米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。

 米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成されるNYダウ(ダウ工業株30種平均)、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種指数」があります。

 これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。

 そこで2022年8月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します(株価、配当利回りなどのデータは2022年7月12日現在、為替は1USD=136円換算)。

 その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な3つの違いについて、お伝えします。

(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。

※米国に上場していても米国籍企業以外の場合、配当金にかかる源泉税率は日本との租税条約によって異なり10%ではありません。

(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。

(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ、無駄に手数料を支払うことになります。

米国高配当株1:シェル(SHEL)

 エクソンモービルやBPなどと同様に、かつて世界の石油を独占していたセブンシスターズを起源とする、欧州石油メジャーです。

 2005年にロイヤルダッチとシェルが合併し「ロイヤルダッチ・シェル」が誕生し、その後社名を変更し現在の「シェル」となりました。

 時価総額は1,780億ドルで、日本円で約24兆2,080億円となっています(1USD=136円換算)。

(出典:四季報)

事業の注目ポイント

 事業は今年より「統合ガス事業(Integrated Gas)」、「アップストリーム事業(Upstream)」、「マーケティング事業(Marketing)」、「化成品事業(Chemicals and Products)」、「再生可能エネルギーソリューション事業(Renewables and Energy Solutions)」などに変更されました。

 その中で、事業の中心は「統合ガス事業」で、続いて「アップストリーム事業」、「マーケティング事業」と続きます。

「統合ガス事業」では、LNGやGTL燃料(Gas to Liquids)を取り扱っており、「アップストリーム事業」では原油の探鉱・開発・生産までの原油の開発段階を行っています。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値を超えて推移しており、配当は変動があるものの前年同期と比べて増配しています。

 資源価格の上昇に伴って株価も上昇してきましたが、直近は景気後退懸念による資源需要低迷の恐れから6月の高値に比べて下落しています。

 ですが、今後コロナ発生直後のような資源価格の急落は考えづらく、業績は堅調との予想であることから、安定的な株価で推移することが期待されます。

業績動向

 2022年5月5日開示の四半期決算では、1株利益・売上高いずれも市場予想を上回りました。

 主要事業において前年同期比の水準を上回ったこともあり、市場予想を超える業績結果となりました。

 今後も業績が拡大していく予想ですが、資源価格の推移とロシアからの事業撤退の影響がこれからの業績にどれだけ影響をおよぼしていくか注目です。

 次回2022年7月28日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。

注意点

 自社株買いをしていることもあり直近株価は横ばいで推移していますが、景気後退懸念による資源需要低迷が業績に影響を与え、株価下落につながる恐れがあることには注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.94ドル
配当利回り:4.01%
株価:48.34ドル(約6,600円)

 この銘柄、権利落ち日は8月中旬予定(権利実施は9月中旬予定)です。

 配当利回りは7月12日時点で4.01%、株価は48.34ドルでおよそ6,600円から購入できます(1USD=136円換算)。

 2019年からの最高値は81.91ドル、最安値は35.39ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株2:コーニング(GLW)

 ガラス科学やセラミック科学、光学物性などの材料科学分野で世界的な企業です。

 液晶ガラス基板で世界首位の企業であり、他にもスマホ向けガラス、光ファイバー、自動車、医療用容器など幅広く事業展開しています。

 時価総額は274億ドルで、日本円で約3兆7,264億円となっています(1USD=136円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「オプティカルコミュニケーション事業(Optical Communications)」で、続いて「液晶表示装置用部品事業(Display Technologies)」、「特殊素材事業(Specialty Materials)」、「環境技術実証事業(Environmental Technologies)」、「ライフサイエンス事業(Life Sciences)」などとなります。

「オプティカルコミュニケーション事業」では、映像、データ、音声通信などのサービス向け光ベース通信インフラに関する製品およびソリューションと、企業・政府および個人向けに販売される光ベース通信ネットワークを提供しています。

 また、「液晶表示装置用部品事業」では主に液晶テレビ、ノートパソコン、フラットパネルデスクトップモニターに使用される液晶ディスプレイ用ガラス基板を製造しています。

競合他社

 競合他社として、電気・電子・光ファイバ用コネクタ、相互接続システム、アンテナ、センサおよびセンサベース製品、同軸ケーブルおよび特殊ケーブルの設計・製造・販売を行うアンフェノール(APH)、世界中に電子機器受託製造サービスとソリューションを提供するジェイビル(JBL)、クラウドベースのサブスクリプションを含む一連の製品、およびソリューションの設計・製造・販売を行うゼブラ・テクノロジーズ(ZBRA)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値まで戻っていませんが、配当は今年に入って増配しています。

