投資リテラシー:3つの軸で自分の位置を確認

 前回の前編では、金(ゴールド)は、人にとって「魔性(ましょう)の性質」(魔物が持つような人を惑わす性質)を持つ存在で、「不安」とセットで語られがちだが、「求められる人物像」に近づこうとすればするほど、「不安抜き」で語ることが可能だと、書きました。

「求められる人物像」とは、現代社会においては「変化に順応でき、強じんな心と高いコミュニケーション力を有する人」のことで、過去の常識・成功を捨て、市場環境が激変したことを認識し、「充足」(不安の対比)も行動のきっかけにできる人物のことです。

 上記の話に行き着くために、金(ゴールド)を、4つの側面(あえて「不安」を除外)から観察することにし、前編では「時代」「市場」「人」から観察しました。今回の後編は「投資リテラシー」の側面より、金(ゴールド)を観察することから始めます。

「リテラシー」は、識字力(文字を読み書きする能力)が転じ、「ある分野について、どれだけ知識・経験があり、なじみがあるか」を指す言葉です。ここでは対象が投資ですので、投資家としてどれだけ投資になじみがあるかを指します。

 なじみの度合いにより、便宜的に「初級」「中級」「上級」に分けた上で、リスク許容度、ポジションの保有期間、取引頻度の3つの軸で切ったとき、それらの関係は以下のようになります(例外あり。あくまで傾向ととらえる)。

図:「投資リテラシー」3つの軸(例外あり)

出所:筆者作成

 級が上がれば上がるほど、大きなリスクを取りつつ、短期売買ができるようになる傾向があります。「なじみ」の度合いが高くなると、できることが増えるわけです。これは、多くの投資家が歩む道といっても過言ではありません。

 実は、金(ゴールド)関連の投資商品は、幅広い級をカバーしています。初級の方向けの金(ゴールド)の商品はもちろん、中級者向け、上級者向けもあります。ご自身がどの級のあたりに位置するかをイメージすることで、選択する投資商品が絞られてくるでしょう。

金(ゴールド)投資の必須スキル3つ

 級別の投資商品を紹介する前に、金(ゴールド)投資を行う上で欠かせない3つのスキルを確認します。この考え方は、株式や投資信託などの取引にも有用ですが、前回・今回のレポートで否定する「不安=金(ゴールド)」という過去の常識が残る金(ゴールド)では、特に重要です。

金(ゴールド)投資の必須スキル3つ
(1)材料を俯瞰(ふかん)して注目すべき材料を絞ること
(2)材料の影響力を足し引きすること
(3)できるだけ「不安」の力を借りないこと

1 材料を俯瞰して注目すべき材料を絞ること

 以下の図では、鳥が上空から地上にある7つのテーマを見下ろしています(俯瞰している)。過去の常識が重視する「不安=金(ゴールド)」は「有事のムード」に該当します。やはり、「不安」だけに着目していては、全体感がつかめず正しい分析ができないことがわかります。

図:金(ゴールド)市場の見方(材料の俯瞰)

出所:筆者作成

 また、7つのテーマは3つの時間軸に分けられています。先述の「投資リテラシー」の箇所に通じますが、「投資を行う期間」によって注目する時間軸が異なります。超長期投資をする際に、短中期の「有事のムード(=不安)」に注目することは有効でないと言えます。

2 材料の影響力を足し引きすること

 以下の図は、特にウクライナ危機発生後に目立っている事象についての問いと、その解答です。しばしば「教科書的」と例えられる「ドルと金(ゴールド)の逆相関(逆の動きをする傾向)」が成り立たない事象が起きており、それを「材料の足し引き」で説明しています。

図:金(ゴールド)市場の見方(材料の足し引き)

出所:筆者作成

「教科書的」でない値動きも、「材料の足し引き」を持ってすれば、容易に説明ができます。材料を俯瞰し、時間軸を絞って注目すべき材料に注目し、影響力を足し引きするスキルは、環境が複雑化した現在の金(ゴールド)市場を分析するために欠かせません。

3 できるだけ「不安」の力を借りないこと

 前回の前編と今回の後編は、「不安=金(ゴールド)」という考え方を否定的にとらえています。あえてそうすることで、材料を点で見る(俯瞰しない)ことを避けることができます。ひいてはそれが、時間軸を絞ること、材料の影響力を足し引きすることを可能にします。

「不安」は、前回述べたとおり、人を行動にみちびく重要な感情の一つです。しかし、それが全てではありません。対極にある「充足」もまた、人を行動にみちびく要素の一つです。「不安」にしか注目しないことは、物事の一部しか見ていないことと同じです。

 環境が複雑な現在の金(ゴールド)市場を分析するためには、できるだけ「不安」だけで説明しようとすることを避けなければなりません。「過去にやっていたから」「わかりやすいから」という理由で「不安」を利用しても、正しい分析をすることはできないでしょう。

初級:純金積立、ポイントで投資信託を購入

 ここからは、級別に金(ゴールド)投資の際の具体的な投資商品について、述べます(級は筆者の主観です)。初級は「純金積立」と「投資信託」です。ともに、毎月一定額を投資する「積立購入」と、都度購入する「スポット購入」が可能です。

 この2つの投資商品の共通点は、「買い物」の感覚に近く、初級の方にもなじみやすいと考えられる点です(当然リスクは有)。当社の純金積立と投資信託の取引画面の一部には、「購入」の文字が使われています(株式の取引画面には「注文」や「取引」が使われている)。

 また、「積立投資」の特徴は、今、手元にない資金を、将来購入する際の予定額に組み込むことができることです。毎月1万円ずつ30年間、積立をするとした場合、必ずしも今、360万円もの資金が手元になくても、取引を開始することができます。

