イエレンバブル相場がスタート

11月14日に『イエレンバブルがやってくる?』というレポートを書いたが、イエレンの公聴会以降の米国株は堅調な推移となっている。S&P500は俗に言う「青天井相場(好材料の出現などにより相場が過去最高値を抜いて上がり続け、この先も限りなく上昇しそうな状態)」となっており、ITバブル後遺症で長年低迷していたナスダックも13年2カ月ぶりに4000ポイントを回復した。

ナスダックの上昇角度は鋭角的であり、ITバブル時の軌道を思い起こさせる。イエレンは「現在の米国株にバブルの兆候は見られない」と発言しているが、これは「イエレンへの期待バブル相場」と呼んでもよいだろう。イエレンの見方が正しければ、このニュー・バブル(新たな過剰流動性)相場はまだ序の口ということだ。

SP500(月足) 史上最高値更新の青天場相場に…

上段:14ヶ月ADX(赤)・26ヶ月標準偏差ボラティリティ(青)
下段:26ヶ月移動平均線(赤)


(出所:石原順)

ナスダック(月足) 13年2カ月ぶりに4000ポイントを回復

上段:14ヶ月ADX(赤)・26ヶ月標準偏差ボラティリティ(青)
下段:26ヶ月移動平均線(赤)


(出所:石原順)

「ジャパントレード」というファンドの買い仕掛け

米国株の上昇と連動して、海外勢が売買シェアの7割を占める日経平均も今年の5月高値を覗う格好となっている。11月12日に某金融機関の運用者から「海外勢が日経平均やドル/円を大量に買っている」との電話があったが、この日から海外ファンドの「ジャパントレード(日本株買い+円売り)」が始まったようだ。

グローバルマクロファンドの日本株買いはまだ始まったばかりだ。海外勢が注目しているのは下の日経平均のチャートである。1996年からの長期抵抗線のブレイクが視野に入っており、「この抵抗線を抜けると2014年相場で2007年高値18300円の奪回がある」と予測する海外ファンドは多い。

日経平均(月足) 1996年からの長期抵抗線(赤のライン)ブレイクは買いサイン?

ジャパントレードのターゲットは2007年高値18300円


(出所:石原順)

ジャパントレードと円相場

グローバルマクロファンドは日本株買いに円売りを組み合わせており、日経平均とドル/円相場の相関係数は11月に入って0.9と限りなく1に近づいている。

日本株の上昇と連動してドル/円は100円60銭や101円50銭といった抵抗ポイントを上抜き、今年の高値103円70銭というターゲットが視野に入ってきた。

ドル/円(日足) 円売りトレンド継続中

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ドル/円よりも買われているのはポンド/円やユーロ/円などの欧州通貨である。ポンド/円は日足の買いトレンドも強力だが、週足のチャートを見ていると大相場になってもおかしくはない形状となっている。

ポンド/円(日足) 強烈な円売りトレンド相場に・・

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ポンド/円(週足) 抵抗線を上抜けて上値余地が拡大

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/円の日足のトレンド指標(ADXや標準偏差)は筆者もあまり見たことがないような形状となっている。長い凪相場からボラタイルな相場に移行したと思われるが、これから活発な動きとなりそうだ。

ユーロ/円(日足) 長期の凪相場が終了しダイナミックに動きそう?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/円(週足) 抵抗線を上抜くか?

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

欧州通貨に比べると、オセアニア通貨はおとなしい相場となっている。豪中銀が通貨高を牽制する発言やゴールドマンサックスの「豪ドル売り推奨」を受けて投機筋の豪ドル売りが続いている。ただし、投機筋は豪ドル/円を積極的に売っているわけではなく、ユーロ/豪ドルや豪ドル/ニュージーランドドルといった通貨ペアを選好している。

豪ドル/ニュージーランド(左)とユーロ/豪ドル(右)の日足

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円やニュージーランド/円は9月・10月にかなり上げたので、現在は三角保合の調整相場となっている。バブル相場は循環物色が続くので、オセアニア通貨にもそのうち出番がまわってくるだろう。

豪ドル/円(左)とニュージーランド/円(右)の日足

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

最適政策がFOMCの金融政策運営に採用されればニュー・バブルが起こる?

