アルゴリズム売買の苦戦が続く

投資家は相場が上がると強気になり、相場が下がると必要以上に悲観的になりやすい。これは人間の心理状態としては、きわめてノーマルな反応だろう。相場が「欲望と恐怖のゲーム」と言われる所以である。

しかし、「欲望と恐怖のゲーム」に巻き込まれると、「高値で買って、安値で売る」「安値で売って、高値で買い戻す」という最悪の結果となりやすい。

「自分の感情にどう対応するか?」という問題には、様々な対処方法があるだろう。その1つに自動売買がある。相場観や思い込みを放棄して、コンピューターの出す売買指令(シグナル)に従う手法である。

「コンピューターを駆使してグローバル市場のトレンドを分析するクオンツ運用のヘッジファンドは過去3年にわたり成績が市場平均を下回っており、運用担当者に対する投資家の我慢も限界に達しつつある」「この3年間はほぼ全てのマネジドフューチャー・ファンドにとって厳しい環境が続いた」「トレンド分析に基づく運用を行う20の主要ファンドをフォローするニューエッジCTA指数 は、11年に4.5%、12年には2.9%低下した」(『クオンツファンドに投資家も我慢の限界-5000億円が流出』2月19日 ブルームバーグ)と報道されているように、ここ数年の相場ではクオンツ(高度な数学的手法や数理モデルを使って売買する人)の運用成績も苦戦が続いている。

中央銀行バブル相場では、過去の「定量モデル」による順張り運用は通用せず、高度で複雑なアルゴリズムを用いているファンドほど運用成績が悪いという。多くのクオンツは「中央銀行による自作自演相場が市場のメカニズムを破壊した。昨今の相場はランダムウォークだ」と恨み節を述べている。一般のQE温存期待に反して、ファンド勢には、「中央銀行は量的緩和を早くやめるべきだ」という声が多い。

エンベロープ(移動平均線乖離)で相場の限界的上下動を計測する

ITバブルが崩壊した2002年以降の相場は、金融市場に対する中央銀行の介入が顕著となり、見えやすい相場のトレンドが2002年以前ほど発生しなくなった。特に最近は量的緩和の影響によるカネ余り相場が続いており、いわゆる逆張り的な手法も駆使しないと、相場で安定したパフォーマンスを上げるのが困難となっている。

今回のレポートでは逆張りに焦点をあて、通貨の上下動の範囲について、エンベロープ(移動平均線乖離)を用いて説明してみたい。

エンベロープは、移動平均線にプラス乖離とマイナス乖離の幅(%)をプロットしたバンドである。それを逆張りに使う根拠は、「価格が移動平均線から乖離しすぎると、平均に戻ろうとする圧力が高くなる」という<平均回帰>の考え方が基となっている。

エンベロープ(移動平均乖離)を逆張りに活用するときの注意点は、相場に強いトレンドが発生している場合は、リバウンド(平均回帰)が起こらない可能性があることである。

しかし、このようなことを気にしていては、そもそも逆張りはできない。逆張りは相場の方向に逆らってポジションをとる手法なので、ストップロス注文が必須となる。「ストップを置かない逆張りほど危険なものはない」ということを最初に断わっておく。

相場に絶対の法則はない。エンベロープを過信するのは危険である。しかし、それはエンベロープという手法に限ったことではない。記憶に新しいリーマンショックや東日本大震災などの想定外の事態が発生した場合、リスク資産の買いポジションを持っている投資家は壊滅的な打撃を被るであろう。

相場から資産を守る方法はストップ注文を置く以外に方法はないのである。くどいようだが、ここを理解しないと、相場は「事業」ではなく「丁半ばくち」になってしまう。

日足の動く範囲

逆張りを行うには「値ごろ感」ではない「相場の限界的な走行距離の計測」が必要だ。では、為替相場の動く範囲(自律的な上下運動)は、どのあたりが目安となるのであろうか?

