今年4月から成人年齢が18歳に引き下げられたことで、自分の意志だけで証券口座を開設して株式などの金融商品の取引を始めたり、クレジットカードを作ったり、ローンを組んだりすることができるようになりました。ただ、それには金融に関する知識が必要になるため、同じく4月から高等学校家庭科の授業で本格的な金融教育が始まりました。

 これから10代の人たちは、お金や投資の情報に触れる機会が増えるし、お金にまつわるいろいろな判断を自分ですることになります。

 とはいえ、ネット上にはお金の情報があふれています。中には怪しい情報も。そこで、YouTubeチャンネル「BANK ACADEMY」を通じて初心者に分かりやすくお金の知識を届けている小林亮平さんに、「15歳から学ぶお金のこと。お金のアドバイス何が正解?」をテーマに、10代が知っておくべきお金のこと、投資のことを聞きました。

若者向けの金融教育の強化、いいこと?

――今回は「15歳から学ぶお金のこと。お金のアドバイス何が正解?」がテーマなのですが、日本では社会人としてバリバリ働いている大人でも、お金の知識が豊富とは言えませんよね。むしろ、投資や年金に対しては苦手意識を持っていると思います。

 親子でお金の話をする機会もほとんどありません。そうした環境の中で、高校の家庭科の授業で金融教育をすることを小林さんはどうお考えですか。

小林 高校で本格的な金融教育が始まったことは、すごくいいことだと思っています。自分が学生の頃は、そもそも投資の勉強の仕方がわからなかった。

 株式投資についても、バーチャル株式投資をやってみて手探りで覚えた感じだったので、国が指導要領を決めて、教育に盛り込んでいくことは、若い人がお金について学ぶ貴重な機会になるはず。すばらしいことですし、ちょっとうらやましいですね。

――小林さんは、10代のうちにお金の知識を身につけた方がいいと思っていますか。

小林 もちろん身につけた方がいいと思います。日常生活していく上では、お金は常に関わってくるので、知識があれば役に立つし、得をすることもあります。それに、余計な失敗をしたり、だまされたりして、変にお金に対して警戒感や嫌悪感を持ってしまうのを避けられるのはいいことですよね。

――YouTubeチャンネル「BANK ACADEMY」では初心者向けの情報発信を続けていますが、若い方からの反響は増えていますか。

小林 かなり増えています。私はYouTubeのコメント欄やTwitter、InstagramなどのSNSを通じて毎日たくさんの質問をいただいて、それにできる限りお答えしているのですが、10代の学生の方、20代前半の社会人の方から連絡をいただくことが多くなりました。

――どんなコメントや質問が来ているんでしょう。

小林 例えば「つみたてNISA(ニーサ:少額から積立投資ができる非課税制度)」を始めようと思っている人、始めたばかりの人から、手続きや銘柄選びについての質問が多いですね。

――NISA(少額投資非課税制度)は、毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品から得られる利益が非課税になる制度ですね。「投資の第一歩」には、「つみたてNISA」が向いているんでしょうか。

小林 はい。まずはNISAの活用を検討してほしいと思います。成人年齢の引き下げによって、2023年1月1日以降は、「一般NISA」(年間非課税枠120万円)も「つみたてNISA」(年間非課税枠40万円)も、18歳以上であれば始めることができるようになるので、とりあえずこの制度を使って、投資の一歩を踏み出してみてほしいです。

 投資対象は個別銘柄ではなく、「インデックスファンド」がいいと思います。インデックスは日経平均株価のような株価指数のこと。いわば「いろんな会社の株価の平均点」。インデックスファンドは、株価指数と同じ動きをする投資信託です。

そもそも、投資ってしたほうがいいの?

