今日は、日本株を「誰が買い、誰が売っているか」需給面から分析します。

外国人が買えば上がり、売れば下がる日本株

 いつもお話ししている通り、日本株は過去30年以上、外国人投資家が動かしています。外国人は、買う時は上値を追って買い、売る時は下値を叩いて売る傾向があるので、短期的な動きは外国人次第です。

 その外国人ですが、2021年から2022年にかけては売買動向が定まらず、売り買いがめまぐるしく替わっています。すごい勢いで買い始めたと思っても長続きせず、すぐ売りに転じます。すごい勢いで売り始めたと思っても、それも長続きしていません。

日経平均と外国人の売買動向(買越または売越額、株式現物と日経平均先物の合計):2021年1月4日~2022年6月29日(外国人売買動向は2022年6月17日まで)

出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成 注:外国人売買で、棒グラフが上(プラス方向)に伸びているのは買越、下(マイナス方向)に伸びているのは売越を示す

 その結果、2021年の日経平均株価はトレンドが出ず、狭いレンジの上げ下げを繰り返してきました。2022年に入ってから、3月まで外国人の売りで大きく下がりましたが、その後は、狭いレンジの上げ下げを繰り返しています。

 その前の年、2020年の日経平均は大荒れでした。コロナショックで暴落した後、急上昇しています。この年の暴落も急反発も、以下の通り、外国人が主導しています。

日経平均と外国人の売買動向(買越または売越額、株式現物と日経平均先物の合計):2020年1月6日~2020年12月31日

出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成

2021~2022年主体別売買、事業法人の自社株買いが最大の買い手

 それでは、外国人が売っている時に、買っているのは誰でしょう。2020年までは日本銀行が最大の買い手でした。2021年以降、「自社株買い」が最大の買い手となっています。

 それでは、外国人が買っている時に、売っているのは誰でしょう。金融法人(銀行・生損保の自己勘定)・信託銀行(主に年金基金)などが売っています。

 以下、2021年と2022年の主体別の動きを詳しく見てみましょう(株式現物の売買のみ。日経平均先物の売買は含まず)。

2021年~2022年の日本株主体別売買動向:買い越し・売り越し上位3主体

出所:日本銀行のETF買付額は日本銀行、日本銀行以外の売買データは東京証券取引所
注:証券自己は含めず。日本銀行は直接日本株を買っているわけではない。上記は日本銀行が公表しているETF買付額。日本銀行が買い付けるETFを組成するために、証券自己部門や信託銀行などが日本株を買い越す。プラスは買い越し、▲は売り越しを示す

【1】最大の買い手は「事業法人」の自社株買い

 2021年も2022年も最大の買い手は、事業法人です。事業法人の買いは、そのほとんどが自社株買いです(TOB・株式公開買い付けの買いは含まれません)。株主への利益還元のため、また、配当負担を減らす財務戦略のため、近年日本企業は、積極的に自社株買いを実施しています。事業法人は、毎年、継続的に大口の買い主体となっています。

【2】個人投資家は、株が上がると売り下がると買う傾向が鮮明

 外国人と反対の売買をする傾向が鮮明なのが、個人投資家です。個人投資家は、株が上がると売り、下がると売る傾向が鮮明な「逆張り」投資家だからです。結果的に、外国人の動きと逆になることが多いと言えます。

【3】日本銀行のETF買いは減少

 2020年まで日本銀行が最大の買い手でした。2021年以降は、買いが減りましたが、それでも買い主体の上位3位までには入っています。

【4】金融法人は継続的な売り主体

 金融法人は持ち合い株の売却を毎年続けているので、継続的に大口の売り手となっています。ただし、上場している大手銀行・生損保は、自社株買いもやっています。自社株買いは毎年、継続的な買い要因です。ただし、持ち合い解消売りの方がはるかに金額が大きいので、ネットで見ると、金融法人は大口の売り主体です。

【5】年金基金の売買は信託銀行の売買として現れる

 信託銀行の売買として出ているのは、信託勘定で売買する投資主体の動きです。近年は、そのほとんどが年金基金の売買です。
 年金基金は、個人投資家と同じく、株が上がると売り、下がると売る傾向が鮮明な「逆張り」投資家です。したがって、外国人が買い時に売り、売る時に買う傾向が鮮明です。
 年金基金が逆張り投資家になるのは、ポートフォリオのリバランス・ルールによります。ポートフォリオに組み入れる株の組入比率のターゲットを決めて運用していますが、株が上昇して株の組入比率が時価ベースで大きくなり基準を超えてくると、株を売る必要が生じます。逆に株が下落して株の組入比率が時価ベースで小さくなると、買う必要が生じます。
 日本最大の公的年金で、運用資産約200兆円を有するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の売買も、信託銀行のところに出ます。ただし、年金基金は、市場外取引なども使うので、全ての売買が信託銀行に出るわけではありません。
 また、信託銀行の売買が全て年金基金の売買というわけでもありません。日本銀行のETF買いは、信託銀行経由で出ることもあれば、証券自己の買いとして出ることもあります。

2017~2020年の主体別売買、日本銀行が最大の買い手

 2017~2020年に、年間を通じて日本株を買い続けている最大の買い手は、日本銀行です。以下、各年の主体別売買動向を、参照ください。

主体別の日本株売買動向(買越・売越が大きい上位3主体):2017年~2020年

出所:日本銀行のETF買付額は日本銀行、日本銀行以外の売買データは東京証券取引所
注:日本銀行は直接日本株を買っているわけではない。上記に記載しているのは日本銀行のETF買付額。日本銀行が買い付けるETFを組成するために、証券自己部門や信託銀行などが日本株を買い越す。2020年の買い越し第2位に信託銀行が入っているがほとんど日本銀行のETF買いに伴うものと推定されるのでランキングに含めていない

 2017年から2020年まで、毎年、最大の買い手は、日本銀行(ETF買い付け)です。次が、事業法人です。事業法人の買いは、主に自社株買いです。
毎年、巨額の売りを出しているのが個人投資家【注】です。

【注】個人投資家の売り越し額
 実際の売り越し額は、ここまで大きくはありません。個人投資家が、新規公開株を引き受けて、上場後に売却した場合、統計上買いはカウントされず、売りだけがカウントされます。上の表に出ている売り越し額から、個人投資家が新規公開株を引き受けた金額を差し引いたものが、本当の売り越し額となります。

 投資信託は日経平均が下がった2018年は買い越しですが、それ以外の日経平均が上昇した年は売り越しとなっています。主に個人投資家の解約売りです。
 銀行・生損保も毎年、日本株を売り続けています。これは、法人間の株式持合いを解消するための売りで、相場動向にかかわらず、毎年、計画的に売りを続けています。

需給面でもっとも注目される主体は、外国人で変わらず

 短期的な日経平均の動きを決めているのは、外国人です。これからも外国人の売買動向をしっかり見ていく必要があります。

 自社株買いや日銀のETF買いも、大きな存在ですが、株が下がっている時に買うことが多く、上値を追って買っていく主体ではないので、短期的な株式市場の動きを決める主体ではありません。

 引き続き、外国人の日本株売買動向をウォッチしていくことが大切です。外国人の動きで気付いたことがあれば、本コラムで報告します。

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