サルがやっても人がやっても投資は同じであるという<ランダムウォーク理論>や、<効率的市場仮説>に対して、これまでの相場の長い歴史のなかで「なんとか市場を打ち負かしてやろう」と考えた人たちが、様々なトレードのアイデアやトレード手法を考えてきた。

筆者の四半世紀の相場経験から断定すると、トレンド(相場の方向性)の有無を判定するテクニカル指標で最も優れているのは、「標準偏差ボラティリティ」と「ADX」という指標である。「標準偏差ボラティリティ」のパラメータは「26」、ADXのパラメータは「14」を使っている。

標準偏差ボラティリティとADXを使った売買手法は1990年代初頭から筆者が使ってきた売買手法だが、1995年以降は筆者の関連するファンドで採用され、「Bollinger Bands 1σ Breakout Trigger with StdDev」と呼ばれている。

相場に方向性が出てくると、標準偏差ボラティリティは上昇する。標準偏差ボラティリティが低い位置から上昇する場合は、相場がもちあいを離れ、強い方向性をもつシグナルとなる。

相場に大きなトレンドが発生する可能性のある局面は、標準偏差ボラティリティが上昇し、ボリンジャーバンドの1σをブレイクしたときである。当然ダマシもあるが、年2回程度は大きなトレンドに発展する確率が高いので、リスクを取るに値する局面と考えている。

一方、標準偏差ボラティリティがピークアウト(天井をつけ下落)すると、トレンド期とはやや逆方向にバイアスがかかった「横這いレンジ内での乱高下相場」となりやすい。

「標準偏差ボラティリティ」と同じような動きをする指標に、J・ワイルダーの考案した「ADX」(方向性指数)がある。「標準偏差ボラティリティ」と「ADX」が一緒に上昇する局面は、相場が強力なトレンドを持っている場面だ。

相場の美味しいところは、標準偏差ボラティリティやADXや低い位置から上がっていく局面で、これを相場用語では「保合放れ」・「レンジ・ブレイク」・「ボラティリティ・ブレイクアウト」などと呼んでいる。

強いトレンドが出ているサインは、標準偏差ボラティリティとADXの2本のラインが一緒に上昇しているところで、上のチャートでは、上段の緑色のゾーンである。

売買注文のタイミングは、21日ボリンジャーバンドで判断する。日足チャートのローソク足がボリンジャーバンドの±1シグマのラインを外側に飛び出したところがエントリー(新規注文)ポイントである。その際、必ず標準偏差ボラティリティとADXのラインの傾きをチェックしてトレンド相場期間であることを確認したい。日足のローソク足が±1シグマの内側に戻ったら、エグジット、すなわちポジションを手仕舞い(返済注文)する。

以上が、筆者の売買手法の「基本形」である。この売買手法を推奨している訳ではない。あくまで、相場に対するアプローチの「参考意見」として書いている。

さて、新楽天FXのトレードシステムである「マーケットスピードFX」(2013年1月7日リリース予定)に標準偏差ボラティリティ(マーケットスピードFXでの名称は短縮して「標準偏差」となっている)が搭載された。

「テクニカル選択」→「オシレーター系」→「標準偏差」をチェックすれば、標準偏差ボラティリティが表示される。

標準偏差の表示方法

(注意:「標準偏差」の下に「標本標準偏差」という指標がありますが、筆者の使っている指標は「標準偏差」のほうです。お間違えなく!)

それでは、まず初めにマーケットスピードFXで「標準偏差」の表示されたドル/円の日足チャートを見てみよう。

下段の黄色で囲んだ部分が26日標準偏差の上昇しているトレンド相場で、上段の赤の部分が21日ボリンジャーバンドの+1シグマの飛び出し局面である。12月18日現在、26日標準偏差はピークアウトしているが、相場が21日ボリンジャーバンドの+1シグマの外側にあるので決済はしていない。

直近の標準偏差はかなりボラティリティレベルが高いが(リスキーである)、それでも円売り相場にエントリーしているのは、週足の標準偏差ボラティリティが上昇しているからである。

