懐疑的な反応が多い?「iDeCo70歳まで加入」の可能性
5月の末、いきなり飛び込んできたのが「iDeCo65歳超も加入へ」という新聞記事でした。岸田文雄内閣が目指す金融所得倍増計画の一環として、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)」に、「就業機会確保の努力義務が70歳まで伸びていることに留意し、iDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革やその子供世代が資産形成を行いやすい環境整備等について検討する。」という文言が盛り込まれました。
これは、現在は65歳までしか拠出できないiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の拠出可能年齢を引き上げる検討と理解することができます。
2022年5月にようやく、65歳までの拠出が可能となったばかりのタイミングに、さらなる年齢引き上げが報じられたことは意外感を持って受け止められました。
65歳を超えての拠出についてはいくつかの環境整備(後述します)が欠かせないことから、有識者でも唐突感が否めない、実現性は低いのではないか、というような懐疑的反応が多いようです。
しかしながら「70歳まで引き上げられるか、引き上げられないか」という大きな方向感でみたとき、これは必ず引き上げられることになると私は考えています。
例えば、今年実現した60歳から65歳までの積み立てを可能とするiDeCoの規制緩和も、日本人の長寿化(特に健康な高齢期間の伸び)、高齢期雇用の環境整備など、この20年間の社会変化を踏まえて実現したものです。そして、高齢者雇用はすでに70歳現役社会へのステップを踏み始めており、iDeCoの加入が足並みをそろえるのは自然なことです。
問題は「やるかどうか」の政治的決断だけで、あとは「いつやるか」と「どうやるか」を環境整備するだけのことだと思うのです。
企業型DCはすでに70歳未満まで加入が可能!厚生年金保険も同様
そもそも、iDeCoとセットで法定されている企業型確定拠出年金(DC)は、70歳未満まで加入可能であるように法律が整備されています(実はこれ、もともと65歳まで可能であったものが、iDeCoの65歳未満までの引き上げと同時期に70歳未満に引き上げられている)。
企業型DCは会社の退職金制度の一部であるため、実際に60歳以上も加入させ、会社が掛け金を負担するかは企業ごとに制度設計の裁量の余地があります。しかし少なくとも、65歳定年あるいは70歳定年に踏み切る会社が企業型DCに掛け金を積み上げたいと希望したときはこれを妨げないようになっています。
そして、企業型DCとあわせて企業年金制度の中核を占める確定給付企業年金のほうは70歳までの加入がすでに可能となっていて、iDeCoや企業型DCを先行しているのが実態なのです。
考え方のベースとなっているのは、厚生年金の適用が70歳未満までは続くということです。これもまた、高齢者雇用の進展と足並みをそろえてきたわけですが、75歳まで加入拡大、あるいは年齢制限の撤廃があっても何もおかしいことはありません。iDeCoだけが65歳で打ち止めとなるはずがないのです。
会社員のiDeCoについては比較的簡単に実現が可能?
今年の5月から、60歳以降も65歳になるまでiDeCoに加入し拠出できるようになりました。しかし、現在の法律は「公的年金の加入者(保険料を納めている立場)」であることをiDeCoの加入最低条件としています。
60歳以降はこれがくせもので、全ての60歳超がiDeCoに加入できるわけではなく、会社員として働き続けて厚生年金保険料を納めている人たちがまずターゲットとなっています。
こちらについては、法改正で「70歳まで拠出可能」とすれば簡単に法改正が実現します。65歳以降も厚生年金適用を行うことが要件となりますが、高齢者雇用の現場は大きく進展しており、法改正実現のころにはあまり問題ない環境となっているはずです。
加入と拠出はあくまで任意ですから、積み立てをしたくない場合はしなければよく、さらなる引退後の資産形成を目指す人は目指せばよいということになります。
課題:自営業者や無職者のiDeCo加入!公的年金改正とセットで
一方で70歳引き上げの課題もあります。有識者が懸念しているのは、厚生年金加入でない人たちのiDeCo拡充が、65歳以降は活用しにくいことです。
再雇用で働いていてもフルタイムでないので社会保険対象外である人、あるいは自営業者やフリーランスであったため国民年金保険料の納付義務が60歳で終わっている人は、60歳以降のiDeCo加入・拠出が行えません。
未納期間がある場合に、国民年金保険料を納めることで未納期間を埋めつつ、iDeCoに加入・拠出ができることになりますが、誰でも使えるわけではありません。
今のまま法律改正をすると、国民年金の未納期間が10年以上あれば70歳までiDeCoに加入・拠出ができるという、ちょっといびつなiDeCo利用になります。過去にもっと未納しておけばよかった、と思わせるのはおかしな話です。
実は公的年金改正においては60歳以降も国民年金保険料を納める方向性での改革案が提示されたことがあります。60歳以降は納めれば納めるほど国民年金(老齢基礎年金)の受取額がアップするという案で、私は悪くない改正だと思っていましたが、財源問題もあって(給付の半分は税負担)、実現されませんでした。
今回の「65歳超iDeCo加入」が、もしかしたら国民の年金制度の加入に関する議論を一気に推し進める原動力となるかもしれません。
まとめ:実現可能性は高い!団塊ジュニア世代は意識しておくとよい
さて、気の早いことですが「70歳までiDeCo加入・拠出は実現するか」というテーマを検討してみました。
確かに国民年金制度の加入問題があるものの、法改正をやる、と決めてしまえば必要な環境整備を行うだけだと考えています。
確定拠出年金の世界では過去、今までは認められなかったマッチング拠出(企業型DCに社員個人が追加入金をする仕組み)や、専業主婦や公務員のiDeCo加入が認められ実現しました。これも政策的側面から「やること」が一気に決定され、実現するための環境整備が行われました。
例えばマッチング拠出は、当時の麻生太郎内閣の追加経済対策として、いきなり盛り込まれました。何年も税制改正要望で業界が希望していたものが、一夜にして実現することとなったことを覚えています。
どうせ、いつかは70歳まで加入する制度にしてもおかしくないのですから、今回の報道をアドバルーン記事にとどめず、ぜひ対策の中に盛り込み、実現に向けた議論を開始してほしいと思います。
それはきっと、私たちの老後資産形成に大きな役割を持つ有意義な改正となるはずです。
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