プラチナのリースレートは、ここ2週間ほどの間に10%​以上上昇し、スポットと先物のスワップレート(EFPレート)はマイナス20ドル/オンス以下に下落している。これは共にスポット市場で現物が不足していることを示している。現物が不足している正確な理由はわからないが、物流の問題があると考えられる。同様の動きは2020年の新型コロナ感染症の拡大時にも見られた。当時はACP転炉事故がさらに状況を悪化させ、プラチナ価格が12カ月間高止まりのまま推移した要因となった。果たして今回はロシアの問題がACP転炉事故のような影響を及ぼすだろうか。 

 2021年の間、平均0.8%であった理論的プラチナリースレートは、先週、10%を超えた。上昇率が最大だったのは3カ月物(12%以上)と1カ月物(10%以上)で、6カ月物以上の上昇率はそれほどでなかった。これは、直近のフォワードカーブが比較的フラットな状態からバックワーデーションに移動していることを示しており(図4)、この動きは二つの相反する状況を反映している。一つは、スポット市場が現物不足の様相を呈し、それが期近の価格を押し上げていること。二つ目は自動車生産、経済全般の先行き不透明、インフレへの危惧で自動車のプラチナ需要に不安な見方が出ているためにプラチナ価格に下げ圧力がかかり、3カ月以上先のカーブが下降している点である。このことから直近の供給不足の原因はなんであれ一時的なものであることがわかり、実際にレートの上昇率は少し下がってきている。現在の上昇率はコロナ感染症がピークとなった2020年(約7%)より遥かに大きく、当時は調達ルートやサプライチェーンが打撃を受けていたところにACP転炉事故が引き金となって、プラチナ価格が12カ月にわたって上昇した。従って今の問題は、ロシアのプラチナ供給の中断がACP転炉事故のようなプラチナ価格の上昇を招くかどうかということになろう。

 2020年の調達ルートの中断と供給不足の結果、NYMEXのポジションの担保あるいはデリバリーに備えるためのプラチナ在庫管理に変化が起こった。つまりより多くのプラチナがデリバリーの契約履行、売りポジションを実際にデリバリーするために取引所に持ち込まれたのである。その時のEFPレートはポジティブ(70ドル/オンス以上)で、欧州から米国への現物の動きを促した。そして逆に、過去12カ月の間のネガティブなEFPレート(平均でマイナス4ドル/オンス)は、取引所在庫からの引き出しを促し、自国の消費以上のプラチナを輸入している中国の旺盛な購買欲を満たすために使われたと考えられる。最近のリースレートの上昇と同時にEFPレートは2014年以来最低となるマイナス22ドル/オンスとなっており、このような極端なマイナスレートは取引所在庫からの現物の引き出しをさらに促すことになるだろう。これは我々のデータ上ではネガティブな投資需要として扱われるが、実際はスポット市場で現物が不足しているために、確認が可能な取引所倉庫から投資家の需要を満たすべくメタルが動かされているのである。従ってNYMEX在庫からのプラチナの引き出しは、健全なプラチナの需要があり、スポット市場でプラチナが不足していることを示しているのである。しかし、NYMEX在庫がどこまで引き出されるべきかという問題もある。コロナ禍以前の10年間の在庫量の平均は約5.4トンだったが、2020年に21.8トンを超え、現在は約12.4トン。我々は、最低でも過去の平均であった5.4トン以上は保たれるべきであると考えている。その理由は、ロシアに対する制裁あるいはロシアが輸出を停止し、ロシア産プラチナの供給が止まって、再び調達ルートの中断が起こる可能性があるからである。従って、NYMEX在庫からの引き出しには限界があり、それを超えれば市場がさらに供給不足に陥るだろう。 

プラチナのリースレートは急上昇しており、2020年のような価格高騰の前兆の可能性もある

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ 

投資資産としてのプラチナの魅力

- 新たな金属鉱山への投資にもかかわらず、向こう3年間の供給は大幅に制限されている。
- プラチナ価格は依然として過小評価されており、金とパラジウムと比較しても大幅に低い。
- 自動車のPGM需要は排ガス規制の厳格化により今後も成長。
- プラチナとパラジウム市場の需給バランスと価格のミスマッチが代替としてのプラチナ需要を加速。
- 機関投資家需要は2年続いた歴史的高水準から若干弱まっているが価格とファンダメンタルズは依然として良好。

図1:1カ月、3カ月、6カ月物の理論的プラチナリースレートの急上昇は、スポット市場がタイトになっている可能性を示唆。特に3カ月物レートが最大の動き。

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ, 注:理論的リースレートはプラチナフォワードスワップレートからその期間のLIBORレートを引いて計算されている。

図2:ロシアの軍事侵攻直後を除きパラジウムのリースレートには変動がなく、どのような要因にせよ、リースレートの大きな変化はプラチナに限られている。

資料:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図3:大きなマイナスの理論的EFPレートは欧州の現物需要を満たすためにNYMEX在庫の引き出しを促すだろうが、過去見られなかったような低いレベルにまで在庫が減ることはないと考えられる。

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図4:需要への懸念がプラチナのフォワード価格の見通しを押し下げているが、タイトなスポット市場のため、価格は比較的高いまま推移。

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図5:2022年と2021年の中国の輸入超過(約37.3トン)は、NYMEX在庫の引き出し(約4.3トン)を遥かに超えている。

資料:WPICリサーチ

図6:2020年のリースレートの上昇はACP転炉事故と重なり、長期間のプラチナ価格の上昇に先立った。

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ

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