米国のインフレ指標はまちまち、グロース株下げ止まるも全般戻りは限定的

 直近1カ月(6月10日~7月15日)の日経平均株価は3.7%の下落となりました。6月20日には一時2万5,520円まで下落し、3月16日以来の安値水準にまで沈みました。その後は持ち直す動きとなりましたが、2万7,000円水準では上値も重く、足元では2万6,000~2万7,000円のレンジ相場となりつつあります。

 同期間において、マザーズ指数は1.4%の下落にとどまり、これまでのような中小型グロース株主導の下げからは変化してきています。なお、ダウ工業株30種平均は同期間で1.2%の下落にとどまっています。

 6月中旬にかけての下落場面では、ECB(欧州中央銀行)がタカ派姿勢を示したこと、FOMC(米連邦公開市場委員会)の利上げ幅が0.75%にまで拡大したこと、スイス国立銀行の予想外の利上げ実施など、世界的な金融引き締め強化の動きが警戒視されました。

 その後は、世界的な景気減速懸念が強まる一方で、インフレピークアウトへの期待も高まり始め、下げ渋る動きとなってきています。

 ただ、米国のインフレ指標は依然としてまちまち(直近ではCPI(消費者物価指数)が上振れとなる一方で、ミシガン大期待インフレ率は下振れ)であり、上値も限られる状況にあります。

 参院選は自民党の圧勝となりましたが、特にリスクイベントとして捉えられていなかったため、相場への影響は限定的でした。ただし、演説中の安倍元首相の銃撃事件が発生したことで、株式市場も一時的に混乱する事態とはなりました。

 この期間の外部環境として、為替相場では緩やかなドル高円安が進んでおり、米10年債利回りはやや低下方向となっています。なお、新型コロナ感染者数が急速に再拡大してきていますが、大きな懸念材料には至っていません。

 この期間の上昇率が上位の銘柄には、ここまで売り込まれてきた中小型グロース株が多く見受けられます。朝日インテック(7747)レノバ(9519)Sansan(4443)JMDC(4483)日本M&A(2127)が18%以上の上昇率となっています。

 また、伊藤園(2593)カルビー(2229)日清食品(2897)など、値上げを表明した食品株の一角も買われました。ほか、エネルギー危機による原発再稼働期待などがはやされ、東京電力(9501)のにぎわいも目立ちました。

 一方、原油相場を始めとした商品市況の上昇一服から、INPEX(1605)住友金属鉱山(5713)日揮(1963)出光興産(5019)、総合商社各社など資源関連株が軟調でした。また、半導体市況の先行き懸念が急速に台頭したことで、新光電工(6967)東京エレクトロン(8035)SCREEN(7735)JSR(4185)などの半導体関連銘柄も売られました。

 景気減速懸念から、コマツ(6301)DMG森精機(6141)川崎重工(7012)などの景気敏感株も軟調でした。なお、決算が注目された安川電機(6506)ですが、第1四半期受注は好調でしたが、利益水準の想定比下振れがネガティブ視される状況となっています。

インフレピークアウト期待が徐々に優勢に、「岸田政権」政策関連銘柄などに注目

 目先の注目材料の一つとしては、7月26~27日に開催される米FOMCが挙げられます。追加の利上げ幅は0.75%なのか、1.00%にまで拡大するのか、見解は分かれていますが、足元では0.75%利上げにとどまるとの見方が優勢になってきているようです。株式市場にとっては買い安心材料につながる可能性が高いと考えます。

 仮に、今回1.00%の利上げとなっても、原油市況のピークアウトなどから今後のインフレピークアウトが意識される状況にあるため、以降の利上げ幅は大きく縮小されるとの期待につながる可能性もあるでしょう。世界的な経済指標の悪化が折に触れて悪材料視される局面もありそうですが、トレンドとしては、グロース株主体での上昇を想定したい状況と考えます。

 また、今後1カ月程度は、本格化する主要企業の4-6月期決算が主な物色の手掛かり材料となってきます。全般的には、原材料価格の上昇、部品供給不足などが要因となって、想定よりもネガティブな決算数値になる可能性があります。

