相場には始まりと終わりがある。利食いというのは常に相場の終わりをイメージする必要がある。例によって、筆者はクロス円相場の「10月末買い・4月末売り」という<半年間投資>を、昨年から今年にかけての相場でも実践してきた。4月末まで残すところ1か月半となり、筆者は相場の終わりを意識している。

日銀追加緩和の賞味期限

3月11日の金融政策決定会合で日銀は追加の緩和を見送った。「現時点で調整必要ない」と緩和期待を打ち消したのは、4月のサプライズ緩和への下準備という見方もあるが、「調整の必要があれば躊躇することなく調整する」と緩和期待をつなぐ発言もしている。これを報道で見た海外ファンドの運用者は「ドラギのように口先でコントロールしようとしているのではないか?」との疑念を漏らしていた。

黒田日銀総裁が「戦力の逐次投入はしない」と発言しているように、日銀が【独自の判断】で追加緩和に踏み切るためには、「大義名分」が必要となる。日銀の追加緩和はこれ以上国債を買ってもブタ積みが増えるだけで意味がない。ETFの購入枠拡大にしか海外勢は反応しないだろう。官僚的発想で考えると、日経が15,000円前後、ドル/円が103円前後という現状では、日銀という組織には追加緩和を行う大義名分がないのである。

だが、アベノミクスはマクロ経済学の壮大な実験であり、経済政策というよりも安倍首相の【政治決断】で行っている政策である。したがって、日銀は安倍首相から「追加緩和」の要求があれば、GDPの落ち込みなどを大義名分に日銀は追加緩和を実施したはずである。つまり、今回は安倍首相が日銀に「追加緩和」を要求しなかったということだ。

筆者も肌で感じているが、海外投資家のアベノミクスへの期待が薄れており、早く追加の緩和を行うべきであろう。<サプライズ緩和の賞味期限>はぎりぎりで4月いっぱい、市場のコンセンサスである6月以降では遅いと思われる。早期の追加緩和がない場合、海外勢は4月以降の相場でジャパン・トレード(日本株買い+円売り)の手仕舞いに動く可能性が大きくなる。

日経平均株価とサプライズ緩和の賞味期限(緑のゾーン)

投機筋の注目は4月8日・30日の日銀金融政策決定会合と4月22日のオバマ来日


(出所:石原順)

10月末買いの長期ポジションをどうするか?

3月11日に日銀の追加緩和がなかったことで、ファンド勢とミーティングを行った。合議制で相場に対処しているわけではないが、ほとんどの運用者が「近日中に、10月末に構築した円売りポジションの半分以上を利食いする」と述べている。

理由は以下の4点だ。

  • (1)安倍政権(日銀)が4月の緩和に動かなかった場合、円ショートを抱えるファンド勢が失望によって手仕舞いに動く可能性がある。
  • (2)ポジションの巻き戻し(円高)圧力を利用した円買いを仕掛けるファンドも出てくる。
  • (3)中国贔屓のオバマが4月22日に日本に行く。ハッピーな結果が待っているとは思えず、安倍政権への信頼感低下を危惧している。
  • (4)3月19日からFOMCはイエレン新体制となるが、イエレン就任後の市場の洗礼がこわい。

3月13日現在、ドル/円、ユーロ/円、ポンド/円、NZドル/円、豪ドル/円の現在値(2014年3月13日現在)はすべて10月末の終値を上回っている。

「NZドル/円は10月末から8.28%上昇(3月13日現在)しており、レバレッジ3倍だと24.84%の上昇になる。ユーロ/円は10月末から8.55%上昇(3月13日現在)しており、レバレッジ3倍だと25.65%の上昇になる。これ以上、欲をかかないで半分は利食いをするよ。豪ドル/円だけは10月末と同水準だが、これも損失が出ているわけではない。今年もグッド・ディールだ!」というのが、ある運用者の感想だ。

相場は利食い千人力。筆者も10月末に構築した円売りポジションの半分を本日あっさりと手仕舞った。

ユーロ/円(左)とポンド/円(右)の10月末買い・4月末売り

ユーロ/円は堅調だが、年後半は波乱相場となるかもしれない


(出所:石原順)

豪ドル/円(左)とNZドル/円(右)の10月末買い・4月末売り

最強通貨?NZドル/円は1月高値を上抜いている…


(出所:石原順)

ドル/円(左)と日経平均(右)の10月末買い・4月末売り

NYダウやS&P500と比べると日経平均の上昇はあまりにも小さい


(出所:石原順)

アベノミクスの成否は安倍政権の支持率次第だ。現状の良い円安・株高が進行するかどうかは、安倍政権が長期政権となるかどうかにかかっている。4月に追加緩和があるか否か、アベノミクスは正念場に差し掛かっているといえよう。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。