巻き戻された円安ポジション

 先週は欧米のPMI(製造業購買担当者景気指数)の悪化を受けて、一気に円高調整が進み135円台半ばまで円高が進みました。

 7月22日に発表された7月PMI総合指数がユーロ圏で49.4(前月比▲2.6)、米国で47.5(前月比▲4.8)と景気の分岐点といわれる50を軒並み下回ったことを背景に、米10年債利回りは一時2.7%台前半と約2カ月ぶりの水準に低下したことからドル/円も売られ、一時135円台半ばまで下落しました。

 FRB(米連邦準備制度理事会)の1%利上げ期待から7月14日に139円台前半まで上昇したドル/円は、1%利上げ観測が後退したことから、ドル売りとなり、経済指標の悪化も受けて1週間で約4円の円高となりました。

 135円以上の円安のポジションが巻き戻された感じです。特に、21日、22日の二日間で3円超の円高となっています。

さらに強まる景気悪化懸念

 この二日間の動きを振り返ってみますと、21日には、日本銀行の金融政策決定会合で大規模緩和は維持されました。

 また、黒田東彦総裁は記者会見で為替対応の利上げは「合理的でない」と明言しました。これらを受けてドル/円は138円台後半まで円安に行きましたが、NYで7月フィラデルフィア連銀景況指数が予想を大きく下回ったことから景気悪化懸念が強まり、ドル/円は下落しました。

 黒田総裁が円安抑制のための利上げを否定したにもかかわらず、円安は維持されず、景気悪化懸念の方が材料視されたようです。

 また、同日のECB(欧州中央銀行)理事会では予想以上の0.50%の利上げが発表され、ユーロが上昇し、ユーロ/円の上昇とともにドル/円も円安に動きましたが、クリスティーヌ・ラガルド総裁が記者会見で6月時のガイダンス(7月は0.25%の利上げで9月はおそらくそれ以上の利上げ)は9月の金融政策には適用されないと発言したため、次回の大幅利上げ期待が後退し、ユーロが売られ、ユーロ/円の急落を受けてドル/円も137円台前半に下落しました。

 そして22日は上述した欧米のPMIが悪化したことから景気悪化懸念がさらに強まり、ドル/円は一段安となり、135円台半ばまで円高となりました。

 この二日間の動きは今後の相場の動きを示唆する動きかもしれません。日銀の緩和維持でも円安材料にならず、ECBの利上げでも景気悪化の方が材料視されました。今週26~27日のFOMC(米連邦公開市場委員会)ではどのような反応をするのか注目です。

 今週のFOMCでは0.75%利上げの見方が大勢となっています。

 0.75%では為替はほとんど反応せず、1%利上げにならない限り、ドル/円の当面の高値はみたかもしれません。

 注目はジェローム・パウエル議長がFOMC後の記者会見で、景気悪化を意識し9月からの方向性を柔軟に対応するような発言をするのか、それとも足元の物価高から手綱を緩める訳にはいかず、大幅利上げの継続姿勢を貫くのかどうか注目です。

 米国の足元の物価(6月+9.1%)は、ガソリンや住宅販売は勢いをなくしてきていますが、家賃は高止まりしていることに加え、前年の7月、8月、9月の前年比CPI(消費者物価指数)はまだ5%台であるため、物価のピークアウト感は夏場後半か秋口以降かもしれません。

 次回9月のFOMCが分岐点になる可能性もあるため、8月のジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演が相当注目されそうです。

欧米のGDPに注目

 FOMCの翌日28日には米国4-6月期GDP(国内総生産)が発表されます。アトランタ連邦準備銀行のGDPNowは7月19日時点で▲1.6%を予測しています。

 もし、マイナス成長となれば、2四半期連続のマイナス成長となり、リセッションとなります。ドル/円は135円を割れて、調整が続くかもしれません。

 リセッションについては、米経済はリセッション入りしないとのメッセージが米政権から相次いで発信されています。24日、ジャネット・イエレン財務長官は労働市場と個人消費が堅調であることからGDPがマイナス成長であっても「景気後退と決めつけてはならない」と強調しました。

 また、25日、ジョー・バイデン大統領も米失業率が3.6%の歴史的低水準にある点を強調し、「私の見解では米経済はリセッション入りしないだろう」と発言しています。

 11月の中間選挙を控えていることもあり、GDP発表前に相次いで発信することによってマーケットや国民は過剰反応しないようにと予防線を張っているようです。

 29日にはユーロ圏4-6月期GDPが発表されます。ユーロ圏はプラス成長になってもユーロ圏最大経済圏であるドイツがどの程度の成長なのか注目です。

 ラガルド総裁はECBの理事会後の記者会見で、リセッションについて「基本シナリオでは今年も来年もリセッションに陥ることはない」と説明していますが、同時に「ただ、先行きは暗雲が漂っている」とも述べています。

 25日、ロシアは4割に制限していた「ノルドストリーム」の欧州向け天然ガス供給量を、タービン修理を理由に2割に制限すると発表しました。

 これらの動きを受けて、26日、EU(欧州連合)は天然ガスの消費を来月8月から来年3月まで15%削減することで合意しました。

 0.5%の利上げとロシアからの天然ガス供給削減、自主的な天然ガスの消費削減はじわじわと欧州経済に効いてくると思われます。ユーロは再びパリティ割れになるかもしれません。

 米経済がマイナス成長になってもリセッションではないとのお墨付きを得たFRBは、9月以降も景気よりもインフレ退治を堂々と優先することができそうです。為替市場で利上げによるドル高の影響を受ける主役は円からユーロに変わっていくかもしれません。