 ただし、原材料価格上昇に対応する値上げ効果は今後プラス方向に寄与するとみられ、各国の経済活動正常化でサプライチェーン問題も峠を越えてくるとみられます。

 通期業績ではキャッチアップが十分に可能とみられるため、むしろ4-6月期決算を嫌気して売られた場面は押し目買いの好機につながる余地もありそうです。

 注視したいのは、25日の週に集中する、アルファベット、マイクロソフト、メタ、アップルなど米大手ハイテク株の決算後の株価動向となるでしょう。それぞれ全体相場に与える影響は大きく、米ナスダック安を通じて、東京市場にもマイナス効果が波及する可能性は残ります。

 参院選を自民党圧勝で通過したことで、今後3年間は国政選挙がなく、自民総裁選も2024年9月まで実施されない見通しです。岸田文雄政権の安定期間に入ることで、今後は「岸田色」が強く打ち出される政権運営となってくる可能性が高まります。

 懸念されるのは、財政再建策に比重が高まること、分配政策が強く推し進められることなどで、その際には、海外投資家の日本株売りが警戒されることとなります。

 また、金融所得課税の強化に向けた動きが再燃するならば、個人投資家のマインドを大いに冷やすことにもなります。ただ、基本的にこうした動きが表面化するのはまだ先となりそうで、短期的には、防衛予算の増額や原発の再稼働、GoTo政策の再開など、選挙前に進みにくかった分野での議論進展が期待され、関連分野の銘柄群に注目したいところです。

 物色候補としては、新しい資本主義の実現に向け「重点投資分野」とされた分野での関連銘柄にも注目です。企業の情報開示充実化、リカレント教育、企業の研究開発投資支援策、宇宙ビジネス、水素や風力発電などの新エネルギー、自治体のデジタル化推進、サイバーセキュリティ対策などが挙げられます。

継続した好業績は低い配当性向水準を引き上げるきっかけに

 株式市場は米国のインフレ指標に一喜一憂の展開が続いています。インフレピークアウトのタイミングは近づいてきているとみられますが、ロシアのウクライナ侵攻継続などは一段のインフレ高進を招く可能性も残ります。

 目先は不安定な相場状況が継続する公算も大きい中、今週からは国内でも4-6月期の決算発表が本格化するため、徐々に個別の業績動向に関心が向かうものと考えられます。

 好業績銘柄への注目度を高めるタイミングといえるでしょう。とはいえ、好業績期待銘柄は決算発表が好材料出尽くしと受けとめられるケースもままあります。ただ、同時に増配のアナウンスなどがあれば、一段の高評価につながる可能性が高いと判断されます。

 今回は、配当性向の水準が相対的に低い銘柄を増配期待銘柄として注目します。継続する好決算が配当性向の見直しにつながるものと期待します。

 今回取り上げた銘柄は、現在でも配当利回りが高水準である一方、配当性向が国内企業の平均とされる30%を大きく割り込んでいるものとしています。前期の増益決算に続いて、今期も大幅増益を見込んでいるような銘柄も多く、配当性向の水準を引き上げるべきタイミングであるといえるでしょう。

 具体的には、配当利回りが4.0%以上の高水準であり、配当性向が25%以下、前期の営業増益に続いて今期も5%以上の営業増益が計画されている銘柄としています。

増配も期待できる好業績の高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り 7月15日終値 時価総額 今期営業増益率 配当性向
1518 三井松島HD 5.54 2,889.0 377 69.9 21.9
7879 ノダ 4.67 1,285.0 223 137.7 17.4
5444 大和工業 4.66 4,290.0 5,789 5.3 22.7
8909 シノケングループ 4.24 1,037.0 377 9.5 23.5
1605 INPEX 4.01 1,346.0 18,865 56.4 25.0
注:配当利回り、今期営業増益率、配当性向の単位は%、時価総額の単位は億円
注:平均成長率は営業利益(今期予想含む)
注:配当利回りは会社計画がベース

