米国のQE縮小後ズレで日本に逆風が・・

9月FOMCでQE縮小が見送られ、とりあえず12月までQE縮小はないというのが市場のコンセンサスであったが、今ではQE縮小開始3月説が有力となっている。FEDウォッチャーであるウォールストリート・ジャーナル紙のヒルゼンラスが「12月はあり得るが、3月の可能性が高い」「FRBのバランスシートが正常化するのは19年半ばから21年半ばの間」とコメントしていることから、「米国の出口戦略は6年~8年かかる」という観測が浮上している。

FRBの総資産(10月23日現在 単位 100万ドル) FRBは資産の拡大が続いている

「金融政策のホテルカリフォルニア化」でQE縮小は後ズレ?


(出所:石原順)

「QE縮小をやるふりをみせて、結局はなかなかやらないのだろう」と、市場はFRBを軽んじたようで、現在は株式市場を中心にQE延長バブル相場が展開されている。このバブル相場は「イエレントレード」と呼ばれているようだ。日本円で毎月8兆円近くのドルが当面ばらまかれるとの観測から、米株・欧州株・一部の新興市場株はバブル相場になっている。ブラジルの運用者が「景況感はよくないが、株だけ上がっている」と言っていたが、この相場は基本的にカネ余り相場なのである。

下のチャートを見ると、欧州株が元気なのがわかる。9月以降、経済危機に見舞われているスペインの株が急騰しているのは常識的には腑に落ちない動きだろう。一方、日本株は5月まで上げすぎたのと、その後の急落で調整相場を余儀なくされている。

日本は安倍首相が「Buy my Abenomics」と異次元緩和や成長戦略を盛んに言及しているが、投機筋は「米国のQE縮小延期」の方に賭けているのだ。米国のQE縮小延期で、「アベノミクス相場」がかすんでしまっているのが9月以降の相場である。

スペインIBX指数(左)と日経平均(右)の日足

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

独DAX指数(左)と上海総合指数(右)の日足

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ブラジルボベスパ指数(左)とインドSENSEX指数(右)の日足

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

通貨市場はユーロを選好・ドル/円は中立(ニュートラル)

上に書いた欧州株高・日本株保合(もちあ)いの動きを素直に反映して、通貨市場ではユーロが高く、ドル/円はレンジ相場が続いている。

ドル/円(日足) 長いレンジ相場が続いている

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

サマーズFRB議長就任観測で3%まで上昇した米国の金利は、サマーズの候補辞退と9月FOMCのQE縮小見送りを受けて現在2.5%まで金利が低下している。その結果、ドル/円は米国のQE延長(米金利低下)と異次元緩和のせめぎ合いで相場がニュートラルとなり動きがとれない状況だ。

米10年国債金利(日足) QE縮小後ズレで金利低下

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

長いドル/円相場の持ちあいに業を煮やした投機筋は、9月のFOMC以降株高・通貨高が続いているユーロ圏に資金を移している。バーゼルIIIの下で狭義の中核的自己資本(コアTier1)比率を最低8%にする動きから、欧州の金融機関はバランスシート縮小に動いており、それに関連してリパトリも出ている。まだ欧州株高から欧州への投機資金のリパトリも観測されている。ECBの総資産がLTRO(3年物オペ)の返済で縮小していることもあり、投機筋のユーロ選好は強化されている。それが9月FOMCからここまでの動きだ。

ユーロ/ドル(日足) 9月以降のユーロ買いトレンド相場もそろそろ一服か?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ECBの総資産(10月18日現在 単位:10億ユーロ) ユーロ堅調の底流にはECBの資産縮小が・・ LTRO(3年物オペ)の返済で総資産は縮小中 


(出所:石原順)

ドル安圧力弱まる

QE縮小延期観測から株高・ドル安相場が進展してきたが、ここにきて相場に変化が見られる。9月18日以降のドル安相場は一ヶ月半に渡って続いてきたが、ドル売りポジションが積み上がり、ドルの「売られすぎ感」が出てきたためだ。米ドルの総合的な価値を示す指標である「ドルインデックス」の日足を見てみると、相場は21日ボリンジャーバンド1シグマの内側に入ってきており、強い売りトレンドは一旦終了した形となっている。

ドルインデックス(日足) 相場は1シグマの内側に

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ブローカーによると、「11月・12月はファンドの決算月であり、利益の出ているドル売りポジションの手仕舞いが出ている」ようだ。QE縮小延期観測でドル安と株のバブル相場が走ってしまっているが、市場が忘れているのはいずれにせよ、「近い将来にFRBはQE縮小に着手する」ということである。この修正がどこかで入るだろう。