イエレンが「テーラールール」の代替として使っている「最適政策」は「失業率5.5%という事実上の完全雇用」をゴールとしており、超低金利解除が民間の調査機関やFOMCの予測時期よりかなり後ズレするという観測が現在のバブル相場を強化している。

イエレンの最適政策は「FRB/USモデル(計量経済モデル)を根拠に社会的損失を最小化する金融政策運営のルール」であると説明されているが、簡単に言うと、「インフレを軽視して失業率の早期低下を実現する」モデルである。

イエレンの言う「社会的損失の最小化」とは失業問題を重視するということであり、インフレ(物価)より雇用を重視していることがわかる。これがイエレンの政策の特徴であり、イエレンは「雇用」と「物価」の二重政策目標を持つFRBは最適政策(Optimal Control)を実施すべきと主張している。

素朴な疑問として、「イエレンの計量経済モデルによる予測が当たるのか?」という問題がある。計量経済モデルによる相場予測がほとんど外れるのと同じではないかという疑念が筆者にはあるが、イエレンは計量経済モデル(Optimal Control)に自信を持っているようだ。

「イエレンはハト派で金融緩和の効力を過大評価している。失業率とインフレ目標を達成するまでだらだらと超金融緩和政策が続けば、制御不能のバブルが発生する」という理由で共和党はイエレンを批判している。

しかし、これまで5年間にわたりかつてない非伝統的金融政策が講じられてきたが、インフレの兆候は全く見あたらない。QEでいくらお金をばらまいてもインフレになっていないのである。現在、イエレンが心配しているのはバブルではなく、米国の「日本化」や「流動性の罠」に陥ることであろう。

イエレンが2012年4月に発表した最適政策 イエレンは金融政策の効果を信じている

上:最適政策による政策金利見通し(緑)
左下:最適政策による失業率見通し(緑)
右下:最適政策によるPCEデフレーターの見通し(緑)


(出所:FRB 「The Economic Outlook and Monetary Policy」Janet L. Yellen)

本来、失業率を早期に下げようと思えば財政出動を行うしかない。財政出動では確実に雇用が生まれる。しかし、金融政策では雇用を増やすのは難しい。QEはマーケットには効果はあったが、雇用が改善していないのは以下の「米国の全人口に対する民間労働者の比率」を見れば明らかである。

米国の全人口に対する民間労働者の比率(2013年11月8日現在) 

これ以上QEを続けても雇用は回復しない?ベビーブーマーの退職を割り引いても、リーマンショック以降の米国の雇用はそれほど改善していない 


(出所:セントルイス連銀)

FRB議長候補を辞退したサマーズはQEや超低金利政策では失業問題は解決しないとして、「財政出動・法人税減税・本国投資法・生産性の向上のための労働者教育」などをオバマに提言していたが、イエレンは金融緩和で失業率を下げることは可能であると思っているようだ。

イエレンの最適政策は、「失業率5.5%という事実上の完全雇用」をゴールとしており、なんとかリーマンショック前の水準に失業率を戻したいようだ。しかし、金融緩和で失業問題を解決するには、例えば日本の1980年代後半のような100年に1回のバブルを起こさないと不可能に思える。

イエレンの最適政策で失業率はあまり下がりそうにないが、米国は緊縮財政を行なっており金融緩和頼みの状況である。行き場のない過剰資金が株や不動産のバブルを誘発する可能性は大きい。11月 21日 のウォールストリートジャーナルには『金融緩和があと何年も続くと世界経済はどうなるか』という記事が載っていたが、「資産バブルが起こり貧富の差が拡大する」というのが結論である。

イエレンバブルの賞味期限はとりあえず3月か…

現時点でイエレンが雇用重視で失業率を下げるために超低金利政策を長期化したいと思っているのは間違いないが、問題はFOMCという組織をイエレンが掌握できるかどうかである。FRBの幹部達は先の論文を見るとすでにイエレン色に染まっているが、イエレンの最適政策が何も修正されずにそのままFOMCで採用されるかどうかはわからない。イエレンの新たな政策については、イエレンFRB議長のデビューとなる3月18・19日のFOMCを待たなければならない。

来年はFOMCのメンバーが大きく変わる。投票権を持つFOMCのメンバーのうち、ハト派のエバンス、ローゼングレンは外れ、日和見主義のブラードも投票権を失う。代わりに強烈なタカ派であるプロッサーとフィッシャーが入ってくる。バーナンキは1月で退任し、ラスキンも退任する。また、FRB副議長をオバマはまだ指名していない。

中央銀行に必要なのは独立性ではなく中央銀行総裁の資質であると言われるが、来年はイエレンの資質が問われる年になりそうだ。「ハト派のイエレンがタカ派のFOMCメンバーをどのように納得させるのか」が投機筋の注目点であり、イエレンFRBのフォワードガイダンスによってバブル相場の賞味期限が決まってくる。

おそらく3月FOMCまではフォワードガイダンスは大きく変わらないだろう。FRB議長は大統領に匹敵する権力を持っている。イエレンの「雇用と物価のデュアルマンデートを持つFRBは最適政策(Optimal Control)を実施すべき」との主張がFOMCでも通りそうだが、実際にどうなるかはわからない。

今のイエレンバブル相場は、「イエレンの最適政策の採用をあてにした期待相場」なのである。米・欧・日の中銀総資産の資産は10兆ドル(約1000兆円)に到達しさらに相場はバブル化しそうだが、イエレン新FRB議長のFOMCデビューとQE縮小開始が噂される3月は波乱がありそうだ。とりあえず、イエレンバブル第一弾は3月までとなりそうである。