政治の安定は株価上昇要因のひとつ

 政府は6月7日、新たな「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」と、成長戦略を盛り込んだ「新しい資本主義」の実行計画を閣議決定しました。「人への投資」を重視し、新型コロナウイルス禍からの経済再生に取り組む方針です。

 ここでは株式市場にとくに影響を与えそうな項目を見ていきます。なによりも貯蓄から投資への流れをつくる「資産所得倍増プラン」を年末に策定することが注目されます。

 NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の見直しを進め、現状、半分以上が預金や現金で保有されている個人の金融資産2,000兆円が投資に向かうようにする狙いです。

 2023年に無税投資期間が終了するNISAの期限延長や、iDeCoの加入対象年齢(現行64歳以下)の引き上げを見通すことになります。

 さかのぼること約1カ月前、岸田文雄首相はアジアと欧州を歴訪しました。イギリス・ロンドンの金融街「シティー」の市庁舎で講演を行い、「私からのメッセージは一つ。日本経済はこれからも力強く成長を続ける。安心して日本に投資をしてほしい。インベスト・イン・キシダだ」とアピールしています。

 半面、投資家や上場企業、金融業界から批判が強かった「金融所得課税の強化」、「自社株買いルールの設定」は今回の方針に盛り込まれず、ひとまず横に置かれた格好です。ここ最近の首相と政権の動きは随分と「マーケット寄り」に変化した印象を受けます。仮に方針通りに実行できるのであれば、相当な規模のマネーが株式市場に流入することになるでしょう。

 その際気にすべきことは内閣の実行力の裏付けとなる「支持率」、そして「選挙」でしょう。有力経済紙が5月27~29日に実施した世論調査では、岸田内閣の支持率は4月の64%から66%に上昇し、昨年10月の内閣発足以来最高となっています。

 政権発足時の支持率が最も高く、その後はジリジリと下がり、良くて低位横ばいというのが日本の政権の常ですが、発足約8カ月を経て支持を伸ばすのは異例のことです。

 詳細を見ると、コロナ対策への評価が70%、外国人観光客の受け入れ再開が妥当という意見が67%、ロシアのウクライナ侵攻への対応の評価が69%、防衛費のGDP(国内総生産)比を2%以上に増やすことへの賛成が56%などとなっており、岸田内閣の方向性がおおむね評価された格好といえます。

 他全国紙も同様の調査を実施していますが、政権に批判的なことで知られる全国紙の調査でも支持率は60%近い数字となっており、現状、岸田内閣に対する支持率が高いことに疑いはないでしょう。

 首相の言動「~を検討します」、「~にしっかりと取り組む」は時にやゆされ、「目立った業績がない」という厳しい見方はあるものの、不支持にはつながっていないようです。7月10日投開票が有力視される参議院議員選挙でも自民党は大勝を収めるとの下馬評です。

 また、先の衆院選に続き日本維新の会の躍進も予想され、参院での野党第一党が立憲民主党から同党に替わる可能性も取りざたされています。

 日本維新の会は政権批判一辺倒でなく、より与党に近い「ゆ党(与党と野党の間に位置する)」と表現されることもあります。同党の協力も得て、岸田首相の政権運営がさらに万全になる可能性も考えられます。

 政治の安定は株価上昇要因のひとつであることに疑問はありませんが、直近、日経平均が3月末以来初めて2万8,000円台を回復したことも無関係ではないかもしれません。

物色の広がりの先に主力セクター/自動車が浮上

 国内要因を軸に株式市場を見ると、すでにポジティブな動きが広がっていることが認識できます。コロナ禍からの経済活動再開を好感し、小売株・外食株が軒並み高となりました。

 百貨店大手の三越伊勢丹ホールディングス(3099・プライム)J.フロント リテイリング(3086・プライム)高島屋(8233・プライム)は目立った上昇銘柄となり、中華食堂「日高屋」を展開するハイデイ日高(7611・プライム)、靴小売専門店エービーシー・マート(2670・プライム)もジリ高歩調、外国人観光客入国制限緩和に呼応し、ホテルを展開する共立メンテナンス(9616・プライム)、土産用菓子の寿スピリッツ(2222・プライム)も高値に進みました。

 さらに防衛関連株とされる三菱重工業(7011・プライム)は年初来約2倍まで買われています。

 個別銘柄の動きを細やかにウオッチすると「自動車/自動車部品セクター」にも動意があることがわかります。

 中堅完成車メーカーのマツダ(7261・プライム)SUBARU(7270・プライム)三菱自動車工業(7211・プライム)はすでに年初来高値を更新しており、自動車部品でも日産系のユニプレス(5949・プライム)、トヨタ系のアイシン(7259・プライム)などが強い動きをしています。

 ここまで半導体不足などサプライチェーンの問題によって完成車メーカーの生産計画が引き下げられ、このセクターは見送られてきた経緯があります。

 米金融政策、中国ロックダウンなど海外懸念を織り込みながら、「岸田内閣の実行力」を外国人投資家に評価される局面が到来するかもしれません。

自動車/自動車部品関連株

コード 銘柄名 株価(円)
7203 トヨタ自動車 2,190
6902 デンソー 8,033
3116 トヨタ紡織 2,180
7201 日産自動車 554
7269 スズキ 3,971
※株価データは2022年6月7日終値ベース。

トヨタ自動車(7203・プライム)

 世界首位級の自動車メーカー、日本の象徴的な企業のひとつです。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

デンソー(6902・プライム)

 トヨタ系で最大、国内最大、世界首位級の自動車部品メーカーです。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

トヨタ紡織(3116・プライム)

 トヨタ系で世界第4位の自動車内装品メーカーです。シート、ドアトリムなど内装部品が主力です。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

日産自動車(7201・プライム)

 仏ルノー・三菱自と3社連合を組む自動車世界大手企業です。電動車への取り組みで先行しています。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

スズキ(7269・プライム)

 軽自動車大手企業。インドで乗用車市場のシェア5割強を握ります。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)