シドニーホーマーは「A History of Interest Rates」(金利の歴史)」で古代バビロニアから近年まで長期金利が1%を割った国はひとつもなかったとのデータを発表している。日本の超低金利1%割れは、過去5,000年間で起きた極めて異常な現象であり、空前の国債バブルであると言えよう。

「超低金利」というのは「抜け出せない不況」を象徴する現象である。今回の総選挙では一般人になじみの薄い「日銀の政策」が争点となっているが、20年に及ぶ日本経済の「ジリ貧」でデッドエンドに追い詰められた結果であろう。

日銀は「デフレは日本の少子高齢化が原因」、政治家は「デフレは日銀の金融政策の失敗が原因」とお互いに責任を転嫁している。不毛な議論だが、デフレというのは「貨幣的現象」である以上、日本をデフレから脱却させられるのは金融政策だけなのである。

日本の不況がすべて日銀のせいだと言う気はないが、長期的な物価上昇率を決定できるのは日銀だけである。日銀の金融政策の是非については、日経平均と日本の長期金利をみればもう答えは出ているのである。日銀の日本経済を長期にわたって低迷させた責任が問われるのは自明の理である。

日本10年国債金利(左)と日経平均(右)の日足 1%割れと1万円割れが続いている

はたして、「ジリ貧」という「長期不景気トレンド」は転換するのか?


(出所:石原順)

安倍自民党総裁が「首相になったら個別の金融政策に対するコメントをしない」と、日銀の独立性を脅かすとの批判に配慮する発言をしたことで、日本では「アベノミクス」の実現性を危ぶむ声が出ている。「安倍晋三ビジョンを実施するとして、それは実施可能なのか?」という疑問である。

だが、海外ファンドのある幹部は「選挙が終われば、安倍氏は日銀の独立性を脅かすに違いない」と発言している。「国土強靱化計画などの公共事業は、日本の財政が持続可能性を失っている現在、財源の問題がネックになる。一方、金融政策はカネがいらないので、最も手っ取り早い景気対策だ。まあ、細かいことはよくわからないが、自民党・みんなの党・維新・民主党の選挙公約はどれも金融緩和路線に変わりはないではないか?」と円安・株高見通しを変えていない。

そんな円安見通しを反映して、海外勢の円売りポジションが大分積み上がってきた。問題は、このポジションがどこで利食いに転じるかである。現在の円安・日本株高相場は「期待先行相場」で、「外人主導相場」というのが特徴である。

シカゴIMM市場 投機筋の円のポジション 「安倍氏に期待」相場で円売り構築


(出所:石原順)

ある通貨ファンドによると、「円安期待相場」のピークは2つあるという。

1つ目は12月16日である。本日の日経新聞1面には「自民過半数の勢い」との見出しが躍っているが、期待感のピークは選挙結果の出る12月16日だろう。多くの新規上場株の相場と同じ(寄りつきピーク)と考えたらよい。

2つ目は来年(2013年)3月から4月である。投機筋は「アベノミクス」を小泉・竹中の「改革・成長路線」とダブらせて見ているが、安倍(連立?)内閣での「日銀人事」・「財務大臣人事」に注目しているのは間違いない。来年、3月19日には山口広秀・西村清彦日銀両副総裁が退任、4月8日には白川日銀総裁が退任する。この日銀人事で「リフレ派」の登用が決定すれば、そこが2つ目の期待感のピークとなるだろう。

「選挙結果と日銀人事が期待相場のピークになる」という話だ。海外勢には「日本の実態景気はそんなに良くなるとは思わないが、円安と株高は進むだろう」との意見が多い。投機マネーは単純なロジックでしか動かない。来春までは「安倍=円安」トレードで一稼ぎしようという思惑らしい。

さて、相場の実践的な話に移ろう。まずはドル/円相場である。ドル/円は12月3日NY終値82円24銭で、相場が21日ボリンジャーバンドの+1シグマの内側に入ってきた。「強い円安トレンド」相場はここで一旦終わったが、相場が21日移動平均線を維持している限り円安相場は継続される。先に述べたように、海外勢は「12月16日の投票日まで円売り相場から降りるつもりはないようである。それまではドル/円の押し目買いを基本戦略としている。14日ADXや26日標準偏差ボラティリティは横這いとなっており「調整相場」を示唆しているが、この調整相場は「値幅(円高)」での調整ではなくレンジでの日柄調整相場となっている。

ドル/円(日足) レンジ調整相場となっている

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

先週、「お年玉通貨候補」として、「豪ドル/円」と「カナダ/円」を取り上げた。オーストラリアとカナダは今週金融決定会合があった。オーストラリア準備銀行は12月4日に政策金利を3.25%から0.25%引き下げ、3.00%にすると発表した。「利下げ」や「中国株下落」で豪ドル/円の売りを推奨するエコノミストが多いが、このレポートでも何度か述べているようにほとんど関係ない。豪ドルと相関関係が高いのはNYダウだけだ。相場はドル/円相場と同様にトレンド指標がレンジ調整を示唆しているが、13日移動平均線まで落ちると「買い」が出てくる堅調な相場となっている。

豪政策金利(赤)と豪ドル/円(青)の日足

豪政策金利は3.0%と過去最低水準になったが、豪政策金利と豪ドル/円相場は連動していない


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) レンジ調整相場となっている

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

カナダは12月4日に政策金利である翌日物金利を1%に据え置いたが、「時間をかけて利上げする必要がある公算が大きい」としている。カナダ中銀は今回も「インフレ目標の2%達成と整合性が取れるよう、金融刺激策を徐々に、幾分緩やかに解除することが必要になるだろう」との文言を踏襲しているが、G7のなかで利上げ観測が出ているのはカナダだけである。そこが投機筋の注目点であり、カナダ/円は相場が若く、豪ドル/円より上昇のポテンシャル・エネルギーが大きいかも知れない。目先、押し目買い継続でよいだろう。

カナダ/円(日足) G7のなかで「利上げ観測」が出ているのはカナダだけ

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

11月8日のレポートで取り上げた「ランド/円」は、11月半ばからレンジ相場を放れて穏やかな円安相場が展開されている。南アランドの取引には鉱山ストライキ、格下げ、利下げなどのリスクが常に控えている。そうしたカントリーリスクを割り切った上でトレードする通貨だが、このところ押し目買いに徹していると非常にパフォーマンスがよい。相場の動く範囲としては8.5円~11円のリスクをもっているが、直近の相場では緑のゾーンでのレンジ取引が有効となっている。即ち、21日ボリンジャーバンド+2シグマと21日移動平均線の往来相場である。

ランド/円(日足) 押し目買いの+2シグマ売り相場継続中

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

明日12月7日は米11月雇用統計の発表がある。ここが年末相場の始まりだ。雇用統計を通過するまでは市場も調整主体の相場とならざるを得ないが、雇用統計の数字次第では相場が大きく動く可能性もある。直前予想は失業率が7.9%、非農業部門雇用者数が+9.0万人となっている。

米国の雇用 今回は失業率が7.9%、非農業部門雇用者数が+9.0万人の事前予想


(出所:石原順)

これからクリスマスにかけて市場の流動性が落ちていく。円安相場が続いているが、相場は何が起こるか分からない。気を緩めずにストップ・ロス注文は必ず事前に設定しておきたい。

日々の相場動向はブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。