米国による対中制裁関税の見直し、サプライチェーンへのプラス効果は限定的か

 米国政府がインフレ対策の一環として、中国からの輸入品に課している制裁関税を一部解除する方向で検討している。ただ、BOCIがカバーしている消費者向け電子ハードウエア銘柄の多くは、トランプ前政権時代の米中貿易摩擦の後に生産移転を実施済み。スマートフォン、PC、サーバー、その他スマートデバイスに対する関税の取り消しはサプライチェーンにプラスだが、その恩恵の度合いは数字が示す以上に限られる可能性が高いという。BOCIは個別では、米国向けの直接販売比率が相対的に高いBYDエレクトロニック(00285)と瑞声科技(02018)に追加関税解除の恩恵が及ぶとみている。

 米国は制裁関税の見直しを含め、対中貿易政策を再構築する方針。関税の第1-4弾は順に、発動から4年後の再検討期を迎えるが、スマホ、PC、サーバー、ネットワーク、スマートウエア、AR/VR、スマートホーム製品の多くは第3弾、第4弾に含まれており、再検討期がそれぞれ2022年9月、2023年8月に到来する。米通商代表部(USTR)は現在、第1弾(総額340億米ドル規模)、第2弾(同160億米ドル)の検討を進めている段階。向こう数カ月以内にも第3-4弾の再検討プロセスが始まれば、ハードウエアのサプライチェーンに一定の恩恵が及ぶことになる。

 業態別では、OEM(他社ブランド製品の製造)に対する追加関税率は7.5-25%だが、各社は最終組立工程をメキシコや台湾、東南アジア、インドに移すことで課税を回避。アップルのような米有力企業はロビー活動を通じて主力製品の大半を関税対象から外しており、OEM各社へのダメージは7.5-25%という数字が示すほど深刻ではなかった。それでも関税の撤廃は小売価格の引き下げにつながり、BOCIはPCやサーバー、スマートデバイスについて2-5%、スマホに関しては0-2%の値下げ余地を見込む。

 一方、組み立て業務に関しては、ビジネスモデルがコストプラス(コスト+一定の利幅)であるため、制裁関税の取り消しによる影響は中立的との見解。各社とも、国内外の生産拠点を維持するとみる。中国は高度なインフラやサプライチェーン、研究開発人材という点で最高の製造ハブだが、海外の拠点も米中摩擦の再燃に備える意味があり、人件費の低減やインドなど特定市場での現地調達税制にも対応できるという利点がある。

 このほか、ハードウエアの部品メーカーは、製品を米国に直接輸出するわけではなく、関税取り消しによる影響は軽微。OEM先の関税負担が軽減され、その分をサプライチェーンパートナーと共有することになった場合に恩恵が及ぶという。

 BOCIはBYDエレクトロニックや瑞声科技、小米集団(01810)、舜宇光学科技(02382)、Qテクノロジー(01478)などの主要ハードウエア銘柄を分析し、直接・間接的に制裁関税の影響を受けている製品は、売上高の3%未満であると推計。制裁関税の解除はポジティブながらも、その影響はさほど大きくならないと結論づけている。