米FRB大幅連続利上げがきっかけに
6月15日、FRB(米連邦準備制度理事会)は1994年以来となる0.75%の大幅利上げに踏み切り、さらに7月27日にも0.75%の利上げを実施しました。BOC(カナダ中央銀行)も7月に1.0%の利上げに踏み切ったほか、ECB(欧州中央銀行)も0.5%の利上げを行いマイナス金利に終止符を打ちました。
各国中央銀行の相次ぐ利上げによって世界的なインフレ懸念はやや後退、しかし、景気減速懸念が言われ始めた中で、株式市場(とくに株価指数)には追い風となるマネーフロー(資金循環)に落ち着きつつあると見えます。米主要株式指数、日経平均株価は出直りの動きを示しました。為替市場でもこれまで急速に進んでいたドル高円安の動きが反転したように見えます。
マーケットではこのような状況を「資金が逆回転している」と表現しますが、今年年初から続いていた流れと正反対の動きをし始めているということでしょう。
7月FOMC(米連邦公開市場委員会)後のジェローム・パウエルFRB議長の会見では「インフレ低下へ迅速に行動」、「インフレ抑制が不可欠」、「米経済は底堅く推移」、「労働市場は著しく引き締まり、物価は高すぎる」と、まだ利上げ局面が続くことがほぼ明言されました。
ここからは米経済の先行きについてそれほど明るい見通しを持つことはできないと想定するのが通常でしょう。
しかし今回、米景気が減速したとしてもそれは「テクニカル・リセッション」と見る向きもあります。米金融当局の金融調整によってもたらされた景気減速は、本物のリセッション(景気後退)とはいえないという見方です。この言葉の裏側には「利上げ打ち止め感が出れば、早期に成長軌道を取り戻す」という意味が含まれています。
本物のリセッションであれば株価は一段安となるはず、そうなっていないのであれば「テクニカル・リセッション」ということ…東京市場でもグロース株が目立って反発していますが、この動きの背景に「景気の先行きには不透明感が強いものの、不況入りではない」という見方があるかもしれません。
そうであれば、独自に成長力を持つグロース株に資金が向かうことに疑問はありません。
東京市場有数のグロース株で、日経平均寄与度も高い二つの銘柄の動きを見ておきましょう。ユニクロ、GUを展開する「ファーストリテイリング(9983・プライム)」、求人情報検索エンジン「インディード」ほか人材最大手の「リクルートホールディングス(6098・プライム)」のここ2年間の動きです。
長期間下落し、およそ半値になった株価が明確に出直っている様子がわかります。これらの株価が上昇する際には日経平均の上値を切り上げることも想定され、投資家心理好転にも寄与します。
半面、コモディティ高=インフレ局面の象徴的な銘柄は急反落の動きを示しています。非鉄金属大手の「住友金属鉱山(5713・プライム)」、原油・ガス開発生産国内最大手「INPEX(1605・プライム)」です。
・ファーストリテイリングの2年週足チャート
・リクルートホールディングスの2年週足チャート
・住友金属鉱山の2年週足チャート
・INPEXの2年週足チャート
前者とは対象的な動きです。冒頭に示したように、相次ぐ各国中銀の利上げを経て、マネーフローが変化したと見るのが適当でしょう。ここではグロース株の出直りに注目するのが初手となりそうです。投資資金の流れに着目した場合、やはり市場流動性が高い銘柄に期待することになります。
株価出直りが期待されるグロース株
コード | 銘柄名 | 株価(円) | |||
---|---|---|---|---|---|
2413 | エムスリー | 4,654 | |||
7741 | HOYA | 13,820 | |||
4689 | Zホールディングス | 495.1 | |||
6869 | シスメックス | 9,414 | |||
6383 | ダイフク | 8,500 | |||
※株価データは2022年8月3日終値ベース。 |
エムスリー(2413・プライム)
医療従事者向けに製薬会社の情報提供を支援するサイトを運営しています。
・1年日足チャート
HOYA(7741・プライム)
眼鏡レンズ、半導体用マスク基板に強みを持つ精密機器メーカーです。
・1年日足チャート
Zホールディングス(4689・プライム)
傘下にヤフーを擁する持株会社で、国内ネットサービスの先駆企業です。
・1年日足チャート
シスメックス(6869・プライム)
臨床検査機器で国内首位、血球計数機器で世界トップシェアを誇る医療機器メーカーです。
・1年日足チャート
ダイフク(6383・プライム)
国内最大手の物流システム総合メーカーで世界首位級企業です。
・1年日足チャート
台湾を巡る米中対立はしばしば起こる可能性も
アジア歴訪を開始したナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問、中国政府が激しく反発しました。8月2日の東京市場で日経平均が反落したことも(398円安)、米中関係に決定的な亀裂が生じ、中国が台湾に対し軍事行動を起こすきっかけになるのではという懸念によるものでした。
米ホワイトハウスはペロシ氏の訪台に先立ち「ペロシ議長には訪台する権利がある」とする一方で、中国が台湾海峡周辺での軍事的威嚇を強める可能性(軍事演習や海峡へのミサイル発射を想定)に言及しています。ただ、「米国の『一つの中国政策』は不変」と強調、中国への配慮も行った格好です。
1950年代以降、数度にわたり「台湾海峡危機」が起きていますが、今のところ最後となる「第三次台湾海峡危機(1995~1996年)」は、台湾総統選挙で中国と距離を置く李登輝候補(当時)が優勢に選挙戦を進め、台湾世論をけん制するため中国人民解放軍が台湾海峡で大規模な軍事演習を強行したものです。
台湾海域にミサイルを撃ち込むなどの威嚇行為をし、米国軍が空母機動部隊を派遣し中国軍の動きをさらにけん制、台湾周辺で一気に軍事的緊張が高まりました。
今回、ペロシ氏訪台に端を発し、同様の事態に発展する可能性は…ほぼないと思われます。米国の有力政治家が訪台すること自体は、台湾の政治体制に大きな変化を与えるものでもありません。米国も「『一つの中国政策』は不変」としています。
大きな現状変更を伴うものではなく、逆に中国による軍事的緊張によって、台湾のアイデンティティ(自主独立)が高まる可能性もあります。そうなると、中国にとってあまり得策でない流れになるかもしれず、今回の反発は軽微にとどまる公算です。
この先も台湾を巡る地政学的リスクが意識される局面はあると思われますが、その際には米台中それぞれの主張や立場について、過去の事例を含め判断し、株式市場にどのように影響するかを考えることになります。
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