すべては8月の債券売りからはじまった。「8月相場は債券相場が荒れる」という経験則を警戒したファンド勢が、これまで積み上げてきた「債券買い+株売り」の先物ポジションをひっくり返してきたため、夏枯れの薄商いの相場のなかで株が上がり債券が売られた。

この「債券買い+株売りの手仕舞い相場」の流れが一服した後、「“次の手仕舞い”が為替市場で行なわれている」というのが現在の相場である。為替市場では2012年5月以降、「ユーロキャリートレード」(ユーロを売って他の何かを買う)一色となっていた。その「ユーロキャリートレード」の手仕舞いが現在起きている。

ユーロ/ドル(日足) 買い戻しトレンドが大きくなるかは米・欧中銀の政策次第?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

シカゴIMMのユーロポジション(8月14日現在)

ユーロは依然大幅売り越しとなっている。ユーロ売りポジションの解消余地はまだ大きい。


(出所:石原順)

「ユーロキャリートレード」を象徴する通貨ペアといえば、「ユーロ/豪ドル」であるが、下のユーロ/豪ドルの日足を見ていただければわかるように、ユーロ売りトレンドは7月一杯で消滅している。

ユーロ/豪ドル(日足) ユーロキャリートレードの象徴的通貨ペア 7月でユーロ売りトレンドは消滅している

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

9月6日のECB理事会では「ECBがスペイン国債利回りの上昇を抑制する措置を発表する」との期待が高まっているので、ユーロの買い戻しは8月一杯続くとの見方が多い。しかし、9月に入ればECB理事会の決定が「市場の期待を裏切る結果」になった場合のリスクにも警戒が必要である。

今週は欧州の首脳会談が続くが、ドイツが態度を明らかにするのは9月に発表が予定されているEU・ECB・IMFの「トロイカの調査団」の報告待ちと言われており、市場関係者は楽観的見方に傾いている。「ギリシャ等が破綻した場合、ドイツは8000億ユーロ規模の損失を被る」と報道されているドイツも損得勘定からか、メルケル首相が前向きな発言をするようになっている。

株高・債券安・ユーロ高と好調な「リスク・オン」相場に見えるが、8月は「リスク・オン」というよりは、「手仕舞い相場」の月であったと言えるだろう。現在の市場はイケイケドンドンの新たなマネーが入っているわけではなく、既存のポジションの「ポジション整理」によって動いている。したがって、相場の持続性は脆弱であり、その正味期限はあまり長くない可能性に留意したい。

需給中心でファンダメンタルズを余り反映していない動きであることから、「何で上がっているのか?」「何で売られているのか?」と市場参加者は素直に相場に乗れないようである。ブローカーの話では、グローバルマクロファンドやアルゴリズムファンドのパフォーマンスも6月以降悪化しているらしい。

そうしたなか、昨日は8月1日のFOMC議事録が公表された。「多数がQEは回復を拡大させると認識。多数は持続的成長なければ“かなり早い段階(fairly soon)”に追加緩和と判断。多数が2014年の表現を延長することに賛成。結論は9月に持ち越すことに合意」と、市場の憶測とは違って、「早期に追加緩和を行う可能性がある」ことが明らかとなった。

これはサプライズである。9月12日にQE3発動があるか否かは別として、年内の追加緩和観測に市場は傾いている。こうなると、俄然月末31日に行なわれる「バーナンキ議長のジャクソンホール講演」に注目が集まることになる。この講演でのポイントは原油高・穀物高などのインフレを議長がどう思っているのかということになる。QE3の障害はまだらな景気指標よりもスタグフレーションであり、どういうインフレ見通しを持っているのかが焦点となろう。

NYダウ(週足)と米国の量的緩和政策 この株価水準でQE3は行なわれるのか? 投機筋は疑心暗鬼?


(出所:石原順)

コーン先物(左)と原油先物(右)の日足  QE3の障害は「スクリューフレーション(中間層の没落)」を増長するコモディティ価格の上昇


(出所:石原順)

ドル/円相場は金利差の通り推移している。米・独国債の買われすぎの修正が一服し、「金利差縮小」で足下の相場は円高に振れている。

ドイツ(青)・米国(赤)・日本(緑)の10年国債の推移 2012年1月2日~8月22日

3月相場(黄色のゾーン)・6月相場(緑色のゾーン)・8月相場(水色のゾーン)
国債買われすぎ修正は一服か…


(出所:石原順)

ドル/円相場(月足)は20カ月移動平均線付近で足踏みを続けており、ドル/円(週足)は再び一目均衡表<雲>の下限まで押し戻された。9月FOMCでのQE3観測の再燃で上値が重くなっており、80円は近くて遠い状況となっている。ドル/円の「中期的円安展望」が開けてくるのは、

  1. 相場が月足終値で20カ月移動平均線を上抜く
  2. ドル/円(週足)一目均衡表の<雲>の上限を上抜く

という2つの条件を満たしたときである。それまでは短期取引に徹するべきであろう。

ドル/円(月足) 20カ月移動平均線を「月足終値」で超えられるか? 8月23日現在、79円42銭付近


(出所:石原順)

ドル/円(週足) 一目均衡表<雲>の上限・下限での往来相場が続いている 週足<逆張りゾーン>に到達したが、QE3観測再燃で投機筋は慎重


(出所:石原順)

照会の多い「豪ドル」であるが、8月17日に豪財務省が「豪ドルがさらに上昇すれば金利を引き下げる」というコメントをしてから、豪ドルクロスの上値は重くなっている。加えて、中国の景気の鈍化からBHPビリトンが「200億ドル規模の産銅プロジェクト」の中止を決定したことが嫌気されている。現在、豪ドル/ドルも豪ドル/円も相場のトレンド(方向性)なく、次のトレンド待ちの状況である。

世界最大の鉱業会社である豪BHPビリトンの(日足) 2011年にピークを付けて以来、下落基調


(出所:石原順)

上海株(左)と米S&P500(右)の日足 中国は景気が悪い


(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足) レンジ相場 次のトレンド待ち

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) レンジ相場 次のトレンド待ち

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)