 ロシアのウクライナ侵攻以降、コーニングの業績は好調に推移しているもののS&P500やNYダウの下落に伴って株価は低迷しています。

 しかし、会社側は今後も年間7%程度の売上成長と、配当を年間10%以上増配することを予定しており、堅調な業績が続いていることから株価の回復も期待されます。

業績動向

 2022年4月26日開示の四半期決算では、売上高・1株利益ともに市場予想を上回りました。

 業績は売上高前年比15%増、EPS前年比20%増と好調に推移していますが、決算を受けての株価への影響はほとんどありませんでした。

 会社側の発表では、製品の受注も引き続き好調で第二四半期には製品を値上げしたことが業績にさらにプラスに反映されると予想しており、今後も堅調な業績が予想されます。

 次回は2022年7月26日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 インフレに伴う景気悪化によって、需要が停滞した際に業績悪化・株価下落につながる可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.08ドル(年4回配当)
配当利回り:3.32%
株価:32.45ドル(約4,400円)

 この銘柄、権利落ち日は8月30日(権利実施は9月29日)です。

 配当利回りは7月12日時点で3.32%、株価は32.45ドルでおよそ4,400円から購入できます(1USD=136円換算)。

 2019年3月からの最高値は46.25ドル、最安値は17.75ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株3:HBTファイナンシャル(HBT)

 傘下に、Heartland BankとTrust Companyを有しイリノイ州およびアイオワ州で銀行業を展開しています。

 それらの州では消費者、企業に対し住宅ローンや自動車ローン、ビジネスローンなどの一般的な銀行サービスを提供しています。また、地域密着である強みを生かし、地元顧客のニーズに合わせて柔軟に経営方針を決め事業展開しています。

 時価総額は5億1,200万ドルで、日本円で約696億円となっています(1USD=136円換算)。

事業の注目ポイント

 事業は「Consolidated information」単一事業で構成されています。

 その中で、大きく分けて「ローン事業(Loan)」、「証券事業(Securities)」、「ウェルスマネジメント事業(Wealth Management)」に分かれており、「ローン事業」の中心は「法人向け賃貸物件(CRE–Non-owner occupied)」で、「複数世帯物件(Multi-family)」、「専用住宅および共同住宅物件(1-4 Family residential)」と続きます。

 また、「証券事業」の中心は「商業不動産担保証券(Agency CMBS)」で、「地方債(Municipal)」、「住宅担保証券(Agency RMBS)」と続きます。

競合他社

 競合他社として、銀行子会社であるMetro City Bankを通じて事業を展開する銀行持株会社のメトロシティ・バンクシェアーズ(MCBS)、子会社であるEquity Bankの所有・管理をする銀行持株会社のエクイティー・バンクシェアーズ(EQBK)、子会社を通して商業、抵当・消費者貸付、リースによる資金調達、信託口座サービス、預金者サービスおよび保険サービスなどの金融サービスを提供するファースト・ファイナンシャル(THFF)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値までは戻っていませんが、配当は今年に入って増配しています。

 コロナ発生以降株価は下落したものの、その後経済の回復とともに徐々に株価は回復してきました。

 今年に入ってから自社株買いを進めたことや、本業の「ウェルスマネジメント事業」の手数料が増加したことなどで業績が好調に推移したことも株価が堅調な要因のようです。

 今後は金利上昇に伴うローンの貸し出し低下が予想されますが、他の事業でその減少をカバーできるか注目です。

業績動向

 2022年4月25日開示の四半期決算では、1株利益・売上高いずれも市場予想を上回りました。

 新規のローン貸し出しの拡大が難しくなってきている中で、支店閉鎖によるコスト削減や運用資産の利益拡大によって業績の悪化を防いでいます。

 今後は、ローンの減少をどのようにカバーしていくかで業績への明暗が分かれそうです。

 次回2022年8月1日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。

注意点

 金利が上昇している中で、HBTファイナンシャルの対応次第では業績に悪影響をおよぼす可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:0.64ドル
配当利回り:3.61%
株価:17.71ドル(約2,400円)

 この銘柄、権利落ち日は8月上旬予定(権利実施は8月中旬予定)です。

 配当利回りは7月12日時点で3.61%、株価は17.71ドルでおよそ2,400円から購入できます(1USD=136円換算)。

 2019年10月14日からの最高値は19.94ドル、最安値は9.11ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株4:オイル・ドリ・コーポレーション・オブ・アメリカ(ODC)

 吸着剤製品の開発、製造、販売におけるリーディングカンパニーです。

 吸着剤を用いた農産物・園芸用品や漂白粘土・浄化補助製品、キャットリター製品、スポーツ用品などさまざまな製品を手掛けています。

 時価総額は2億2,500万ドルで、日本円で約306億円となっています(1USD=136円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「卸小売事業(Retail and Wholesale)」で、続いて「企業間商取引事業(Business to Business)」となります。

「卸小売事業」ではキャットリター製品や、産業用製品・スポーツ用製品などを取り扱っており、「企業間商取引事業」では流体浄化製品や、粗飼料製品などを取り扱っています。

