イエレンがハト派からタカ派に転向?
昨日のFOMCの焦点は、利上げの目安を失業率6.5%(エバンスルール)としてきたフォワードガイダンス(金融政策の先行きの手掛かり)の数値基準を、イエレンFRB議長が変更するのか否かにあった。
イエレンFRB議長が以前から主張していた<最適管理>に根拠を置く「5.5%の完全雇用ターゲット」では、タカ派のメンバーが増えるFOMCという組織を掌握できないという観測が多く、一部のファンドは「イエレンがバーナンキ時代のフォワードガイダンスを放棄するのではないか?」とみていた。
イエレンの影響下にあるサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁が2月19日の講演で、「将来の政策決定について、特定の具体的水準を設定するよりも、経済情勢に応じてどう対応する可能性があるかを説明するのが最善だ」と、スタンレー・フィッシャーFRB副議長(候補)と同じことを言っていたからである。
「先行きに関して言わなければ良かったと後悔したことが多い」と、フォワードガイダンスに対して懐疑的な姿勢をとっているスタンレー・フィッシャーFRB副議長(候補)の影響を、イエレンFRB議長も受けている模様だ。
いずれにせよ、イエレンFRB議長はこれまでの拠りどころとしていたフォワードガイダンスについて、失業率6.5%の数値基準を撤廃したのである。「政策方針そのものの変更を意味しない」と発言しているものの、これは米国の金融政策がバーナンキ時代とは変わっていくという大きなシグナルだ。
米国の金融政策はデータ重視から裁量へ移行
スタンレー・フィッシャーFRB副議長(候補)の方も、3月13日のFRB副議長候補の承認公聴会で、「失業率が高すぎるため金融緩和の継続が必要」「失業している人々のことを決して忘れてはならない」と労働市場重視の姿勢を見せて、イエレンFRB議長の顔を立てた。
イエレンとフィッシャーはお互いの顔をたてているが、政策的には空気を読む人物とされるイエレンの<最適管理>が引っ込んで、<裁量>で柔軟かつ迅速な政策決定を行うというスタンレー・フィッシャーFRB副議長(候補)の方針にイエレンFRB議長が歩み寄るということになっていくだろう。
スタンレー・フィッシャーFRB副議長(候補)は3月14日のスタンフォード大学経済政策研究所向け講演で、「危機対応にあたった数十年の経験から、必要な全てのデータが揃う前でも、迅速に政策を決定することが重要だという教訓を得た」と述べ、「指標に状況が反映されるまでに遅れが生じることや、その遅れによって政策決定が経済に影響を及ぼすことが過小評価される傾向にある」と指摘している。(3月14日 ロイター報道)
今後のFOMCはバーナンキ時代の数値目標によるフォワードガイダンスを取り下げ、「声明は状況次第だ」とイエレンFRB議長が述べているように、経済状況をみながらその都度「言葉」で説明していくという<裁量>の運営に変わっていくということだ。
面食らう投機筋
こうしたイエレンFRB議長の変節は、スタンレー・フィッシャーがFRB副議長候補になった時からささやかれていた。これは筆者の周辺のファンドの読み通りだが、イエレンFRB議長はハト派と思い込んでいた一部のファンドは混乱しているという。
ぼかしたことしか言わないと思われたイエレンFRB議長の会見で、議長は具体的な利上げ時期について「QE終了後の6カ月程度」と言及した。これを受けて、緊急ミーティングを行ったファンドは多いという。米国の株の上げ下げは金融政策次第であり、米国の金融政策の転換は世界の金融市場の方向を決定する最重要事項だからである。
NYダウ(週足)と米国の金融政策 ハト派のイエレン・プットに疑念が…
昨日のNYダウはイエレン議長の発言を受けて下落、この数日の動きを注視したい
「バーナンキの金融政策は数値目標があり、ある意味でとても分かりやすかった。しかし、今回のFOMCでの数値目標の取り下げで、金融政策の見通しが難しくなった」と運用者の多くが語っている。「米国の失業率は低下しており、もう雇用統計を見ていてもあまり意味がない。米国の金融政策の焦点は徐々にインフレ率、すなわちCPI(消費者物価)の動向に移っていくだろう」というのが、現時点のファンド勢の見立てだ。
米消費者物価指数(対前年度)の推移
昨日の声明では「FOMCが長期目標としている2%を継続的に下回る場合、失業率が6.5%を下回ってからもかなりの期間、FF金利の現在の誘導目標レンジは現行水準に維持される公算が大きいとし、ガイダンスを修正することが適切と判断した」としている
FFレート(フェデラルファンドレート)先物の推移
2015年4月から9月あたりにかけて利上げがあるのではないかという思惑が浮上
米金利上昇でドル全面高、イエレン発言は勇み足か?
「株安・ドル高・金利高」の反応はFOMC 声明に反応したというより、イエレンFRB議長の具体的な利上げ時期の言及によるところが大きい。昨日は米金利が急騰しており、ドル/円も102円68銭まで上昇した。利上げ観測が行き過ぎると、当局はこれを修正する動きに出てくることが予想される。その目安は10年国債の3%水準であろう。
米10年国債金利(日足) 3%を超えると、当局からの牽制が出てくるだろう
テクニカル的に見てドル/円は101円から103円のレンジ相場となっており、ニュートラルな状況だ。まだ、昨日のFOMCの結果を市場は消化できておらず、米金利の動向を見ながらの展開となろう。日経平均が弱々しい動きとなっていることもドル/円の足を引っ張っており、上を買い上がるような相場展開とはなっていない。
ドル/円(日足) レンジ相場で方向性の示唆はまだない
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3
ドル/円(日足)と移動平均リボン(1~3カ月の市場参加者のコスト)
101円近辺には期末のPKOと思われるドル買いが入っているとの噂が…
日経平均株価とサプライズ緩和の賞味期限(緑のゾーン)
3月11日の追加緩和見送りで催促相場に発展!投機筋の注目は4月8日・30日の日銀金融政策決定会合と4月22日のオバマ来日
現在、相場に方向性があるのはNZドルである。ニュージーランドは向こう3か月で0.5%の利上げが噂されており、投機筋も押し目買いスタンスを維持している。21日移動平均線を下抜けるまでは、現在の上昇基調は維持されるだろう。
NZドル/円(日足) やはり今年の最強通貨か?
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・2シグマ(赤)
日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。