日足相場をみてみよう。日足相場での通貨の変動は概ね13日移動平均線の2%から3%乖離が目安となっている。もっと最適なパラメータがあるのかもしれないが、筆者は25年以上、このパラメータを使っている。筆者の独断と偏見では、「13」というフィボナッチナンバーは相場と親和性が高い。

以下は過去200日間のユーロ/円、ポンド/円、豪ドル/円、ドル/円、ユーロ/ドルの日足と13日エンベロープ2%(13日移動平均線±2%乖離)の推移である。

概ね通貨の日足相場は、13日エンベロープ2%(13日移動平均線±2%乖離)の範囲で推移しているのが確認できる。

ユーロ/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線±2%乖離(赤のバンド)・13日移動平均線±3%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

ポンド/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線±2%乖離(赤のバンド)・13日移動平均線±3%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線±2%乖離(赤のバンド)・13日移動平均線±3%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線±2%乖離(赤のバンド)・13日移動平均線±3%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線±2%乖離(赤のバンド)・13日移動平均線±3%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

話が脱線するが、日足相場ではエンベロープの代わりに、ボリンジャーバンド±2シグマとストキャスティクスやRSIといったオシレーターを組み合わせた手法も相場の動く範囲として注目されている。

あるファンドの運用者は今年の第一四半期のストラテジーとして、<ユーロ/ドルの押し目買い>をあげていたが、これは今のところうまくワークしているようだ。高値は買わず、あくまで押し目買いに徹するとの事だが、その運用者が送ってきたチャートを観ていると、言わんとしていることはなんとなくわかる。

ユーロ/ドル(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤のバンド)
下段:ストキャスティクス5.3.3


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(週足)と波動カウント


(出所:石原順)

1時間足の動く範囲

1時間足の動く範囲を観てみよう。1時間足相場での通貨の変動は概ね13時間移動平均線の0.6%から0.8%乖離が目安となっている。

以下は過去200時間のユーロ/円、ポンド/円、豪ドル/円、ドル/円、ユーロ/ドルの1時間足と13時間エンベロープ0.6%(13時間移動平均線±0.6%乖離)の推移である。

概ね通貨の1時間足相場は、13時間エンベロープ0.6%(13時間移動平均線±0.6%乖離)の範囲で推移しているのが確認できる。

ユーロ/円(1時間足)

上段:14時間ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13時間移動平均線±0.6%乖離(赤のバンド)・13時間移動平均線±0.8%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

ポンド/円(1時間足)

上段:14時間ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13時間移動平均線±0.6%乖離(赤のバンド)・13時間移動平均線±0.8%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

豪ドル/円(1時間足)

上段:14時間ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13時間移動平均線±0.6%乖離(赤のバンド)・13時間移動平均線±0.8%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

ドル/円(1時間足)

上段:14時間ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13時間移動平均線±0.6%乖離(赤のバンド)・13時間移動平均線±0.8%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(1時間足)

上段:14時間ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13時間移動平均線±0.6%乖離(赤のバンド)・13時間移動平均線±0.8%乖離(青のバンド)


(出所:石原順)

平均回帰が起こらないリスクに対しては、ストップロス注文を置いて対処

以上、相場の中途半端ではない水準の目安について、エンベロープで判断する方法を述べてきたが、売られすぎや買われすぎの状態から平均回帰が起こらないリスクに対しては、ストップロス注文を置いて対処するしかない。

エンベロープが相場の反転ポイントとなるかどうかは、より短いタイムフレームのチャートでオシレーターの反転パターンを確認するか、トレンド指標のピークアウトの確認することが、はずれを減らす鍵となる。

今回のレポートでは逆張りのアイデアを提示したが、今年の大揺れ相場に対処するには中途半端でない価格水準を見つけることが必要なようだ。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。

日経平均(日足) 新興国市場のようなドローダウンに投機筋も困惑?

上段:25日移動平均線5%乖離(赤のバンド)・10%乖離(青のバンド)
下段:9日RSI(青)・ストキャスティクス5.3.3(赤)


(出所:石原順)