過去2回のレポートでは、安倍政権の「次元の異なる大胆な金融緩和」が日銀によって「骨抜き」にされるではないかという疑念を書いてきた。1月22日の政府・日銀の共同声明は、「2%のインフレ目標と“来年からの無期限の資産購入”」をうたっているが、日銀法改正を回避するための玉虫色の作文で、見事に骨抜きの内容となっている。

日銀と政府の取り決めが拘束力のある「政策協定(アコード)」ではなく「共同文書」となった時点(1月8日)で、これはある程度予想されたことだ。白川日銀総裁は「2001年3月から2006年3月までの量的緩和は効果がなかった」と論文で主張しており、安倍政権に対して表面的には恭順の意を示したものの、その信念は揺らいでいない。現体制における日本銀行の譲歩の限界を示す「共同宣言」であったと言えよう。

共同宣言を受けたある海外ファンドの幹部は、「安倍政権は日銀にうまく言いくるめられてしまったようだ。早期のデフレ脱却と2%のインフレ目標を掲げておきながら、今年は何もしないし、来年まで待ってくれというのは意味がわからない」と述べている。官僚の作文はどうとでも取れるような裁量部分が大きいので、外人には理解できないだろう。

これまで、レポートに書いてきたように、「政策協定(アコード)」も結ばず、「立法府からも独立している日銀法」の改正もないとなれば、日銀総裁の下で世界標準の金融政策が実現することを期待するしかない。

「政策協定(アコード)」のような拘束力がない以上、アベノミクスの成否は次期日銀総裁の「裁量」にかかってくる。次のマーケットテーマは「日銀総裁人事」に移っているが、デフレ脱却を本気で考えているワンマン的な人をもってこない限りは、誰がなっても組織に埋没していくだろう。また、次期日銀総裁が従来型の天下り人事となるようだと、マーケットに対するインパクトはない。一部のファンドからは「このままいくと、安倍政権も官僚主導が強化された野田政権の引き継ぎとなってしまうのではないか?」との不安が聞こえている。

英FT紙の社説は、「日銀があまり乗り気でないことは残念である。日本が長らくデフレに苦しんでいるのは、日銀の金融政策運営の枠組みがこのように臆病なためでもある。日銀は大胆な金融緩和を即座に実行すべきだったが、新たな量的緩和の実施を2014年1月まで先送りした。また、買い入れる資産の主体は短期国債だと発表している。これが効果の薄い戦略であることは過去の経験から明らかだ」と解説している。

しかし、「日本がどうなろうと儲かればなんでもよい」という立場の海外投機筋の多くは、そんな日本の複雑な事情はどうでもよいと考えているようだ。当たり屋と言われる某ファンドは「マネーは単純なロジックでしか動かない。民主党の野田首相が解散と言って、株高・円安に振れたように、これまでデフレ期待を生み出してきた白川日銀総裁が止めることが重要なのである。次期総裁は誰になっても、“嫌々やっています”というネガティブな姿勢はとらないだろう。それで十分だ。安倍政権には参議院選挙が控えている。選挙で勝てるかどうかは株価で決まる。民主党政権は株価に全く無関心であったが、今の安倍政権は株安や円高に神経質に対処するだろう。だから、参議院選までは基本的にトレンドは変わらない」と述べている。

海外の投資銀行の1年後の円相場予測は105円から85円辺りに集中している。「安倍政権は円高・株安に神経質なので、参院選までの大幅な株安・円高は容認しない」というのが円安・日本株高期待の拠り所となっているようだ。これは、「バーナンキ・プット」と同義の「アベ・プット」と呼べるだろう。「7月の参議院選挙までは、円安・株高路線を安倍さんが何とか支えるだろう」という期待が強い。

この先、円高・株安局面になると、それを牽制する要人発言がでてくるだろう。昨日は甘利経済再生担当相が「今回の日銀の政策がかつてとは次元が違うことを正確に理解してもらえれば、それなりの株価の(プラスの)反応があったと思う」と、市場の反応に不満を述べている。本日は西村康稔内閣府副大臣が浜田宏一内閣官房参与の1ドル=100円でも問題ないとの見解に対して、「私自身の認識も共通している」とブルームバーグ・ニュースのインタビューで語っている。7月参議院選挙までは「口先介入」も総動員されるようだ。

「来年まで待ってくれという」日銀金融政策決定会合の残念な結果を受けて、ドル/円相場の日足は「円安トレンド相場」から「調整相場」に移行したようだ。26日標準偏差ボラティリティは完全にピークアウトし、相場は21日ボリンジャーバンド+1シグマを1月22日のNYクローズで下回った。この手法による筆者の円売りポジションはこの日に強制利食いとなった。今の相場は筆者の見立てでは「調整相場」であって、「円高トレンド相場」ではない。この先は日々の材料をこなしながら、日柄調整の相場となるだろう。これまでの「円は売りっぱなしでよい」という相場から、ドタバタやるトレーディングベースの相場に移行したという認識である。

ドル/円(日足)相場は21日ボリンジャーバンド+1シグマの内側へ

上段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
下段:26日標準偏差ボラティリティ(緑)

一方、ドル/円の週足は依然円安トレンド相場を継続しており、この中期的な円安トレンド相場は、21週ボリンジャーバンド+1シグマを割り込むまで終わらない。それまで、円売りポジションは「ほったらかし」である。

ドル/円(週足)円安トレンド相場継続中

上段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑) 下段:26週標準偏差ボラティリティ(緑)

デイトレ向きのドル/円(30分足)では比較的わかりやすいトレンド相場が頻繁に発生している。現在の相場は大きく動くので30分足でも収益的に悪くなく、相場に参入する魅力はあるだろう。

ドル/円(30分足) 比較的わかりやすいトレンド相場が続いている

上段:ボリンジャーバンド1シグマ(21) 下段:標準偏差ボラティリティ(26)

上記の日足・週足・30分足では相場の見え方がまるで違う。日足が調整中でも、30分足では頻繁にトレンドは発生する。相場は見るタイムフレームによって強気にも弱気にもなるが、どんなタイムフレームにも収益機会がある。今年は10年に一度のバブル相場になるかもしれない。とにかく年前半相場は、(事前にストップ・ロス注文を置いて)果敢に相場に参入したい。