――ここ数年で、NISAの活用や資産運用が注目されている背景には、老後に対する漠然とした不安や一時期話題になった「老後資金2,000万円不足問題」があるわけですが、高校生には、老後や将来と言われても、かなり遠い話だからピンと来ないかもしれませんよね。

小林 確かに老後と言われても実感がわかないでしょうが、まずはお金や投資に関心を持ってほしいと思います。

 例えば、親や兄弟といっしょに興味のある投資対象(国・地域や株・債券などの商品タイプ)の過去と現在の価格を見比べながら、もしこのときに投資対象を××万円分買っていたら、現在はいくらになっているだろうという計算をしてみる。それだけでも投資がどう続いていくんだろうというイメージを持つことができるし、経済を学ぶことにもなります。

 日本経済は長い間デフレでしたが、最近、天候や世界情勢の影響でインフレや値上げといったニュースを聞くと思います。これは将来ではなく、いまのお金の問題なので、身近に感じられるかもしれません。高校生の身の回りでもモノの値段が上がっているはず。

 このインフレはなぜ起こったのか、家計にどのような影響があるのか、もし海外旅行に行くのなら為替の円安と円高は旅行にどう関係してくるのかとか、身近なことを通じてお金や経済を考えると理解しやすいですね。

――コンビニのお菓子の値段が上がるのは、すぐおなかがすく高校生にとってダメージが大きい。4月から「うまい棒」の値段が10円から12円に値上がりしたし。

小林 そういう身近なところから入ってみるのも面白いと思います。

こんな情報には、だまされちゃダメ!

――話を戻すと、高校で金融教育が始まったし、テレビでもお金の話が取り上げられることがよくあります。ネットでも、YouTubeやSNSでもそう。ところがあふれている情報の中には、信じてはいけない情報もありますよね。特においしい投資話は大人でもだまされますが、社会経験が浅い若い人は、あふれている情報のどんなところに気をつければいいのでしょうか。

小林 投資の観点で言うと、「これに投資をすればお金が必ず増える」とか「絶対に損をしないノーリスクの投資先がある」というように断定した投資情報を発信する人には十分気をつけてほしい。

――投資の世界に絶対は無いと。今、ノーリスクという言葉が出ましたが、そもそもリスクとはどういうことでしょうか。日常的には「危険」の意味で使っています。

小林 投資の世界のリスクは、「得られるリターン(利益)の振れ幅」のことです。振れ幅が大きければ、得られる利益が大きい可能性があるけれど、損失も大きい可能性がある。これが「ハイリスク・ハイリターン」です。

 リスクが小さいと、リターンも小さいので、「ローリスク・ローリターン」。リスクとリターンというのは表裏一体の関係にあるので、「ローリスク・ハイリターン」はあり得ません。

 投資にはリスクがあるからこそ、それに見合う利益が期待できるとも言えるので、まずはこの点をちゃんと知ってほしい。

――前に比べて投資に対する「嫌悪感」はだいぶ薄れてきたように感じます。SNSで投資やお金に対する自分の考えを発信したり、意見交換・情報交換したりする動きも見えています。この流れについては、小林さんはどうお考えですか。

小林 とてもいいことだと思いますね。というのは、ホントはお金の話は誰でも興味があるし、投資の話も話していて楽しいものだと思うからです。自分も父や兄と投資や相場環境や選んだ商品の話をするのはとても楽しい。

 もっと多くの家庭や友人間で、投資の話をする機会が増えればいいと思っています。そこで、フォロワーさんたちとオンラインでもオフラインでも集まって、投資の話、投資の悩みなどをわいわいと楽しむ機会をつくりたい。ぜひ実現したいですね。

よくないニュース多いけど、大丈夫?

――今年はいろいろなことが起こっています。コロナ禍は収束しませんが、世界は共存を模索しながら少しずつ経済を回し始めた。ウクライナ問題は長期化しそうです。その影響もありエネルギー供給が不安定になり、食糧危機が叫ばれ、インフレが起こっている。

 株式市場は乱高下するし、為替相場は近年にない円安傾向です。こういうネガティブなニュースばかり続くと、投資は怖い、今は始める時期ではない、投資判断が難しそうと思う人が多くなるのではないでしょうか。

小林 確かに今の時期にあえて投資を始めることはないと思っている方も多いでしょうね。でも、長期投資であれば、足元の環境をそこまで気にしなくてもいい。投資は長くじっくりと続けることで、経済成長と株価上昇の恩恵を受けることができます。そのことを踏まえれば、毎日のニュースに一喜一憂したり、ハラハラしたりする必要はないと思いますね。

 長く運用を続ける前提で、積立投資を「つみたてNISA」などでコツコツ続けていれば、相場が下がった時期は、安く買うことができる時期となり、むしろメリットになります。そこで初心者の方は、積立投資を長く続けること。これを忘れないでほしい。

まずは何から始めればいいの?