競合他社

 競合他社として、外観、性能、メンテナンス用の各種製品の製造、マーケティング、販売を行うオーシャン・バイオケム(OBCI)、デスケア業界で葬儀および墓地の製品とサービスを提供するストーンモー(STON)、家庭用品、パーソナルケア用品、特産品の開発、生産、マーケットを行う企業であるチャーチ・アンド・ドワイト(CHD)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は2021年の高値を下回って推移していますが、配当は19年連続で増配しています。

 一昨年、コロナの影響で一時的に株価は下落しましたが、その後、早い段階で株価は回復しました。

 しかし、人手不足や、トラック輸送の逼迫(ひっぱく)・海上輸送の遅延によるサプライチェーンの混乱によってコスト上昇圧力が増しており、そのような影響から2月以降株価は下落しました。

 その後、自社株買いを進めたことや、のれん代減損計上はあるものの、業績が拡大したこともあり、株価は回復してきています。

業績動向

 2022年6月7日開示の四半期決算では市場予想の発表はありませんでしたが、第3四半期迄の過去最高の連結売上高を記録しています。

 一方、のれん代減損費用を計上したことで一株利益はマイナスとなっていますが、それを除くと営業利益はプラスとなっています。

 自社製品の値上げを行うことでインフレへの対応をすすめており、今後も販管費の削減や商品価格の引き上げなどでインフレへの対応をとっていけるか注目です。

 次回2022年10月中に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。

注意点

 インフレがピークアウトするとの観測も出ていますが、まだ不透明な部分も多く業績への影響次第で株価が下落する可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.12ドル
配当利回り:3.57%
株価:31.30ドル(約4,300円)

 この銘柄、権利落ち日は8月11日(権利実施は8月26日)です。

 配当利回りは7月12日時点で3.57%、株価は31.30ドルでおよそ4,300円から購入できます(1USD=136円換算)。

 2019年からの最高値は38.45ドル、最安値は22.98ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株5:サザン(SO)

 米国第2位のエネルギー供給企業です。

 アラバマパワー、ジョージアパワー、ミシシッピパワーの三社の電力会社を傘下に抱え、他にもサザンカンパニーガス、アトランタガスライトなどの5社の天然ガス会社を傘下に持っています。

 時価総額は763億ドルで、日本円で約10兆3,700億円となっています(1USD=136円換算)。

事業の注目ポイント

 事業収益の中心は「従来の電力事業会社(Traditional Electric Operating Companies)」で、続いて「サザンカンパニーガス(Southern Company Gas)」、「サザンパワー(Southern Power)」となります。

「従来の電力事業会社」では傘下の電力会社による電力供給、「サザンカンパニーガス」では天然ガス供給事業、「サザンパワー」では再生可能エネルギーや蓄電池プロジェクトを含む発電資産の開発、建設、買収、所有、管理を行っています。

競合他社

 競合他社として、完全所有の子会社を通じて、規制対象の天然ガスと電力、再生可能エネルギー、および規制対象外の再生可能エネルギーを提供または投資するWECエナジー(WEC)、CECONY、O&R、クリーンエネルギービジネス、コンエジソントランスミッションが含まれるエネルギー関連の製品とサービスを提供する持株会社であるコンソリデーテッド・エジソン(ED)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値を上回って推移しており、配当は2002年より毎年増配しています。

 コロナ発生により電力・ガス需要が停滞していたこともあり株価は下落したものの、ワクチン流通とともにサザンカンパニーが事業を展開する地域においてエネルギー需要が回復したことで株価も回復してきました。

 今年6月上旬よりS&P500やNYダウが下落するのに伴って株価が下落したものの、直近株価は回復してきており再び今年の高値を捉えることができるか注目です。 

業績動向

 2022年4月28日開示の四半期決算では売上・1株利益ともに市場予想を上回りました。

 決算を受けて株価はわずかに下落しましたが、その後はマーケット全体の動きに左右されるかたちで株価は推移しています。

 1株利益は前年同期と同程度となり、売上は前年同期比で拡大しています。

 今後は、高まるコストの増加に対してどのように対応していくかで業績の明暗が分かれそうです。

 次回は2022年7月28日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。 

注意点

 運転コスト・保守コストが増加しており、さまざまなインフレリスクに対しての対応次第では株価下落のリスクがある点に注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2.72ドル
配当利回り:3.78%
株価:71.77ドル(約9,800円)

 この銘柄、権利落ち日は8月中旬予定(権利実施は9月上旬予定)です。

 配当利回りは7月12日時点で3.78%、株価は71.77ドルでおよそ9,800円から購入できます(1USD=136円換算)。

 2019年からの最高値は76.51ドル、最安値は43.23ドルとなっています(終値ベース)。

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