「0.4%成長」の内訳を分解。グッドニュースは?

 7月15日、中国国家統計局が2022年4-6月期、6月単月、および1-6月の各種経済統計結果を発表しました。以下に一覧を整理したので、まずはご覧ください。

中国の各種経済統計

(前年同期比) 4-6月 1-3月 2021年10-12月
実質GDP 0.4% 4.8% 4.0%
(前年同期比) 1-6月 1-5月 1-4月
固定資産投資 6.1% 6.2% 6.8%
不動産開発投資 ▲5.4% ▲4.0% ▲2.7%
不動産販売面積 ▲22.2% ▲28.1% ▲25.4%
不動産販売金額 ▲31.8% ▲34.5% ▲32.2%
(前年同期比) 6月 5月 4月
工業生産高 3.9% 0.7% ▲2.9%
小売売上高 3.1% ▲6.7% ▲11.1%
調査失業率(農村部除く) 5.5% 5.9% 6.1%
同16~24歳 19.3% 18.4% 18.2%
出所:中国国家統計局より筆者作成

 まず目を引くのが4-6月期の実質GDP(国内総生産)0.4%増でしょう。市場予想1.2%増よりも明らかに低く、1-3月期の4.8%増からも大きく低迷した経緯が見て取れます。中国政府が設定した2022年のGDP成長目標は5.5%前後ですから、下半期(7-12月)に約8.5%成長しなければ目標は達成されないことになります。黄色信号点滅と言えるでしょう。

 一方、グッドニュースは原因が明確である点。その原因とは、物議を醸してきた「ゼロコロナ」策に伴うロックダウン(都市封鎖)、特に3月28日から約2カ月間続いた中国経済の中心の一つである上海市のロックダウンに他なりません。ここでは二つの角度からその因果関係を検証してみましょう。

 まず、上の表の単月の部分、工業生産高と小売売上高を見てみましょう。4月、5月と上海市はロックダウン下にありました。個人消費、物流、サプライチェーンなどにとって致命的なマイナス要素として作用した結果、4月、工業生産高が2.9%減、小売売上高は11.1%減となりました。5月に入ると、ロックダウン措置も若干柔軟かつ機動的になったことも影響してか、それぞれ0.7%増、6.7%減と回復の兆しを見せ始めています。

 4-6月というかたまりの中でも、4月に経済が底打ちした経緯が見て取れます。そして、6月1日に上海市でロックダウンが解除されると、それぞれ3.9%増、3.1%増と顕著に改善します。特に、消費の回復には目を見張るものがあり、逆に言えば、ロックダウンの破壊力がそれだけ深刻であるということです。4月から6月、失業率の推移にも同様の因果関係が見て取れます。

 次に、7月15日、全国31の省・直轄市・自治区のGDP成長率も発表されました。マイナス成長だった地域は五つで、4-6月期は、上海市13.7%減、吉林省4.5%減、北京市2.9%減、海南省2.5%減、江蘇省1.1%減という結果でした。

 ちなみに、上海市と吉林省に関しては上半期全体(1-6月期)で見ても、マイナス成長(上海市5.7%減、吉林省6.0%減)。両地域の経済情勢はロックダウンの影響を直接的に受けました。北京市では大規模かつ徹底したロックダウンは取られませんでしたが、それでも多くの地域で移動、外出制限措置が取られ、経済活動に打撃を与えました。

 要するに、「ゼロコロナ」策に伴うロックダウンをはじめとした厳しい措置が取られた地域の経済は悪化する、という明確極まりない教訓を見いだすに至っているということであり、原因が明確である、というのはそういう意味です。

新華社通信「上半期2.5%増、4~6月プラス成長実現」の意味

 国家統計局による発表後、国営新華社通信は、「上半期2.5%増、第2四半期はプラス成長を実現」という見出しで速報記事を配信しました。日本メディアでは「0.4%増」が前面に出されていました。例として、日本経済新聞は速報として「中国、0.4%成長に失速 4~6月実質 ゼロコロナ直撃 『今年5.5%』難しく」という見出しで記事を配信しています。

 ポイントはなぜ新華社という当局の立場や意思を反映する国営の通信社がこのような見出しを付けたか、です。まず、4-6月の0.4%増ではなく、1-6月の2.5%増を見出しに付けた理由は、前者の数値が悪く、見栄えも良くない、中国経済は相当悪いという印象も拭えないからでしょう。仮に4-6月の数値が1-3月よりも良ければ、それを見出しにつけていたはずです。

