LTRO2を主導したと言われるオーストリア中銀のノボトニー総裁が7月25日に、「欧州安定化メカニズム(ESM)」に銀行免許を与えることを支える論拠がある」と発言したことから、ユーロを売りすぎている投機筋は買い戻しに動きだした。

ユーロ/ドル(日足) 現在は調整相場

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日移動平均線2%エンベロープ(緑)


(出所:石原順)

その翌日7月26日にはECBのドラギ総裁がロンドンの講演で、「欧州単一通貨ユーロの存続のためにはいかなる措置も辞さない」と表明し、ユーロ圏を崩壊させようとするスペイン・イタリア国債利回りの上昇を抑えるためにECBが行動することを示唆した。

にわかに注目を浴びることになった今回のECB理事会では

  1. 追加利下げ
  2. 国債購入再開(SMP)
  3. LTRO3
  4. 適格担保の拡大

などが議論されるようだ。

本日の報道では、「ドラギ総裁はECBとESMが協調してスペイン・イタリア国債買い入れることを計画している。国債買い入れ再開に関してはECB内部で過半数が支持している。 2日の理事会では、国債買い入れについて公式な決定は行われない模様。最終的な決定は、独憲法裁判所がESMについて判断を下す9月12日以降になりそう」(独Suddeutsche Zeitung紙)との具体的な観測が出ている。まあ、結果は出てみるまでわからない。

いくつかのファンドに話を聞いたが、「ECB理事会後の反応はわかりにくい」という声が多い。その意見は概ね次の2つに集約される。

  1. ECB理事会で「解決策が間近に迫っているという希望」を与えて、市場の「債務不安」が解消されるような道筋が示されれば、ユーロ買いとなる。しかし、このような解決のメドは立ちにくく、ユーロは買われても一時的な動きだろう。
  2. ECB理事会で利下げや追加緩和が示唆されれば、金利差とマネタリーベースの要因でユーロは売られる。

ユーロ/ドル(日足)とECB理事会 利下げと量的緩和は通貨安要因


(出所:石原順)

今回も相変わらず原理主義的インフレファイターである独連銀のバイトマン総裁が「ECBは責務を超える行動をしてはならない。各国政府はECBの可能性を過大評価している」と反対している。過去2年半のユーロ圏ののろまな対策の原因である「ドイツを説得できるかどうか」というユーロ危機の構図は変わっていない。

しかし、独連銀(ブンデスバンク)のインフレ警戒は頓珍漢である。世界の債券市場では国債はおろかジャンクボンド(くず債券)に至るまですべて買われている。現在、売られている(金利上昇)のはスペイン国債とイタリア国債だけである。どこにインフレが存在しているのだろうか?

スペイン10年国債(左)とイタリア10年国債(右)の日足 2011年~2012年

ユーロ崩壊を仕掛ける投機筋の道具


(出所:石原順)

独10年国債(左)と米10年国債(右)の日足 2011年~2012年

インフレなんて、どこにある?


(出所:石原順)

目先のユーロ債務危機を回避するには、手厚い銀行救済スキームとスペインとイタリアの調達コストを下げるための十分な国債市場への介入が必要であろう。ドイツはESMに銀行免許を付与することに強く反対しているが(ESMの合憲性もまだ承認されていない)、一蓮托生の覚悟がまだないので、とにかく負担がかかる事は嫌なのだ。しかし、金融政策なんてなんでもありである。 追い込まれれば、損得勘定でなしくずし的に事が進んでいくことになろう。

ユーロ圏の問題は金融政策だけでは解決しない。どこかで財政出動が必要になってくるだろう。結論はわかっているのだが、債務危機の最中、どこの国の政治家も積極的な財政出動には動かない。それを早期可能にするのは市場の暴力である「株の暴落」が起こることだが、へたをすると世界経済破壊となってしまうので、「金融政策で時間稼ぎをしましょう」というのが今の世の中なのである。価格ではなく日柄で調整しようというわけだ。

ギリシャやスペインが緊縮をするのは兎も角、ドイツやフランスは財政出動してある程度のインフレを受け入れるべきであろう。そうしないと、ユーロ圏の貿易不均衡は縮小しないし、ECBがいくら金融支援を行なっても流動性の罠にはまっていく。

ユーロの債務危機が世界経済に暗い影を落とし、世界の主要国の製造業業況指数が落ち込んでいる。しかし、大きな規模のファンドと話をしていると、彼らは「この不景気がもうすこし続いて欲しい」と思っているようなのだ。それは「あほみたいに国債を買っているから」という理由である。「くずでのろまな金融政策(デフレ推進)は大歓迎で、製造業の業績などはどうでもよい。我々のファンドには不景気が必要だ」と語っている。これは、ファンドのみならず、国債ばかり買っている世界の主要金融機関の総意であろう。

各国製造業業況指数 2007年~2012年

世界中、どこも不景気


(出所:石原順)

大きすぎて潰れない金融機関が「金貸し」をやめて国債買いに動くなか、先進国のみならず新興国でも「中間層の没落」が深刻化している。韓国なども外需景気が減速し、「財閥解体論」まで出てきているという。本来、資本主義や民主主義は「中間層がいないと成り立たないシステム」なのである。中間層のいない資本主義の進展は、ユーロの債務危機より深刻である。この事態を放置すると、やがて金融9.11に発展する可能性がある。

ESMによる国債買い入れもECBの追加緩和も、結局時間稼ぎに過ぎない。ユーロ圏の抱える構造的問題(財政が統合されていない)を解決するものではない以上、今回のECB理事会も投機筋が売り買いするネタに過ぎないのである。ECB理事会については丁半バクチを避け、結果を待つしかない。

さて、円相場の動向を見ておこう。ユーロ/円も豪ドル/円も日足を見ると、典型的な調整(方向感のない)相場となっている。レンジ・トレーディングの相場である。

ユーロ/円(日足) 調整(方向感のない)相場

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 調整(方向感のない)相場

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/円の動きは下のチャートを見てもわかるように米株連動である。米SP500インデックスの変動率(ボラティリティ)が上昇傾向に入らない限り、レンジ相場が続きそうだ。

豪ドル/円と米SP500の日足 2012年1月~7月 豪ドル/円は米株と連動


(出所:石原順)

米SP500株価指数(日足) 変動率の上昇には要注意、上昇すると株安になりやすい

上段:20日ATR(赤)
下段:移動平均リボン(緑)・オプションボラティリティ(紫)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)の支持線・抵抗線


(出所:石原順)