「積立」は一度に購入してしまわずに、時間を分散して購入していく、「長い時間をかけて行う取引」と言えます。その意味では、金(ゴールド)投資の際、図:金(ゴールド)市場の見方(材料の俯瞰)で触れた時間軸の長い「超長期」のテーマに注目することになります。

図:金(ゴールド)市場の値動きと7つのテーマの考え方

出所:筆者作成

「超長期」のテーマに挙げた「大局的な社会変化への対応」が進むことにより、「不安回避」と「充足促進」の両面から(不安のみではない)、超長期視点で金(ゴールド)市場に資金が流入し、価格が底上げされる可能性があると、筆者はみています。

 こうした超長期的な価格上昇は、「長い時間をかけて行う取引」である「積立」の追い風になるでしょう。

中級:ETF、関連個別株をテクニカルで売買

 中級は「ETF(上場投資信託)」と「関連個別株」です。以下のとおり、テクニカル分析で売買のタイミングを計ることができます。テクニカル分析とは、過去の値動きなどをもとに計算された、さまざまなテクニカル分析指標を手掛かりに、市場を分析する手法のことです。

図:金ETF(1540)のテクニカル分析の一例

出所:マーケットスピードⅡの資料より筆者作成

 テクニカル分析指標は、チャート(グラフ)に描画する「トレンド系」と、チャートの下の枠に表示する「オシレータ系」に分かれます。トレンド系は価格推移の方向性を、オシレータ系は振れ幅が行き過ぎているかいないか(売られ過ぎか買われ過ぎか)を示します。

 上図の分析で着目しているのは、単純移動平均線の形状が、短期線が中期線を上抜き(ゴールデンクロス示現)、かつ長期線が右上がりであること、RSI(相対力指数)が20を割れて強い売られ過ぎが示されたこと、これら全てが大きな時間差なく起きたかどうかです。

 そして同時に、テクニカル分析以外の要素(諸材料)において、金(ゴールド)相場を上昇させる要素があるかどうかにも、着目します。上図で、上昇が顕著になった場面(点線の矢印)では、円安が進行し、円建ての金(ゴールド)を押し上げる材料がありました。

 トレンド系とオシレータ系、両方のテクニカル分析指標を参照した上で、諸材料が価格を押し上げ得る状況かどうかを確認することが重要です。個別株もETFのように、テクニカル分析指標を用いて売買のタイミングを計ることができます。

上級:特定の時間帯にサクッと短期売買

 上級は「商品先物」と「CFD(差金決済取引)」です。金(ゴールド)相場は、売買が盛り上がりやすい時間帯である米国時間帯の経済指標発表時に、短時間のうちに急騰(急落)する場合があります。以下のとおり、6月10日には2時間半で2.5%もの上昇を演じました。

図:NY金先物(中心限月 5分足終値) 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 足元、米国の金融政策の方向性を占う経済指標(雇用や物価関連など)が発表される時間帯に、ドルや米国株などと同様、金(ゴールド)も変動率が高くなることがあります。「商品先物」と「CFD」は、こうした変動率が高くなることがある時間帯での短期的な売買に用いられるケースがあります。

 レバレッジ(てこの原理)が効いている(投下した資金以上の損金が発生する場合がある一方、思惑通りに相場が推移すれば利益が大きくなる)ことや、一定以上の含み損が出た時、追加で入金をしなければならなくなる場合があることなどが、これらの取引が短期売買になじむとされる理由と言えます。

 また、「商品先物」と「CFD」は、値下がりで利益が発生(値上がりで損が発生)する「売り」からも取引を始めることができるため、経済指標の発表をきっかけに、価格が急落し始めた場合に、その急落を利用して利益を狙うことも可能です。

「明るい金(ゴールド)の話」は可能(2)

 前回述べたとおり、金(ゴールド)には、魔性の性質があります。それゆえ、暗い材料だけでなく明るい材料がある時でも、価格は上昇し得ます(2009年と2020年の米国の大規模な金融緩和時は、好景気期待による株高と金(ゴールド)高が同時に起きた)。

 また、できるだけ「不安」の力を借りずに分析をする試みは、「求められる人物像」に近づくことに似ています。金(ゴールド)市場の環境が複雑化したという「変化に気づき」、「不安」だけで安易に分析しようとしない「強じんな心を養う」ことに結び付くためです。

「変化に順応でき、強じんな心と高いコミュニケーション力を有する人」という、現在の「求められる人物像」に近づくことができた人は、大衆投資家がたどり着くことができない「花の山(望んだとおりの利益を獲得できる世界)」に行きつくことができると、考えます。

「人の行く裏に道あり花の山」は、相場格言の一つです。「過去の常識」に縛られがちな金(ゴールド)市場において、いち早く「現在の常識」を取り入れ、不安の力を借りず、材料の俯瞰と影響力の足し引きができた人が「花の山」にたどり着けると、筆者は考えています。

 まずは明るく「不安抜き」で金(ゴールド)の話をしてみることから、始めてみましょう。

[参考]投資リテラシー別、金(ゴールド)関連商品(一例)

※級は筆者の主観

初級:純金積立、投資信託(当社では、楽天ポイントで投資信託を購入することが可能)

純金積立・スポット購入
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
UBSゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)

中級:関連ETF、関連個別株

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
バリック・ゴールド(GOLD)
アングロゴールド・アシャンティ(AU)
アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)
フランコネバダ・コーポレーション(FNV)
ゴールド・フィールズ(GFI)

上級:商品先物、CFD

国内商品先物
海外商品先物
商品CFD