あるファンドの運用者は、「イエレンが本当にハト派なのかどうかはわからない。また、イエレンは人格的には非の打ちどころがないが、今後タカ派のメンバーが増えるFOMCを掌握できるかどうかに疑問が残る」と話している。そのため、11月中旬以降に予定されている上院銀行委員会の「公聴会」にファンド勢は注目しているようだ。

サマーズが泥船から逃げ出すようにFRB議長を辞退する書簡をオバマに送ったことで、ホワイトハウスのスタッフとオバマの間にも深い亀裂が生まれ、オバマの今度の政権運営にしこりが残った。しかし、サマーズをめぐる軋轢は残っているものの、オバマ政権の経済スタッフの顔ぶれをみる限り、オバマ政権がクリントン政権のコピーに動こうとしている方向性に変わりはない。

12月か3月かはともかく、米国が「QE縮小に動くのは既定路線」といえる。したがって、大きな流れで見れば既にドルは長期上昇相場に転換している可能性があることを頭に入れておきたい。新興国は期間限定のバブル相場である可能性があり、新興国の運用者はそのことをとても気にしている。

クリントン政権とオバマ政権のドルインデックス先物(月足)

ドル高路線は頓挫したかに見えるが、オバマはクリントン政権2期目のコピーに動いている?
1期目はドル安政策・2期目はドル高政策?(1期目=黄色・2期目=緑色のゾーン)


(出所:石原順)

筆者はこのレポートを10月30日に書いたが、本日10月FOMCの結果が飛び込んできた。声明文が市場の予想より若干タカ派だったことでドルが買われたが、市場の一部で「QE縮小12月開始説」が再浮上している。FOMCは一月ごとに「QEをやめる?やめない?」の観測が逆転しており、今後も「QEをやめる?やめない?」の憶測が、市場を動かしていくことになりそうだ。

こわい相場ほどよく上がる?バブル相場のパターン

先週のレポートで「SP500はY波動を上抜けて、QE延長バブル相場に突入か?」と書いたが、SP500もNYダウも高値更新相場が展開されている。いつも相場の暴落や弱気を唱えているニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授が「強気」に転換したことがウォール街で話題となっている。

SP500(月足) Y波動を上抜けてQE延長バブル相場に突入?

上段:26ヶ月標準偏差ボラティリティ(青)
下段:MACDの売買シグナル


(出所:石原順)

しかし、米国株の上昇に反して市場では「米国株急落説」がくすぶっている。ざっと上げておくと、ブラックロックのフィンクが「金融市場は再度、非常にバブルのように見える」、バフェットが「バーゲンを見つけていない、現在買いに値するものを探すのは困難」、アイカーンが「概して、株式市場はオーバーバリューされている。ヘッジが必要。また、商業用不動産市場もオーバーバリューされている」、元ソロスファンドのドラックンミラーが、「マーケットはトップを形成中」とコメントしている。

こういった、コメントが何故出てくるかというと、現在の相場は「単純なカネ余り」相場だからだ。会社によって分析が異なるが、S&P500のPER(株価収益率)は14~16倍と4年ぶりの高水準にあり、過去8年間の上限に近い。したがって、株の逆張り派や弱気派からみると、ここからの上昇はファンダメンタルズから乖離したバブル相場で、「買うものがない」と言うことになる。

しかし、筆者の感触ではこのバブル相場はまだしばらく続くと思われる。筆者は数多くの相場急落を体験してきたが、相場の天井付近では過熱感がつきものだ。相場が天井を打つ典型的なパターンは、相場の強気派が増える一方で、「相場がこんなに上がるのはおかしい。ファンダメンタルズから大きく乖離している」と売りも出てきて、相場の取り組みが増えてくることが多い。そして、相場の最後の上昇は「売った人の買い戻し」で終るのである。2011年のシルバー相場の急落や2000年のナスダック急落(ITバブル)の崩壊は、この典型的パターンであった。

シルバー先物(日足) 2011年の急落相場 周期的な買われすぎ水準の先にバブル相場は発生する

上段:MACDの売買シグナル
下段:ストキャスティクス5.3.3


(出所:石原順)

ナスダック(日足) 2000年の急落相場 2011年の急落相場 周期的な買われすぎ水準の先にバブル相場は発生する

上段:MACDの売買シグナル
下段:ストキャスティクス5.3.3


(出所:石原順)

