景況感の悪化とコモディティ市場の下落
世界的な景況感の悪化とカネ余りのせめぎ合いの中で、運用先に頭を悩ませているファンドマネージャーが増えている。世界的に景気が良いならばリスク商品の「買い」一辺倒でよいが、景気の先行きに自信が持てないのが昨今の相場だ。
世界的な景況感の悪化を裏付けるように、2013年のコモディティ市場は低迷が続いてきたが、10月からコモディティ市場が一斉に下落しており、原油をはじめ穀物、ゴールドなどが軟調な展開となっている。
エネルギーや貴金属、農産物などのコモディティを幅広く網羅し、世界的な物価や景気の代表的な指標として使われているCRB指数は、製品原料として使う商品を多く含むため物価上昇率(インフレ動向)の先行指標として国際的に注目されているが、CRB指数の動きを見ていると、景気の先行きは厳しそうでありインフレの兆候は見られない。
CRB指数先物(日足) CRB指数は物価上昇率(インフレ動向)の先行指標
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
原油先物(左)とゴールド先物(右)の日足 原油は急落
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
コーン先物(左)と小麦先物(右)の日足 穀物も急落
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
世界的な景況感の悪化を支えているのが、FRBと日銀の金融緩和である。BOE(英中銀)やECBのポートフォリオの拡大は現在止まっており、来年はFRBの緩和縮小が開始される可能性が大きい。ここからの相場はFRBの出口戦略次第だ。QE縮小が開始されると、中国・ロシア・ブラジル経済への影響は大きなものとなる。まだ、先の話だが「ドル高・株安という不景気相場」も頭に入れておくべきだろう。
中央銀行のポートフォリオの推移 2007年~2013年
(2007年1月を100とした変化率の推移)
コモディティ市場の低迷の背景には2014年7月に完全実施が目標とされている「ボルカールール」(銀行の自己勘定取引禁止)の影響がある。コモディティ部門の取引を縮小する金融機関が増えているが、ボルカールールは「骨抜き」になると言われており、QE縮小開始が来春以降まで延期されるとの観測のなか、コモディティ市場にも金融緩和マネーが入り込みQE縮小延長バブルとなってもおかしくないはずだ。しかし、そのようなバブル状況となっていない。
中国の景気低迷が続くなか、QE縮小延長といってももはや総花的なバブル相場は期待できない。緩和マネー相場は「株式市場限定」の相場となっている。その株式市場も業績相場ではなく、カネ余りだけで上がっていることを我々は認識する必要があるだろう。恐怖指数と呼ばれるVIX指数は株式市場の先行きを楽観しているが、FRBの政策によっては株式市場も危険が増す可能性がある。
上海総合指数(日足)
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
ECBの利下げ観測がくすぶるユーロ
欧州圏の株は上がっているが、スペイン・ポルトガル、イタリアなどの景気は脆弱だ。欧州圏の失業率は9月に過去最高の12.2%を記録している。ユーロ圏のインフレ率は0.7%に鈍化しており、イタリアの財務相はECBに金融緩和を要求している。
このため、本日2013年11月7日(木)のECB理事会での利下げ観測が浮上している。後手にまわるのが特徴のECBだけに「7日の理事会は主要政策金利のリファイナンス金利を過去最低の0.5%に据え置く」と予想されているが、12月の理事会で新たなガイダンスを発表するため、12月利下げ説がくすぶっている。本日、政策変更がなくてもドラギ総裁の会見がハト派的であれば、ユーロの上値は重くならざるを得ない。
また、欧州圏の過剰流動性が大きく低下しているのも緩和観測を後押ししている。バーゼルⅢの絡みで、来年のストレステスト控えた欧州の銀行は期間3年流動性供給オペ(LTRO)資金を早期返済しているが、ストレステストの結果によってはファイナンスコストが大きく上がる銀行も出てくるだろう。返済が続いているのに2年LTRO観測が絶えないのは、ストレステストのセーフティーネットの意味合いがある。
このように見ると、ECBの今後の金融政策は緩和的になる可能性があり、直近の相場は株高・ユーロ軟調となっている。
独DAX指数(日足) 金融相場で不景気の株高に
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
ユーロ/ドル(日足) 400ポイントの急落でトレンドライン(青)の攻防に
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
10月米雇用統計
明日11月8日には米10月雇用統計が発表されるが、政府機関閉鎖の影響がわからず、ブルームバーグの予想をみると非農業部門雇用者数の最低が5万人増、最高は17万5000人増、失業率が7.2%~7.6%とテールが長くなっている。不透明感が強く蓋を開けてみるまでわからないが、市場予想の中央値は非農業部門雇用者数:前月比+12万人、失業率:7.3%となっており、この数値より良いか悪いかの判断で相場が動くのだろう。
米雇用統計の推移 失業率7.3%・非農業部門雇用者数+12万人の予想
(前月の失業率7.2%、非農業部門雇用者数+14.8万人より悪化する見通し)
イエレンFRBにとっての「最大の危機」は何か?
