優待弁護士・澤井康生さんプロフィール
Profile 澤井 康生(さわい やすお) 1994年早稲田大学政治経済学部卒業、警察官僚、警視庁刑事を経て2003年旧司法試験合格。秋法律事務所のパートナー弁護士、元警察官僚、ファイナンスMBA取得。もともとはJ-REIT(ジェイ・リート:国内の不動産投資信託)専門投資家だったが、優待の魅力にハマり、現在は、株主優待メインで優待グルメ生活を送る。無類の甘党。各種週刊誌などでも優待弁護士として紹介され、現在はラジオNIKKEIにも定期的に出演中。 |
1 はじめに
今までは20歳未満は未成年とされていたことから、投資トラブルを含む契約関係において、20歳未満の方々は「未成年者取消権」によって保護されていました。
未成年者取消権は未成年者がその知識、判断能力が十分ではないことから、親権者の同意なく契約を締結してしまった場合、ただ単に未成年であることだけを理由に契約を取り消すことができるという民法の規定です。
この未成年者取消権は、契約自体には何ら問題がない場合であっても、単純に未成年であることだけを理由に無条件に契約を取り消すことができたので、未成年保護のためかなり強力な権利だったのです。
しかしながら、今般の民法の改正によって、18~19歳も成人として扱われることになったことから、18~19歳は未成年者取消権を行使することができなくなってしまいました。
そのため、悪質な業者が、社会経験に乏しく未成年者取消の保護を受けられない18~19歳の新成人をターゲットにしてくることが想定されます。
2 どのような消費トラブルが多いのか
政府広報データによれば、品目別では情報商材、オンラインカジノ、暗号資産、投資用USB、健康食品(サプリメント)、エステティックサービスなどが多いとされています。
例えば、政府広報データによれば、知り合いからバイナリーオプションに勧誘され、絶対もうかるからと言われたことから、学生ローンを組んで投資用USBを50万円で購入したものの、全然もうからなかった事例や、SNSで知らない人から10万円の情報商材の購入を勧誘され、クレジットカードで払ったものの全然もうからなかった事例、動画投稿サイトで初回無料のダイエットサプリメントを購入したところ、販売サイトをよく見ると小さな字で2回継続が条件であると記載されており、2回目の代金支払いを請求された事例などが紹介されています。
3 新成人が狙われる理由
新成人が狙われる理由は、やはり知識・経験が絶対的に不足していることがあげられます。現役の高校生や、高校を卒業したばかりの方々が多く、社会人としての経験がない方が多数であることから、悪質業者によって付け込まれてしまうのです。
次に、「絶対にもうかる」などのうまい話に弱い点も、理由の一つと言えます。社会人としての知識や経験があれば「絶対にもうかる話なんかあるわけない」と判断できるケースも多いのですが、そういった知識や経験がない新成人は、うまい話を素直に信じてしまう危険があります。また、拒否しにくい状況に追い込まれて業者に押し切られてしまうこともあります。
このように新成人が狙われる理由は、知識・経験が絶対的に不足しており、業者からすれば勧誘しやすく、だましやすいことに尽きると思います。
4 消費トラブルの被害に遭わないようにするためには
新成人自身には社会人としての知識や経験がなく、悪質業者もそこに付け込んでくるわけですから、これに対抗するためには、自分自身の判断能力の不足を、両親や信頼できる知人に相談したり、ネットでリサーチするなどして補完する必要があります。
消費生活センターや弁護士などの専門家に相談する方法もあります。そのためには、その場では絶対に契約せず、持ち帰って相談やリサーチしてよく検討することが必要です。
特定商取引法や消費者契約法などの消費者を守るための法制度を身に付けておくことも必要です。
5 消費者を守る法制にはどんなものがあるの?
(1)クーリング・オフ
特定商取引法により訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)での契約や特定継続的役務提供(エステティック、語学教室、パソコン教室など)については一定期間内(8日間、ただしマルチ商法は20日間)であれば契約を解除することができます。契約を解除する場合には内容証明郵便で契約解除通知を行います。
ただし、通信販売で購入した場合や、自分から販売店に出向いたり事業者を呼んで契約した場合には、クーリング・オフは適用外とされています。
クーリング・オフの適用があるかどうかについて自分で判断できない場合は、消費生活センターや弁護士に相談してもよいでしょう。
(2)消費者契約法の改正
民法改正により18~19歳が未成年取消権を行使することができなくなったことに配慮する趣旨で、消費者契約法が改正され取消権を行使できる類型が拡充されました(令和4年5月25日成立、令和5年6月1日施行)。
今までは不実告知や不利益事実の不告知、不安をあおる告知など不当な勧誘行為があった場合に取消権が認められていましたが、これに加えて消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用した場合にも取消権を行使できるようになりました(消費者契約法第4条第3項)。
例えば、(1)勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行して勧誘する行為、(2)威迫する言動を交え相談の連絡を妨害する行為、(3)契約前に目的物の現状を変更し原状回復を著しく困難にする行為により(例えばパッケージされている商品についてわざとパッケージを破って中身を見せ消費者が断りにくくするような行為)、消費者が困惑し、それによって契約した場合について取消権を行使できるようになりました。
18~19歳の新成人は未成年取消権を行使することはできなくなりましたが、上記のような不当勧誘行為や合理的な判断することができない事情を不当に利用した勧誘行為の場合には消費者契約法に基づく取消権を行使することができます。
したがって、未成年者取消権を行使することができないからといってすぐに諦めるのではなく、消費者契約法に基づく取消権を行使できないかを検討するようにしましょう。ここは法的な評価判断になるので消費生活センターや弁護士に相談するようにしましょう。
6 最後に
18~19歳が新成人となったと扱われても、知識や経験はすぐに身に付くものではありません。自分では判断できないと思ったら、両親や信頼できる人物に相談しましょう。
万が一、契約をしてしまった場合は未成年者取消権が行使できないからといってすぐに諦めるのではなく、特定商取引法のクーリング・オフや消費者契約法に基づく取消権が行使できないかを弁護士などの専門家に相談しましょう。
独立行政法人 国民生活センター
消費者庁・消費者ホットライン(電話) 188(局番ナシでかけられる電話番号。いやや!と覚えよう!)
消費者庁・消費者ホットライン(ネット)
国民生活センター 平日バックアップ相談 03-3446-1623
法テラス
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