2013年は「デフレ」から「インフレ」への政策転換相場の年である。デフレという「現金バブル」の長期化により、これまでは何もしないでじっとしている人が報われた時代であった。今年はようやくリスクをとった人が報われる年となりそうだ。

現在のドル/円相場は円が実力以上に買われていると思うのだが、学者やエコノミストと呼ばれる人の多くは、「ビックマック指数」や「実質実効レート」を根拠に「現在の70円~80円台という為替レートは円高ではない」と主張している。最近、どこへ行ってもその話が出る。

「ビックマック指数」で分かるのは、各国の人件費と家賃(賃貸料)の差である。「実質実効レート」は、現実の為替レートが円高になると円高になる「遅効性の指標」である。実質という言葉を担保しているインフレ率にしても、物価の品目の取り方が各国でまちまちであり、必ずしも経済実態を反映しているとは言い難い。

為替レートは学問ではなく相場である。筆者はドル/円の「買われすぎ・売られすぎ」を判断する指標として、「60カ月移動平均線乖離(エンベロープ)」を見ている。ドル/円相場が60カ月移動平均線の-10%乖離水準以下でずっと推移していた(チャートの水色のゾーン)1993年~1995年、および2008年~2012年は円が実力以上に買われていた期間と考えている。

2013年のドル/円相場は、60カ月移動平均線の±10%乖離の水準(80円~95円=下のチャートの黄色のゾーン)をコアレンジとして推移するだろう。60カ月移動平均線の-10%乖離の外側という超円高相場から、60カ月移動平均線の±10%乖離の内側であるノーマル相場に戻るというのが筆者の相場観である。

ドル/円(月足)と60カ月移動平均線乖離(エンベロープ)

10%乖離(緑)・20%乖離(青)・30%乖離(紫)
超円高相場の修正はどこまで続くか?


(出所:石原順)

2012年のドル/円相場は、円買われすぎの修正(反動の円安)が起こった年であった。超円高の修正が起きた理由は、2007年からの円高トレンドが円高トレンド期間の限界である5年間も続いたためである。相場は循環であり、ものには限度がある。

2013年も恐らくは超円高の修正(=円安基調)が続くだろう。リーマン・ショック後のドル/円相場は高値・安値のいずれもが切り下がる円高循環が続いてきたが、2012年の相場でこの円高循環は崩れたからだ。

ドル/円(月足)と年間高値・安値 リーマン・ショック後の円高循環から離脱


(出所:石原順)

海外ファンドの一部からは「日本の超円高や日本国債の超低金利は1980年代の日本の不動産バブルや1990年代のアメリカのITバブル、あるいは、2000年代のサブプライムローンバブルと全く同じである」との意見も出ている。また、チャーチストの間では、2011年の75円55銭で歴史的な円高のピークを付けたとの見方も多い。

ドル/円(月足) 長期サイクルズと20カ月移動平均線(緑)

2011年の75円55銭は円高のピークなのか?


(出所:石原順)

ドル/円(月足) トレンド指標を見ると円高トレンドは2011年末でピークアウト

しばらく強烈な円高は考えにくいし、2013年の前半は円安継続が見込めるだろう
上段:14カ月ADX(赤)・26カ月標準偏差ボラティリティ(青)
下段:フィボナッチのファンライン


(出所:石原順)

ドル/円(月足)と支持・抵抗線


(出所:石原順)

40年にも及ぶ円高で、日本のシャッター商店街化の放置もそろそろ限界に来たようだ。民主党政権下では大企業が疲弊し、日本の家電産業が崩壊した。その結果、政治もこの状態を放置できなくなった。それで出てきた政策が「アベノミクス」である。

「アベノミクス」は円高から円安へ、デフレからインフレへの「政策転換」である。ABE(アセット・バブル・エコノミー)相場に乗り遅れるなと、投機マネーが「円相場」に向っている。この資産バブル期待相場に乗らない手はないが、問題はABEトレードの賞味期限だろう。

相場のことなので、半年で終わるのか3年続くのかはわからない。しかし、「アベノミクス」と例年の「株の循環」の確率から為替相場を考えると、すくなくとも4月まではバブル期待の円安・株高基調が続く確率が高いと思われる。

投機筋が注目している2013年の日本のイベントは、

  1. 1月22日の日銀金融政策決定会合(2%のインフレターゲットと政府・日銀間の協定)
  2. 3~4月の日銀人事(リフレ派の登用)
  3. 7月の参議院選挙(選挙まで景気対策が矢継ぎ早に出てくる)

の3つである。

安倍政権の選挙日程からは、7月の参院選まで好景気の演出が行なわれやすい。最大の注目イベントは1月22日の日銀金融政策決定会合である。ここできちんとした政策の枠組みが決定されれば、3~4月の日銀総裁・副総裁の人事は誰がなっても同じであろう。しかし、投機筋の多くは市場へのインパクトが強い人物の登用を期待しているらしい。