――若い人は投資資金が限られます。具体的に、何を、どのぐらいの金額で始めるといいのでしょうか。

小林 おさらいすると、利用する制度は、資産運用の王道「つみたてNISA」。老後資金をつくることが目的なら「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」です。投資対象はインデックスファンド。

 投資資金は余裕資金を使うことが前提です。余裕資金というのは、生活には使わないお金です。若いうちは、余裕資金なんてほとんどないかもしれませんが、「つみたてNISA」は口座をひらく金融機関によっては100円から始めることができます。

 スマホで取引ができるネット証券に口座をひらいて、月100円、あるいは月1,000円というお小遣い程度のお金で始めればいいと思います。

――でも、月100円の積み立てでは、20年、30年続けても資産と胸を張れるほどのお金にはなりませんよね。

小林 100円投資期間は、株式だけで構成されている投資信託(比較的ハイリスク・ハイリターン)と株式と債券で構成されている投資信託(比較的ローリスク・ローリターン)を同時に保有してください。

 半年くらい運用してみると、値動きや利益と損失に差が出てくるので、株式中心だとこんな値動きになる、債券多めだとこんな値動きになると分かる。つまりリスク(値動きの幅)を体感して慣れてほしい。

――今年のように株式市場の値動きが大きいと、100円投資の残高が、株式100%の投信は70円に減ってしまうかもしれない。でも債券多めの投信なら90円で済むかもしれない。そういうことを肌で感じてほしいということですね。

小林 そうやってリスクの感覚をつかんだ上で、投資額、積み立て額を余裕資金の範囲内で増やしていく。「つみたてNISA」の非課税の限度額は年間40万円(月額3万3,000円程度)なので、まずはそこを目指すようなイメージですね。

――国も「貯蓄から投資へ」というフレーズを使って、国民に投資を促しています。「NISA」のような税金面で有利になる制度も作りました。そこまでして投資に力を入れる理由は何なのでしょうか。

小林 「貯蓄から投資へ」の背景には、国内における少子高齢化、人口減少問題があります。年金制度は保険料を負担する現役世代が年金を受け取る高齢世代を支える賦課(ふか)方式ですから、少子高齢化が進行すると、現役世代の人数が減り、高齢者の人数が増加して、保険料負担を増やすか、年金の給付水準を下げることになります。

 もうそういう現実が見えているので、年金に頼り切らずある程度の老後資金は自分で準備してくださいということなのでしょう。

――投資はお金にも働いてもらって資産を増やすことですよね。

小林 そうですね。

自分への投資のほうが大事じゃない?

――でも若いうちは、自分自身の能力を高めるための投資をして、稼ぐ力を高めるという考え方もできますよね。金融商品に投資をするのか、能力を高める投資をするのか、どちらがいいのでしょう。

小林 それはバランスだと思います。学生時代の自分を振り返ると、金融商品に投資することを知らずに、自己研さんのための投資、趣味のための投資をしていました。それを否定するつもりはありませんが、例えば株式投資を始めたことで、自己研さんのための投資では学べないことが学べました。

 バランスを大事にしながら、両方とも経験した上なら、自分は自己研さんに使うお金の比率を高めようとか、自分は投資にお金を回していきたいとか、そういう判断ができるようになります。それも大事かなと思いますね。

――株式投資を経験すると、経済や企業の知識が増えて、社会人として働き出した時に役に立ちますもんね。

小林 若い人は時間を味方に付けることができるので、少額でもいいので、早いうちから投資を経験してください。もしわからないことや不安なことが出てきたら、「BANK ACADEMY」のコメント欄、Twitter、InstagramのDMからも気軽に聞いてください。

――10代の周りには気軽に投資の質問をできる大人がいないかもしれません。いても、適切な答えが得られないかもしれない。だからSNSで聞けるのはうれしいですね。小林さん、今日はありがとうございました。

<教えてくれたのは>

BANK ACADEMY
小林亮平さん

1989年生まれ。横浜国立大学経営学部卒業後、現在の三菱UFJ銀行に入行。ブログやSNSで資産形成にまつわる入門知識を分かりやすく発信して人気になる。現在はYouTubeチャンネル「BANK ACADEMY」の運営を中心に本の執筆など幅広く活動しており、YouTube登録者数は45万人を超える。書籍は資産形成の入門書の「これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生」(KADOKAWA)など多数ある。

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