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが4.0%以上(7月15日終値)
  2. 前期営業増益かつ、今期予想営業増益率が5%以上
  3. 時価総額が200億円以上
  4. 予想配当性向が25%以下

1 三井松島HD(1518・東証プライム)

 エネルギー事業と生活関連事業を展開しています。エネルギー事業では、豪州リデル炭鉱の操業を合弁で行っており、出資比率32.5%に応じた炭鉱権益を売上計上しています。また、太陽光発電所の運営も行っています。

 石炭生産依存の脱却を図るため、積極的に新規事業のM&A(買収や合併)を推進しており、生活関連事業は基本的にM&Aによって買収した企業群が手掛けています。ストローなど飲食用資材、衣料品、電子部品、事務機器、ペットフードなどが中心となっています。

 2022年3月期営業利益は84.2億円、前期比4.3倍となっています。石炭価格の上昇によってエネルギー事業の収益が大幅に拡大しました。また、生活関連事業も、電子部品分野が好調であったほか、住宅関連部材分野の新規M&A効果によって伸長しました。

 また、2023年3月期は143億円で同69.9%増と大幅増益の見通しです。石炭価格の上昇が続いており、引き続き全体収益拡大のけん引役になります。また、生活関連事業も日本カタンの新規連結効果が見込まれます。創業110周年記念配当80円を実施することで、年間配当金は前期比80円増の160円が計画されています。

 高水準の記念配当を実施しても、配当性向は21.9%の低水準にとどまります。会社側では、今後も普通配当は80円を下回らないことを目指すとしているほか、中期的に配当性向目標は30%を目安とするとしています。

 石炭価格のピークアウトが想定される中で、来期以降は収益水準が低下する見通しであるほか、記念配当も一巡する可能性がありますが、配当性向引き上げなどにより、配当水準の大幅な切り下がりは避けられるとみられます。さらに今期に関しては、石炭価格の高水準長期化による業績上振れも見込まれるため、一段の増配余地が生じる期待も持てます。

2 ノダ(7879・東証スタンダード)

 木質系の住宅建材メーカーです。床材から内壁材、内装建材、外装下地材などを製造販売する住宅建材事業と、合板製品を輸入販売する合板事業が二本柱です。再生資源、未利用資源である廃木材のチップを繊維化・加熱・圧縮したエコ素材の「MDF」製品なども手掛けています。木材利用促進法の改正などを受けて、公商空間や中規模木造建築物の市場開拓を推進しています。

 2022年11月期上半期営業利益は46.9億円で前年同期比3倍となっています。通期計画は91億円で前期比2.4倍の見通しで、上半期決算発表時に従来計画の47億円から大幅に上方修正しています。

 原材料価格上昇で住宅建材事業は伸び悩んでいますが、住宅需要の回復が続く中、ウッドショックによる原木不足や価格高騰の影響で需給がひっ迫し、合板の販売価格が大きく上昇しているようです。年間配当金も36円から60円に引き上げ、前期比では28円の増配を計画しています。

 上半期の高い進捗(しんちょく)率に加えて、住宅建材事業での価格改定効果なども見込めることから、通期業績には一段の上振れも想定できるでしょう。その際は、17.4%という現在の配当性向から見ると、配当水準も一段の引き上げが期待できるとみられます。

 ただ、中期的には中・大規模建築の木造化が進む可能性がありますが、2023年11月期業績は、合板価格のピークアウトの影響が懸念されます。2022年11月期の本決算発表前のタイミングでは、いったん利益確定することが妙味となるでしょう。

3 大和工業(5444・東証プライム)

 電炉メーカーの大手で、約7割がビルや工場の建設に用いられるH形鋼となります。電炉メーカーの中でもいち早く海外に進出しており、経常利益の9割超が海外事業で占められています。自己資本比率は84%で無借金経営、財務安定性は高い状況です。

 米国やアジア、中東などで合弁展開を行っており、とりわけ、米ニューコアとの合弁会社ニューコア・ヤマト・スチールの持分法利益が高水準となっています。連結配当性向は30%を目安としています。