イベント好きな海外投資家の行動パターンを考えると、日銀人事の4月と参議院選挙の7月に相場のピークが到来しやすいと言えるだろう。

上記の日程と併せて、日米株式市場の「10月末買いの4月末売り」という「180日ルール」を考慮すると、1月~4月期のクロス円売りと日本株買いはワークする可能性が高い。やはり、リスクを取るなら年前半だ。

日経平均とNYダウの月別推移と「180日ルール」

半年間運用した場合の運用開始月別のリターン(戦後62年間の平均)
過去62年間の結果では、日経平均やNYダウのインデックスに投資するなら、10月末に買って4月末に売った場合のリターンが最も大きい。年初から4月末に掛けて5.8%値上がりし、4月末から10月末に掛けては1.9%の上昇にとどまり、10月末から年末に掛けて2.9%値上がりするというのが、2011年までの62年間の平均パターンである。


(出所:『日本株転機のシグナル』前田昌孝 日本経済新聞出版社)

日経平均(月足)と10月末買い4月末売り

2000年~2012年 赤は失敗の年


(出所:石原順)

NYダウ(月足)と10月末買い4月末売り

2000年~2012年 赤は失敗の年


(出所:石原順)

2000年以降はNYダウと連動性が高いクロス/円相場にも、「180日ルール」は有効であろうという推測が成り立つ。以下は筆者が現在手掛けている通貨ペアの「10月末買いの4月末売り」の検証である。

緑の枠で囲ったレンジは1月~4月末の相場予想レンジだが、半分は筆者の願望である。予想レンジは参考程度に留めて頂きたい。

豪ドル/円(月足)と10月末買い4月末売り

2000年~2012年 赤は失敗の年


(出所:石原順)

ユーロ/円(月足)と10月末買い4月末売り

2000年~2012年 赤は失敗の年


(出所:石原順)

カナダ/円(月足)と10月末買い4月末売り

2000年~2012年 赤は失敗の年


(出所:石原順)

ノルウェークロ-ネ/円(月足)と10月末買い4月末売り

2000年~2012年 赤は失敗の年


(出所:石原順)

南アランド/円(月足)と10月末買い4月末売り

2000年~2012年 赤は失敗の年


(出所:石原順)

以上が今年の円相場の「見当」である。注意すべきは、「相場観」や「思惑」だけで相場をやると、大きな損をする危険性が高くなることである。相場観、あるいはファンダメンタルズ分析だけを根拠にポジションを持つと、相場観が変わるまで(損が大きくなるまで)ずるずると損を垂れ流してしまうことが多い。メンタルに根拠を置く損切りほど怖いものはない。ストップロス注文は事前に設定しておくべきである。

さて、年末・年始で円安が加速した。筆者が11月29日のレポートでお年玉銘柄にあげた豪ドル/円やカナダ/円、あるいはレポートやブログで取り上げてきたランド/円やノルウェークローネ/円もまずまずのトレンド相場に発展した。

ただし、筆者はドル/円や豪ドル/円の日足相場では何度もリエントリー(再参入)を迫られることとなり、楽な相場ではなかった。これは筆者が基本的にボリンジャーバンドの1シグマの外側でしか取引しないためである。

なぜ、1シグマの外側でしか取引しないのか? それはトレンド相場には乗りたいが、大きな損は回避したいからである。

エントリーとエグジットに1σを使うのには理由がある。相場についていくという順張り取引は、逆張り取引のように「安値を勝って高値で売る」「高値を売って安値で買い戻す」ことはしない。「高値を買ってさらに高値で売る」「安値を売ってさらに安値で買い戻す」取引手法である。

「高値を買う」「安値を売る」という手法が失敗したときの損失は大きい。しかし、1σをエントリーや損切りポイントにすると、ストップ幅が小さくなり、損失も心理的負担も小さくなる。つまり、値頃感の恐怖から解放され、どんな相場にも乗っていけるのである。

ドル/円(日足) 1シグマからの飛び出し局面(黄色のゾーン)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ドル/円(週足) 1シグマからの飛び出し局面(黄色のゾーン)

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 1シグマからの飛び出し局面(黄色のゾーン)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

カナダ/円(日足) 1シグマからの飛び出し局面(黄色のゾーン)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ランド/円(日足) 1シグマからの飛び出し局面(黄色のゾーン)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足) 1シグマからの飛び出し局面(黄色のゾーン)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

相場のトレンドは、いつも逆張りポイントの先に発生するものだ。即ち、トレンド相場とは、売られすぎ・買われすぎの先に発生するものなのである。これは筆者の独断と偏見の相場認識に過ぎないかも知れないが、値頃感を持っていては今の円安トレンド相場にはついていけない。その辺りのことを1月13日の新春講演会で話したいと思っている。

新しき年が皆様にとって素晴らしき一年でありますように…。