※この記事は2021年7月30日に掲載されたものです。

 資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

お悩み

憧れのFIREを実現して、長く人生を楽しみたい!

末永剛志さん(仮名)会社員・30歳(独身)

 末永さんは、新卒で入社した会社に勤め続け、30歳の節目を迎えました。キャリア的に大きな不満はないものの、転職してキャリアアップを目指した同僚や、結婚して家庭を築いている友人など周囲の人たちを見ていると、自分はこのままでいいのかと漠然とした不安を抱えていました。

 そんな時に、友人から「FIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的自立と早期退職)の第一人者であるクリスティー・シェンの著作の要約本『FIRE最強の早期リタイア術』を読んだら、自分もアーリーリタイアを目指そうと考えるようになった」という話を聞きました。

 以前の末永さんなら、FIREという言葉は知っていても自分には関係がないと考えたでしょう。しかし今回は「本当にやりたいことを見つけたとき、その時には仕事やお金に縛られずに実践できるようになっておきたい」と考え、FIREを実践するために行動することを決心しました。

 しかし、FIREについて、よくわからない部分もある末永さんですが、思いを実現するためにはどんなことを行い、何に注意したらいいのでしょうか?

なぜ今FIREが注目されるようになってきたのか?

 以前の日本では、同じ会社に勤めていれば給与も上がり、昇進していくことが一般的でしたが、現在はコロナ禍で在宅勤務のように働き方が変わったり、生活の仕方も大きく変化してきました。

 以前から、ワークライフバランスや、仕事よりもプライベートを充実させるという考え方は広まっていましたが、コロナ禍になって一層、自分の人生を見つめ直すようになったことも理由のようです。

 ただ、本気で30代に経済的自立を実現しようと思うなら、10代、20代から他の人よりも多くの収入を得る努力がいるでしょう。多くの場合は大きな資金を貯めて、これを元手にした投資で得られる、平均年4%の運用益を前提に、経済的に自由になるという話が多いようです。

 しかし、現実的には年間200万円(税引前)を受け取るためには5,000万円、年間400万円(税引前)なら1億円以上の投資資金が必要となります。

 そのため、現実的にアーリーリタイアを考えている人からは、30代ではなく「定年よりも早めに退職するためにはどうすればいいか」という相談が多く寄せられています。

 また、完全に仕事をしない本来のFIRE以外にも、『FIRE最強の早期リタイア術』ではいくつかのタイプが紹介されています。

タイプ 方法
サイドFIRE 本業をリタイアした後、運用益だけでなく、副業でも収入を得ていくことで、FI(経済的自立)を目指す方法
パーシャルFI 「パーシャル」 とは、一部分、部分的なという意味。仕事は辞めず、柔軟な働き方に変えることで、セミリタイアを目指す方法
地理的アービトラージ ある程度の資産を貯めてから仕事を辞め、地方や国外など物価が安い場所に移動し、支出額を減らす生活をすることでFIを目指す方法

 メディアや本で取り上げられる人は、サイドFIREを目指している人が多いようですが、現実的なFIREを目指すとしたら、パーシャルFIや地理的アービトラージとなりそうです。

 ここからは、どのタイプのFIREを目指すにしても、押さえておくべきポイントと注意点をお伝えします。

FIREの注意点1:FIREは手段。目的・ゴールではない

 大前提としてFIREは経済的自立と早期退職を実現するための手段であって、それ自体が目的・ゴールにはならないはずです。目的・ゴールにしてしまうと、達成後はいったい何をすればいいのか…という問題が出てくるでしょう。

 しかし一方で、FIRE後の具体的な目的を決めなければ目指せないのかというと、そうではありません。

 実際にFIREを達成している人たちの話を聞いてみると、FIRE後の目的が漠然としていても、まずは経済的な自立を目指すことに力を入れた人がほとんどです。そしてFIRE達成後は、お金や時間にとらわれずに生きるようになったことで視野が広がり、目的が明確になっているようです。