 2022年3月期経常利益は576億円で前期比2.7倍となっています。中国の輸出抑制策・粗鋼減産などによる鋼材需給の引き締まり、鉄スクラップ価格の上昇などで、販売単価が強含みで推移したほか、米国を中心とした持分法投資損益の大幅な拡大も寄与しました。年間配当金は前期比倍増の160円となりました。

 一方、2023年3月期は790億円で同37.0%増と連続大幅増益の見通しです。国内鉄鋼事業における販売数量増加、販売価格是正などを見込んでいるほか、旺盛な需要の継続で米国持分法投資損益の一段の拡大も期待されるようです。年間配当金も前期比40円増の200円を計画しています。

 連結配当性向30%を目安にしていることで、業績が計画線であっても増配余地は大きいとみられます。また、キャッシュポジションが豊富なため、自社株買いなども機動的に行われていくものと考えられます。

 基本的に、米国景気との連動性が高くなりやすいと考えられますが、日本製鉄(5401)JFEHD(5411)など高炉メーカーとの比較で業績安定感が強いことから、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などのバリュエーション面でも割安な印象があります。

4 シノケングループ(8909・東証スタンダード)

 アパートやマンションなどの不動産販売、賃貸・マンション管理、不動産ファンドなどの不動産サービス事業が主力となります。不動産販売は独自のビジネスモデルで、99%が会社員や公務員となっています。

 また、不動産管理戸数は4万2,000戸以上で、九州・沖縄エリアではトップの実績です。ほか、ゼネコン事業はLPガス販売、介護施設運営なども手掛けています。海外にも2006年より進出し、現在は3カ国に拠点があります。

 2022年12月期第1四半期営業利益は22億円で前年同期比19.3%増益となっています。アパート、マンションともに順調な引き渡しが進んだほか、賃貸管理戸数の増加など、不動産セールスや不動産サービス事業が順調に拡大しました。

 2022年12月期通期では98億円、前期比9.5%増益を予想、期初計画を据え置いています。年間配当金は前期比3円増配となる44円を計画しています。

 配当性向30%を目指すとしていることもあり、業績が計画線で推移すれば、今後の増配余地もあると考えられます。

 マンション販売におけるB2B向け強化など販売チャネルの拡大、ストックビジネス取扱件数増加によるライフケア事業とのシナジー創出、海外展開など、今後の成長余地も大きいと判断されます。また、いったん延期としたシノケンリート投資法人の上場なども今後の期待材料となるでしょう。

5 INPEX(1605・東証プライム)

 石油や天然ガスの探鉱・開発・生産という上流事業が中核になります。国内上場企業の中では最も、原油価格の動向による影響が大きい銘柄といえます。2006年4月に、国際石油開発と帝国石油が統合して現体制となり、2021年4月より現社名に変更しています。

 イクシスLNGをはじめ、世界約20カ国でプロジェクトを推進しています。原油換算の生産量は日量58.4万バレル、確認埋蔵量は63.1億バレル(ともに2021年12月期)のもようです。

 2022年12月期第1四半期営業利益は2,283億円で前年同期比2.2倍の水準となっています。つれて、通期予想は従来計画の7,160億円から9,240億円、前期比56.4%増に上方修正しています。原油・ガス生産操業がおおむね順調に進捗している中での、原油価格の上振れ、ならびに、為替の円安が上振れ要因としています。

 修正後の原油相場見通し、為替レートは依然として保守的であり、さらなる業績の上振れ余地も大きいとみられます。なお、現段階では、年間配当金は前期比6円増の54円を計画しています。

 株価は原油価格の動向にほぼ連動します。原油価格は5月でピークをつけた可能性も高く、今後の株価の大幅な上昇期待までは持ちにくいでしょう。ただ、ロシアのウクライナ侵攻が続いており、短期的に原油価格が大幅に調整する懸念も限定的とみられます。現状の配当利回り水準であれば、十分にインカムゲイン目的での投資対象となり得るでしょう。

 ちなみに、会社側では中計期間中の総還元性向40%以上をメドとしており、先の上方修正時に据え置かれていた2022年の配当計画は、今後大幅に引き上げられる可能性は高いと考えられます。