 次に、私から見てより重要なのが、「プラス成長実現」という文言です。一言で言えば、経済がロックダウンによる打撃を受ける中で、プラス成長ですら困難だったという当局の心境がにじみ出ています。この統計を受けて、中国財政部の幹部に話を聞きましたが、「第2四半期の経済は低迷したが、ロックダウンなどの影響を考えれば織り込み済み。マイナスにならなかっただけマシ」と指摘していました。

 15日、統計発表と同時に記者会見に臨んだ国家統計局の付凌暉(フー・リンフイ)報道官は、「上半期、国際環境は複雑で厳しく、国内ではコロナ禍のショックを受ける中、経済成長は一定の影響を受けた。各方面による共同の努力の下、第2四半期の経済がプラス成長を保持したことは非常に難しかった」と述べています。

 新華社の見出しや同報道官の口調を眺めながら、私は、2020年の情景を思い出しました。当時、新型コロナウイルスが感染拡大する起点となった湖北省武漢市でロックダウンが実施されましたが、同年、中国経済はプラス成長(2.2%増)を実現。当局はそれを誇らしげに強調していたのです。

 実際に、習近平(シー・ジンピン)総書記、李克強(リー・カーチャン)首相は、4月以降「上海保衛戦の困難性は武漢保衛戦に勝るとも劣らない」と指摘してきています。要するに、武漢がロックダウンに陥った2020年のプラス成長は非常に困難であった、であれば、上海がロックダウンに陥った2022年第2四半期のプラス成長も同様に難しい作業になる、というのが当局の認識ということなのでしょう。

下半期、三つの好材料

 今後の見通しですが、私は下半期に向けて、中国経済を巡る好材料はあると分析しています。その理由と背景を3点取り上げます。

 一つ目に、2020年のコロナ禍以降の景気の周期も作用し、2022年の経済成長は、上半期が低く、下半期が高くなるというのは中国政府や政策ブレーンたちにとってのコンセンサスであるという点です。それは、仮に4月から5月にかけて上海市でロックダウンが起こっていなかったとしても、そうなるという意味です。

 二つ目に、特に4-6月期に中央政府や地方政府が五月雨式に打ち出した景気刺激策が効いてくるのが下半期になるという点です。その意味で、私が注目しているのは不動産関連業界です。上記の図表にあるように、1-4月、1-5月、1-6月の不動産開発投資はマイナス成長であり、不動産販売は面積、販売額ベース双方で二桁のマイナス成長という結果でした。不動産販売は6月になって回復の兆しが見えてきていますが、不動産業界が中国のGDPに占める割合が3割近くあるという現状を考えると、(長期的には不動産依存を減らしていくことが求められますが)投資、販売双方で、不動産業界がどれだけ持ち直すかが、下半期の景気回復にとって一つの鍵を握るでしょう。

 三つ目に、習指導部として、「ゼロコロナ」策の限界を自覚し、行動に出始めている点です。今回の統計結果が発表される前、ある党の幹部と話をしましたが、政権内部でもゼロコロナは物議を醸しているようです。「感染者ゼロを目指して徹底した隔離政策、ロックダウンをやっても、変異株ウイルスに感染する国民はまた出てくる。キリがない。他国が取っているような、より柔軟な政策に近づけるべきだという意見は党内で増えてきている」とのことでした。

 表向きはゼロコロナを掲げつつも、各地域の具体的状況をみながら全体的に緩和策を取り、景気刺激策の効果を妨げないという政策に転換する可能性は大いにある、すでにそういう策も取っていると指摘していました。

 上記で指摘したように、4-6月期の経済が低迷した原因は明らかであり、その中心に「ゼロコロナ」策が君臨しているわけですから、そこをこれまで以上に臨機応変にマネージする以外に、政権指導部に選択肢はないと言えるでしょう。

 習政権として、「ゼロコロナ」策の成功をすでに神話化してしまった経緯がありますから、その看板を下ろすことはないでしょう。一方、中国では「上に政策あれば下に対策あり」が常識。看板は掲げられていても、感染者が3桁程度であればロックダウンしない、したとしても短期間で解除するといった実例を積み上げていく可能性が高いと思います。上半期の統計結果を受けて、中国当局は「ゼロコロナ」策をどう機動的に実践していくか。注意深い観察が必要になると思います。

マーケットのヒント

  1. 4-6月期の0.4%増は想定内。「プラス成長しただけマシ」というのが当局の認識。
  2. 下半期に中国経済が回復する好材料は複数ある。
  3. 「ゼロコロナ」策の軌道修正に注目。当局はその必要性を自覚している。