「新しい資本主義」政策で、投資を促進

 ここ最近、各社の報道でiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)といった単語を目にしたり、耳にしたりする機会が増えたという方も多いのではないでしょうか。

 これには、去る5月30日に政府が公表した岸田文雄政権の看板政策「新しい資本主義」の実現に向けた実行計画案の中に、資産形成を行いやすい環境整備の一環として、iDeCoやNISAの改革が盛り込まれたことが関係しています。

 そこで今回の「投資信託のツボ」は、番外編として、政府が推進するiDeCoとNISAの改革案について解説します。

 そもそも「新しい資本主義」とは、岸田首相が2021年9月の自民党総裁選で掲げ、同10月の衆議院選挙でも訴えてきた政策です。

 就任当初は成長と分配の好循環を通じた分厚い中間層の復活を目指すという分配重視の政策でしたが、このたび公表された基本方針の原案では、成長重視の方向へのシフトが見受けられました。その一つが、総合的な「資産所得倍増プラン」の策定です。まずは、該当箇所の原文を見てみましょう。

(「貯蓄から投資」のための「資産所得倍増プラン」)
我が国の個人金融資産2,000兆円のうち、その半分以上が預金・現金で保有されている。投資による資産所得倍増を目指して、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充や、iDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革、国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設など、政策を総動員し、貯蓄から投資へのシフトを大胆・抜本的に進める。これらを含めて、本年末に総合的な「資産所得倍増プラン」を策定する。その際、家計の安定的な資産形成に向けて、金融リテラシーの向上に取り組むとともに、家計がより適切に金融商品の選択を行えるよう、将来受給可能な年金額等の見える化、デジタルツールも活用した情報提供の充実や金融商品取引業者等による適切な助言や勧誘・説明を促すための制度整備を図る。

※内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2022(仮称)(原案)」より抜粋

 これだけではいまいちピンとこないかもしれません。各社の報道内容を総合して補足すると、NISAについては、非課税枠の引き上げや非課税期間の延長が、そしてiDeCoについては、加入対象年齢の引き上げが検討されています。もう少し詳しく見ていきましょう。

NISAとiDeCo、どう変わる?

【NISA=ずっと使える制度に】

 そもそもNISAは、2014年に租税特別措置として定められ、導入された時限的な制度です。2018年につみたてNISAが導入され、今や、NISA=長期の資産形成を後押しする制度として浸透していますが、制度自体は「期間限定」のものなのです。

 そこで、世代に関係なく長期の資産形成ができるよう、前述した非課税枠の引き上げや非課税期間の延長に加え、制度そのものの恒久化を望む声が日本証券業協会をはじめとする業界内でも強まっています。なお、5月16日には、自民党の金融調査会が岸田首相に制度の恒久化を提言しています。

【iDeCo=70歳まで加入可能に】

 実は、昨今の働き方の多様化や高齢期の就労拡大に伴う生活基盤の確保に対応すべく、年金制度は度々見直しがなされています。iDeCoは、今年5月から加入可能年齢が60歳未満から65歳未満(64歳まで)に引き上げられたほか、海外居住者など、20歳以上65歳未満で国民年金に任意加入している方も加入できるようになりました。

 このたびの「資産所得倍増プラン」では、企業の就業機会確保の努力義務が70歳まで延びていることを考慮し、iDeCoの加入可能年齢も70歳まで引き上げることが検討されています。

 iDeCoは公的年金に上乗せして加入する私的年金制度ですが、現状、65歳以上で公的年金に加入できる対象者は限定されているため、公的年金制度自体も見直しがなされるのか、今後の動きにも注目したいと思います。

 私たちの日常生活に直結する食品や日用品の値上げが相次ぐ中、今回公表された計画案を巡っては、「国民にさらなる負担を強いるのか」と、ややセンセーショナルに報じる向きもあります。しかし、今やグローバルスタンダードとなりつつある各種の税優遇制度の拡充は、素直に喜ばしいことと受け止めるべきでしょう。

 特にiDeCoは、今年10月にも制度改正が予定されており、企業型確定拠出年金に加入している人も原則として加入が認められるようになります。iDeCoもNISAも、利用はあくまでも任意であり、個人の判断に委ねられていますから、これまでと同様、来るべきタイミングで始めるというので問題ないでしょう。