 FIREをしたいという相談は年々多くなっていますが、実際に達成に向けて行動に移している人ほど自分の中に軸を持っており、将来についても、より具体的な考えを持っています。

 まずは「やってみる」ことが何よりも重要です。その過程で、人生を見つめ直し、自分に向き合うことで、目的が見えてくることでしょう。

FIREの注意点2:資産額を純資産(資産−負債)かつ税引後で考える

 FIREを目指す中で、貯金なら、これをそのまま資産額だと考えて問題ありません。ところが、この資産額を見積もるときに、間違ってはいけない落とし穴があります。

 まず、株式や投資信託の場合、含み益が大きいときは単純な時価評価額ではなく、売却の税引後金額を資産と考えた方がいいでしょう。

 また不動産の場合は、売却価格だけでなく、ローンがあれば負債を引いた純資産で考える必要がある上に、保有中に予想される経費や修繕費も見積もっておくことが重要です。

 資産額の見込み違いで、FIRE後に大変な目にあわないよう、しっかり確認しましょう。

FIREの注意点3:急がず自分のペースでFIREの目標設定を

 FIREの第一人者であるクリスティー・シェンは幼い頃からお金の重要性を理解し、10〜20代での努力の結果、30代という若いうちに自分の望むFIREを達成しました。この道程には失敗も多々あったようです。

 資産運用では時間を味方につけた人が成功すると言われています。そしてFIREも同様です。できるだけ早く「計画的に行動し続けること」。これがFIRE達成の近道です。少なくとも10年先、20年先といったスパンでFIREを考えるべきでしょう。

FIREの注意点4:環境変化への対策をしっかり練っておく

 経済的な自由を得るための資産を貯めることができ、支出と同等以上の収入を得ることができたとします。しかし、予定していた収入がなくなることや、予想外に支出が大きくなる可能性もあります。支出は予想よりも大きくなりがちです。

 特に、ライフプランの相談を受けてシミュレーションをしていると、若い世代ほど今後の支出については、不透明な点が多くなります。

 そのため、ただ資産を貯めればいいわけではなく、今後起きることが予想される経済的な環境変化への備えも考えておく必要があります。最悪の事態となった場合の対処も考えておくことが大切です。

FIREの注意点5:一人で全てをこなさない、でも他人を信用し過ぎない

 FIRE後、貯めた資産をただ使いながら過ごす方法もありますが、多くは資産を運用することで収入を得ていく生活を描いていると思います。

 この資産運用の方法をどう選ぶかは個人個人が決めることですが、たとえばFP(ファイナンシャル・プランナー)など相談できる人を見つけておくことも大切です。FIREで、自ら運用だけに掛かりきりになる生活になっては本末転倒です。

 しかし、同時に一番やってはいけないのは、どんなに信用できる人であっても、資産運用を丸投げにしないことです。資産運用の面倒な雑務や管理は任せるとしても、特に運用のデメリットやリスクについて許容できる範囲かどうか、自分で判断しなければならないことは言うまでもありません。

FIREを検討する時のポイント

大切なことは自分たちの将来図を描くこと

 FIREは誰もが目指すべき道ではありません。しかし、FIREを目指すために必要な行動や考え方は資産形成に通じるものがあります。お金や時間で悩まない環境づくりをすることは、資産形成そのものだからです。つまり、自分にとって大切なことを優先する人生を歩む道なのです。

 これまでの資産形成の動きは、ほとんどがリタイア後の老後生活を想定していましたが、リタイアをできるだけ早くするためという傾向が見られるようになりました。FIREはその最たるものでしょう。

 人生において何を重視するかは人それぞれです。他人が達成したFIREロードをトレースするのではなく、まずは自分たちがどう生きたいかという将来図を描き、これに向けて最善のペースで資産形成を計画していくことが大切なのです。

【要チェック】
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