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 関東地方は6月27日に梅雨明けし、記録的な空梅雨となりました。また、東京では6月としては観測史上初となる6日連続での猛暑日(最高気温35度以上)となり、6月下旬の最高気温の平均は1875年の気象庁による統計開始以降で最高の32.8度を記録しました。こうした空梅雨と季節外れの猛暑から、冷房需要の急増による『電力不足』が深刻化しています。

【ポイント1】『電力不足』で「需給ひっ迫注意報」発令

 経済産業省は6月27日に東京電力管内での『電力不足』が見込まれるため、「需給ひっ迫注意報」を発令しました。「需給ひっ迫注意報」は電力の需要に対する供給側の余力を示す「予備率」が5%を切る場合に出されますが、27日の午後4時から午後4時30分の「予備率」の見込みが4.7%に、同午後4時30分から午後5時が3.7%まで低下したため、注意報が発令されました。

 なお、足元では停止中だった火力発電所を急ぎ再稼働させたこともあり、注意報は6月30日にひとまず解除されています。とはいえ、政府は引き続き節電を呼びかけるなど、深刻な『電力不足』が続いています。

【ポイント2】再エネシフトが生む新しい『電力不足』

 現在起こっている『電力不足』の背景には、電源構成における再生可能エネルギー(再エネ)へのシフトが関係しています。電力各社は太陽光発電の普及を受けて古い火力発電所の休止や廃止を順次進めており、日本の電源構成に占める再エネのウエートは東日本大震災前の2.2%から、2020年には12.0%まで上昇しています。

 現在、東京電力管内の太陽光発電の能力は約1,300万キロワット、一方の電力需要は昼過ぎのピークで約5,000万キロワットといわれており、電力需要の約4分の1を太陽光だけで賄える状況にあります。

 こうした再エネ・太陽光シフトが、新しい問題を引き起こしています。真夏の電力需要のピークは今も昔も午後2時ごろで、その後は緩やかに低下していきます。一方、再エネ発電の主力である太陽光の発電出力は正午にピークをつけ、その後はどんどん低下し日没にはゼロになります。

 このため、電源構成の再エネ・太陽光シフトが続くと、夏場の暑さが残る夕方にかけて、気温はあまり下がらないため電力需要は高止まりする一方、太陽光の発電量は大きく低下するため、『電力不足』が生じる可能性が高まります。先般の「需給ひっ迫注意報」が午後4時から午後5時にかけての『電力不足』を理由に発令されたのは、このためです。

【今後の展開】再エネ投資が加速も、冬には『電力不足』がさらに深刻化へ

 足元の『電力不足』に対して経済産業省と電力各社は、稼働停止中の火力発電所の再稼働でしのごうとしています。とはいえ、気候変動問題への意識の高まりを背景に再エネシフトが続く中にあって、大規模な火力発電所を増設することは難しい状況にあります。このため電力需給の「予備率」の引き上げには、さらなる太陽光など再エネ関連への投資に加え、稼働が不安定な再エネ発電の弱点を補完する蓄電システムや、省エネ技術への投資が必要となってきそうです。また、欧州でグリーンエネルギーとして見直しが進む原発についても、既存原発の再稼働や安全性に優れる新型原子炉の新設について、議論が活発化する可能性がありそうです。

 季節外れの猛暑で『電力不足』がにわかにクローズアップされていますが、近年はむしろ冬場の『電力不足』が深刻化しています。経済産業省によれば、今年冬の東京電力管内の「予備率」は、10年に1度の厳寒を想定した場合、来年1月は▲0.6%、同2月には▲0.5%まで低下するものと見込まれています。

 こうした事態が現実化した場合には計画停電が実施される可能性があり、オフィス、工場、インフラなどが一時的に稼働停止に追い込まれることで、経済全般への下押し圧力となりかねず、注意が必要です。