ドル/円(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(紫)
下段:26日標準偏差

ドル/円(週足)

上段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(紫)
下段:26週標準偏差

黄枠で囲んだ26日標準偏差の上昇局面がトレンド相場である。白枠の標準偏差の下落局面は相場に方向性がなく、「横這いレンジ内での乱高下相場」となりやすい。

現在のドル/円の日足相場はちょっと難易度の高い相場だが、例えばランド/円の日足を見れば「トレンド(方向性)」の有無はもっとはっきりしている。

ランド/円(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(紫)
下段:26日標準偏差

黄枠で囲んだ26日標準偏差の上昇局面がトレンド相場である。白枠の標準偏差の下落局面は相場に方向性がなく、「横這いレンジ内での乱高下相場」となっている。

ミセスワタナベと呼ばれる日本の投資家の多くは逆張りの円売りから相場に入るが、相場に「円高トレンド」が発生している場合、円売りは厳禁である。逆張りは標準偏差やADXのピークアウト(天井打ち)を待つべきだろう。「難平・損貧・素寒貧」とならないよう、相場が「トレンド」期にあるのか、「保合(もちあい)期」にあるのかをしっかり認識したい。

次はボリンジャーバンドと標準偏差とADXを同時に表示させてみよう。

テクニカル指標の「トレンド系」からボリンジャーバンドを、「オシレーター系」から標準偏差とDMIを選択すればよい。DMIの3本のラインうち、青いラインがADXである。

テクニカル選択(トレンド系とオシレーター系に分類されている)

下のユーロ/円、ユーロ/ドル、豪ドル/円、ニュージーランド/円、ランド/円の日足チャートを見ていただきたい。相場に強いトレンド(方向性)が出ている局面は、標準偏差ボラティリティとADXの2本のラインが一緒に上昇しているところである。

ユーロ/円(日足) トレンドの発生=赤丸・トレンドの消滅=黄丸

上段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(紫)
中段:26日標準偏差
下段:14日DMI(ADX=青いライン)

ユーロ/ドル(日足) トレンドの発生=赤丸・トレンドの消滅=黄丸

上段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(紫)
中段:26日標準偏差
下段:14日DMI(ADX=青いライン)

豪ドル/円(日足) トレンドの発生=赤丸・トレンドの消滅=黄丸

上段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(紫)
中段:26日標準偏差
下段:14日DMI(ADX=青いライン)

ニュージーランド/円(日足) トレンドの発生=赤丸・トレンドの消滅=黄丸

上段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(紫)
中段:26日標準偏差
下段:14日DMI(ADX=青いライン)

ランド/円(日足) トレンドの発生=赤丸・トレンドの消滅=黄丸

上段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(紫)
中段:26日標準偏差
下段:14日DMI(ADX=青いライン)

この世の誰もが「“正確に”相場を予測することが出来ない」ということは、はっきりしている。では、相場に対しどのようなアプローチをすればよいのだろうか? 試行錯誤をしても明確な答えは見つからないが、逆説的に1つの取引手法が浮上してくる。それは、相場を予測することをやめて、ひたすら相場についていくことである。これを相場の世界では「順張り」(トレンドフォロー)と読んでいる。相場の醍醐味は大きなトレンド相場に乗ることだ。

以上、筆者の独断と偏見による「取引手法」を説明してきたが、「私はこう思う」ということを述べただけである。相場に正解はない。FX初心者の方の中には、聞き慣れない相場用語が多く、難しいと思われる方もおられることと思う。しかし、要は「慣れの問題」で、マーケットスピードFXで標準偏差とADXを毎日見ていれば、そのうち相場の息遣いが聞こえてくるだろう。ブログ『石原順の日々の泡』では標準偏差からみた相場感や注目銘柄などを日々取り上げているので、そちらも参照して頂きたい。

相場は確率に賭けるゲームである。相場に絶対の法則やゴールデンルールと呼ばれるものは存在しない。そして相場には落とし穴が無数にある。相場で一番重要なのは資産管理だ。皆さん、ストップロス注文をお忘れなく!