし台湾有事が現実となると、世界経済・株式に与えるインパクトはウクライナ危機よりけた外れに大きくなります。特に日本への経済的ダメージが大きくなる可能性があります。

 ところが、この悪材料に世界の株式市場は、あまり反応していません。現時点で、中国は「通常の軍事演習」という建前をとっており、短期的に世界経済・株式市場に重大な影響を及ぼすリスクは大きくないと見られているからです。

 確かに、短期的に台湾有事・米中衝突が起こる可能性は低いと思われます。とはいえ、事態が改善に向かう可能性は低く、いつか日本および世界の経済、株式市場に大きなダメージを与える事態が起こるリスクがあります。台湾情勢を慎重にウオッチしていく必要があります。

「政冷経熱」いつまで?

 軍事的な衝突の前に起こると想定されるのが、経済面の駆け引きです。米国に次いでGDP(国内総生産)で世界第2位の中国は、世界中の国々と経済面で大きなつながりを持っています。特に、中国と「政冷経熱」【注3】の関係にあるといわれる日本や台湾は、今後難しいかじ取りが必要になります。

【注3】政冷経熱(せいれいけいねつ)
 政治的な関係は冷え込んでいるが、経済分野ではつながりが深まっていく状態のことを言う。主に日本と中国の関係を言うが、台湾と中国の関係を指すこともある。

 日本企業(トヨタ自動車(7203)ファーストリテイリング(9983))、台湾企業(TSMCなど)だけでなく、米国企業(テスラ・アップルなど)やドイツ企業(フォルクスワーゲン・メルセデスベンツなど)も、中国で大きなビジネスを行っています。

 これまでは政治上の対立が激化しても「経済は別」として、経済的なつながりは拡大してきましたが、今後米中対立が激化すると、経済にも影響が及ぶリスクがあります。いつまでも政冷経熱は続かないと考えられます。

 どのように影響が起こるか、予想することはできません。一つ考えられることは、中国政府が、中国内でビジネスを行う外資系(日本・米国・欧州)企業に法令違反などの名目で個別に圧力を加えてくることです。

 ただし、外資系企業に一斉に圧力が加わることは考えられません。中国国内に展開する日米欧企業全てを排除すると中国に重大なダメージが及ぶからです。何らかの政治的選別がされて、ターゲットにされた企業が中国ビジネスで大きな損失をこうむるといった事態が想定されます。

 2012年8~9月に中国で起こった反日デモでは日本企業だけがターゲットとなり、日系企業の工場や店舗、日本車などが破壊され、その後日本製品の不買運動が広がりました。この時のターゲットは日本だけで、日本が失ったビジネスをドイツ企業や韓国企業が取りました。

 今回は事情が異なります。米国・欧州・日本・台湾企業などが全てターゲットとなる可能性があります。ただし、全てが同時にターゲットとなることはないでしょう。なんらかの選別が行われる可能性があります。

 日本株投資では、中国でのビジネスが大きい、いわゆる「中国関連株」について慎重な投資判断が必要かもしれません。当面、内需ディフェンシブ銘柄を重視したポートフォリオとした方が無難でしょう。

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