NYダウ(日足)2012年~現在まで まだ過熱感はない

上段:MACDの売買シグナル
下段:ストキャスティクス5.3.3


(出所:石原順)

そのようなバブル相場の「形成パターン」を考えると、現在の相場はそれほど過熱していないように思える。データの発表が遅れていて10月8日時点までのデータしかないが、S&P500先物(CME)のポジションを見ると、買い越し額は相場がピーク(天井)を付けるような状況ではない。

S&P500先物(CME)のポジション 買い越し(赤)・売り越し(青)


(出所:石原順)

先週のレポートで紹介したトム・デマークの「NYダウ-アナログモデル」も話題となっているが、仮にこの分析が実現するとしても、このアナログモデルは「来年の1月に向けて相場がバブルする」ことを示唆している。

NYダウ(日足) アナログモデル

2012年5月以降から現在までのNYダウは、1928年~1929年のNYダウと似ている?
2012年5月~2013年10月25日(赤)
1928年1月~1930年4月30日(青)
トム・デマークは「2012年5月以降から現在までのNYダウは、1928年~1929年のNYダウと似ている」として、米国株の大幅下落に警鐘を鳴らしている)


(出所:石原順)

米国株の「ハードランディングシナリオ」が出てきた背景は、FRBが9月のFOMCで「市場との対話」に失敗したことが影響している。市場の「コンセンサスどおり」に緩和縮小に着手していれば、QE縮小相場が「ソフトランディング」することは可能であった。しかし、FRBの信任が低下したことで、バブル相場の拡大が長引くほどバブル崩壊の影響は大きくなるとみている運用者は多い。しかし、それは「今」ではないだろう。

このような「危機」はマーケットでいつも囁かれており、そのような「危機シナリオ」に乗った「売り方の買い戻し」によってバブル相場はピークをつけるのである。「株売りや暴落で儲けよう」というファンド筋を除くと、マーケット参加者のほとんどは株の「買い方」である。あれこれ考えても仕方がないので、「想定外」に備えるにはストップ・ロス注文を置いておくしかない。

「ハロウィーン効果」に賭ける?

筆者はQE縮小の後ズレから「現在の中央銀行バブルはまだ半年ほど続く」と見ており、株・ドル円・クロス円の「押し目買い」というスタンスに変更はない。仮に12月にQE縮小が開始されたとしても、当面はカネ余り環境が続くことに変わりはない。日本の金融政策に関して言えば、仮に日本株やドル/円相場が急落すれば「黒田バズーカ第2弾」や「年金PKO」が発動されるだろう。相場の「押し目」は「買い場」と考えている。

日銀の総資産 (10月20日現在 単位 10億円) 異次元緩和は続く


(出所:石原順)

今日は10月末のハロウィーンである。筆者は今年も「10月末買い・4月末売り」の株の買い循環期(ハロウィーン効果)のパターン分析をもとに、ポジションを構築する予定だ。

株が上がるのは11月から4月となることが多いが、過去のデータを見ると11月から12月までの上昇率はたいしたことはない。大きく上がるのは1月から4月である。したがって、今年も11月から12月相場の押し目を分散して拾いたい。悪材料は市場に掃いて捨てるほどあるが、それは毎度の事である。

月末から6ヶ月間の投資を20年間繰り返した場合のリターン

各国・地域の株価指数に連動するETFに投資したと考える(ドイツのみ配当込み)


(出所:日経ヴェリタス【ベンチマーク】『「ハロウィーンに買え」を信じるか』前田昌孝)

円相場の「10月末買い・4月末売り」

2000年から2012年までの「高低差の平均」と「星取り表」


(出所:石原順)

豪ドル/円(月足) 2007年~2013年

「10月末買い・4月末売り」の年度別パフォーマンス(赤は損失の年)


(出所:石原順)

ニュージーランド/円(月足) 2007年~2013年

「10月末買い・4月末売り」の年度別パフォーマンス(赤は損失の年)


(出所:石原順)

ユーロ/円(月足) 2007年~2013年

「10月末買い・4月末売り」の年度別パフォーマンス(赤は損失の年)


(出所:石原順)

相場に絶対の法則はない。筆者が上に書いたことは、あくまでも過去の結果からの仮説であり目安に過ぎない。通貨や先物の取引で重要なことは、レバレッジを上げないことと、ストップロス(あらかじめ計算された損出処理)を徹底することだ。資産管理のルールさえ守っていれば、短期的にうまくいかなくてもいつか報われるときはくるだろう。相場で一番大切なのは「防御」である。