米上院銀行委員会が11月14日にイエレンのFRB議長指名承認公聴会を開く事が決まった。公聴会前にイエレンと会談を持った議員は、「イエレンとFRBの債券購入策やその最終的な解消方法について話した」と語っている。
イエレンは多数決で承認されるだろうが、イエレンの承認については共和党議員からの妨害が予想される。上院銀行委員会の幹部メンバーであるリチャード・シェルビー上院議員(共和党)はイエレンとの会合後、FRBの月額850億ドルの債券購入策に懸念を示している。
市場のイエレンへの評価は、「バブルを認識する能力はあるが、その対応は後手にまわるだろう」というものだ。共和党議員への配慮や、「決められないFRB議長」との評価を覆すために、イエレンは公聴会で市場が思うよりもタカ派的なコメントをする可能性がある。それを市場が素直にとれば、ドル高・株安に振れる可能性もあり注意したい。
イエレンが「雇用」や「住宅市場」を重視している以上、金融緩和は来春辺りまで継続される可能性は大きい。今後なにかの「危機」が起これば、イエレンFRBは「新たな緩和策」を導入するだろう。
イエレンFRBにとっての最大の危機は、金融緩和やQEが出来なくなる水準までインフレ率が上昇することだろう。イエレンがいくらハト派であろうとも、インフレ率が3%を超えてくれば量的緩和政策をとるのは難しくなる。
幸いにして、まだ米国のインフレ率は低い。米国の9月のCPIは1.1849%と大きく落ち込んでいる。副作用は大きくなるものの、FRBは危機が起こればドルをまだいくらでも印刷できる環境にある。
筆者が中央銀行(国策)バブル相場はまだ延命すると考えている理由はインフレ率だ。ただし、仮に今後QE4?があったとしても、新たな緩和策を発表するたびに市場の反応は鈍くなっており、その効果は限られる可能性がある。
米国のCPIの推移(対前年比) 2003年~2013年
現在の相場はFRBの政策次第であり焦点は「インフレ率」
カネ余り・不景気・運用難のなかで投機資金は先進国の株を選好
S&Pとブルームバーグの調査によると、「S&P500株価指数が1~10月に10%以上上げた場合、その年の最後の2カ月間に上昇したのは1928年以降のうち82%。11~12月の平均上昇率は6%で、これはS&P500株価指数が今年、1862.79まで上昇することを意味している」という。 S&P500株価指数の11~12月のリターンは毎年プラスとなっており、運用難のなかこのアノマリーに賭ける投機筋は多い。
S&P500(月足)
上段:26ヶ月標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21ヶ月ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
日経平均の「10月末買い・4月末売り」のトレードは、過去64年間で10月末~4月末に下落したことが16回ある。しかし、10月末までの年初来上昇率が30%を超えていた6回のケースでは、「10月末買い・4月末売り」のトレードは一度も下落したことがなかった。2013年の日経平均は年初から10月末まで35%の上昇を記録しており、今年も「10月末買い・4月末売り」のトレードに期待して11月の押し目を拾いたい。
月別の日経平均の動き
<1971年9月から2013年7月までの503カ月間(約42年間)について、日経平均の4本値(始値、高値、安値、終値)を調べ、月間の変動パターンについて、始値を100としてグラフ化>
上に述べたように筆者は「中央銀行(国策)バブル」相場がまだ延命すると考えている。その見方が正しければ、運用難も相まってどこかで「円キャリートレード相場」が走る可能性は大きいだろう。11月は押し目買いの月、クロス円相場の押し目買いを継続したい。
豪ドル/円(日足)
ニュージーランド/円(日足)
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