今後も続く?日米の金利差拡大

 先週のドル/円は、突然浮上した0.75%の利上げ観測によってFOMC(米連邦公開市場委員会)前に135.60円近辺の年初来高値を付けました。

 しかし、FOMC後のジェローム・パウエル議長の記者会見で「0.75%の利上げが普通になるとは想定しない」、「次回は0.50%か0.75%利上げの可能性が高い」など、タカ派色をやや和らげた発言がハト派寄りの内容としてみられたため、米金利低下とともにドル売りの流れが強まり、133円台半ばまで下落しました。

 会見終了後も上値が重い展開が続き、FOMC当日には上昇した米国株も翌日には下落したことや、16~17日の日本銀行金融政策決定会合でのイールドカーブコントロールの上限金利が上方に修正されるとの期待によって131円台半ばまで下落しました。

 ところが、17日の決定会合や黒田東彦総裁の発言から日銀の緩和姿勢は変わらないことが判明すると、再びドル/円は135円台に上昇しました。しかし、15日のFOMC直前の高値を抜けなかったことから、日米金利差の違いで上昇したというよりも、日銀の政策修正を材料に仕掛けられた円買いポジションが巻き戻されただけかもしれません。

 ただ、日米金利差は拡大し、今後も拡大し続けることが考えられるため、円売り圧力は続くことが予想されます。しかしながら、既定された円安路線がどこまで進むのかその水準を探るのも重要ですが、利上げが進めば進むほど円安をもたらした利上げの副作用の警戒度が高まってくることにも留意する必要があります。

景気減速とリスク資産調整

 その副作用とは景気減速とリスク資産の調整です。米国では利上げによるマイナスの影響が強まってきています。

 利上げ加速によって、6月16日の住宅ローン30年固定金利(週平均)が前週から0.55%上昇し、5.78%に急騰しました。週間では35年ぶりの上げ幅で、1年前の倍の水準となったため住宅ローン申請件数が22年ぶりの低水準に落ち込んでいます。

 活況だった住宅市場は、金利上昇の影響で住宅購入を見合わせる人が増えているようです。FRB(米連邦準備制度理事会)は景気よりもインフレ抑制を優先しましたが、その通り景気にブレーキがかかり始めています。住宅市場が停滞すると住宅価格も抑制され、家賃にも影響し、インフレを抑制することも予想されます。

 また、5月のPMI(製造業購買担当者景気指数)は、先進国が好不況の分岐点となる50を上回っていますが、新興国は3カ月連続で50を割り込んでいる状況です。米コンファレンス・ボードによると、世界のCEO(最高経営責任者)の60%以上が1年半以内の景気後退入りを想定しているとのことです。

 米国の利上げやFRBの保有資産のQT(量的金融引き締め)による影響は、リスク資産市場や新興国の通貨や市場からのマネー逆流を引き起こし、市場を揺さぶっています。

 主要47カ国の株式市場を対象にしたMSCIの指数は6月17日時点で直近高値の1月4日から20.7%下落し弱気相場に入りました。株式市場では、直近1年間(52週間)内につけた高値からの下落率が20%以上になると「弱気相場入り」とされます。

 MSCIの先進国を対象にした指数では、全23カ国のうち52%にあたる12カ国・地域の下落率が2割を超えました。また、24カ国・地域が対象の新興国の指数では3割が弱気相場入りとなりました。

 ある試算によると、世界の時価総額は今年に入って約25兆ドル(約3,300兆円)が吹き飛んだとのことです。米国の名目GDP(国内総生産)総額は2021年で約23兆ドルですので、米国のGDPがなくなったと考えると、この影響は相当大きいことが実感できます。

「弱気相場入り」になると、投資家は悲観的になってくるといわれており、資産の減価を防ごうとリスク資産を減らし現金比率を高めようとします。しかし、相場が不安定になっているためなかなか現金化が進まず、現金化するのが難しい局面とみる投資家も多く、リスク資産市場の売り圧力は今後も続きそうです。

 この先は、通貨や資産市場からのマネー逆流がどの程度市場にインパクトを与えるのか、より一層警戒する必要がありそうです。

80回の利上げと日銀緩和

 日本経済新聞の集計によると、世界の中央銀行による政策金利の引き上げが2022年1~6月で延べ80回に達し、前年同期の7倍のペースで過去最多になっているとのことです。好景気だった2006年の利上げ回数(119回)に迫る可能性が高まっているようです。

 先進国は1~6月に20回利上げし、2006年(28回)以来の多さとのことです。新興国の利上げは60回と多く、米国や先進国の急ピッチの利上げの影響を防ぐために、過去最も多かった2008年(50回)を大きく上回るペースで引き締めを進めています。

 このようにデータがさかのぼれる2000年以降で最多のペースで利上げが進んでいるということは、利上げの副作用もペースが速くなるのではないかということが想定されます。各国の中央銀行が金融引き締めを加速すればするほど急速な利上げが景気を冷やしすぎる警戒感が強まり、また、マネー逆流によって株式市場などリスク資産の動揺はまだ続きそうです。

 日銀はこうした利上げの動きに加わる気配は今のところ想定できないため、金利差拡大による円安圧力が今後も強まることが予想されますが、副作用が一気に噴き出した時は円売りの巻き戻し(円高)が強まることにも注意する必要があります。

 先週17日のドル/円の値幅は3円を超えました。一日に3円を超えるのは2020年3月以来(コロナ相場)になります。相場環境が変化した可能性もあるため、円安でも円高でも今後は値幅が大きくなることも想定されるため注意が必要です。