6月21日に「ドイツが軟化すれば、7月はミニ・バブル相場も?」と書いたが、6月28~29日のEUサミットではドイツが軟化の姿勢を見せたことでサプライズ相場となり、世界的に株式市場が反発している。

EUサミットではイタリアの「貧者の脅し」が功を奏し、独メルケル首相が折れた格好となった。独メルケル首相の現在の経済補佐官は伊マリオ・モンティ首相のかっての部下であり、独メルケル首相は伊モンティ首相に信頼を置いているようだ。

伊モンティ首相は緊縮政策のせいで支持率は低いが、日米欧三極委員会のヨーロッパ委員長、ビルダーバーグ会議メンバー、ゴールドマン・サックスとコカコーラの国際的顧問であるなど、ECBのマリオ・ドラギ総裁を超える「スーパーマリオ」である。

冷静に見ると、EUサミットでは何の進展もなかったとの声も多い。欧州の悪材料は上げたらきりがないが、とりあえず、6月末から株式市場は急反発している。先進国と新興国の株を両方カバーしているMXWDインデックスも久しぶりの「買い」シグナルを発している。この動きが大きなトレンドに発展するか否かは、本日のECBとBOEの金融政策、明日の米雇用統計、6月17日のバーナンキFRB議長の議会証言という流れのなかで決まってくるだろう。

筆者は7月の相場はせいぜいミニ・バブル相場で、リスク・オン全開相場にはならないとみている。債務危機の欧州の落ち込みが波及し、中国・ブラジル・インドなどの新興国だけでなく米国の経済にもかげりが見られるからだ。また、米・英の投機筋の国債売りやユーロ売り攻撃は相変わらず激しい。

世界経済の牽引役が見あたらないなか、本格的なバブル相場の到来はQE3の発動を待たねばなるまい。したがって、当面の相場では「価格のみを重視して相場についていく」という姿勢を堅持したい。思惑で相場をやるのは確率的に有利な10月買いの3月売りという「180日ルール」だけでよいだろう。

MXWDインデックス(日足)  先進国と新興国の両方の企業株指数

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6シグマ(緑)


(出所:石原順)

ブラジルボベスパ指数(左)とレアル/円(右)の日足 株安・金利安・レアル安の三重苦に…


(出所:石原順)

インドSENSEX指数(左)と中国上海総合指数(右)の日足 インドの成長に陰り、中国は長期間の調整を余儀なくされている


(出所:石原順)

主要国の製造業景況感指数 世界景気はジリ貧、ジリ貧だと政策催促に時間がかかる


(出所:石原順)

なにはともあれ、株が上がったことで元気になったのは、「株価連動通貨」である豪ドルだ。ファンド・マネーは利下げとレアル安が続くブラジルからオーストラリアに資金を移しており、豪ドルは市場参加者の予想を超える上昇相場となっている。標準偏差ボラティリティがピークアウトするまでは、上げ基調は続く。

とはいえ、豪ドル/円も豪ドル/ドルもまだ26日ADX調整(下落)過程にあり、相場のトレンドとしては中途半端である。一番きれいなトレンド(方向性)が出ているのはユーロ/豪ドルで、6月以降21日ボリンジャーバンド-1シグマの外でのユーロ売り相場を継続している。ユーロ/豪ドルの売りを作るには、豪ドル/ドル(円)を買って、ユーロ/ドル(円)を売ればよい。ユーロ/豪ドルの買いはその逆である。

豪ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足) リスク要因は中国か?

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足) レンジ相場継続

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/豪ドル(日足) 美しいトレンド相場

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

昨日の日経新聞の『高金利通貨の買い強まる』という記事の中に、「外国ではVIX指数が下がると自動的に高金利通貨を買うようなプログラムを使って売買しているヘッジファンドなどもある」との記述があった。豪ドル/円などの高金利通貨は米株価連動なので、このロジックはよくわかる。

アルゴリズム取引の「変数」に(S&P 500のオプション価格をもとに算出される)VIX指数を使って儲かるのかどうか疑問もあるが、VIX指数(恐怖指数)を見ていれば、ポジション調整などによって大きな損を回避することはできる。相場を長く続けていくためには、オプション・ボラティリティやATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)などの相場の変動(ボラティリティ)の推移を定点観測するべきであろう。

豪ドル/円とVIX恐怖指数の推移 20以下は安全地帯?

上段:豪ドル/円
下段:VIX恐怖指数(S&P 500のオプション価格をもとに算出される)


(出所:石原順)

米SP500株価指数(日足) 米株上昇=豪ドル/円上昇 上げ相場はジリジリ上がる

上段:20日ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)=相場の変動幅の20日平均
下段:オプション・ボラティリティ(紫)


(出所:石原順)

本日のECBの0.25%の利下げやBOEの資産買い取りプログラム枠の増額は折り込み済みである。一部のファンドは0.5%の利下げ、MP(国債購入策)の復活、中銀預金金利の引き下げを予想しているところもあるが、何かサプライズが欲しいところだ。

「ECBのドラギ総裁は、FRBが敬遠しているトワイライトゾーン(未知の空間)に金利を設定することを真剣に考えている。ECBの利下げは信頼感改善や貸し出し促進、成長拡大につながるもようだが、下限政策金利である中銀預金金利がゼロ以下に下がることにもなるかもしれない。0.25%からの中銀預金金利引き下げは、てこ入れを図ろうとしている短期金融市場に悪影響を与えかねないことが政策当局者にとって障害となっていたが、もはやタブーではないと、ユーロ圏の中銀当局者2人が15日に語っている」(6月27日 ブルームバーグ)と報道されているように、ドラギは中銀預金金利のマイナス金利も想定しているようだが、次の段階での実施となるだろう。

一方、7月11~12日の日銀金融政策決定会合では、日銀のリークで「追加緩和を見送る公算大」と新聞各紙が報道している。7月は展望レポートの見直し時期であり、追加緩和が既定路線であったが、「欧州危機が和らぎ、日銀短観で日本経済の強さが確認された」という理由で緩和は見送りになると言う。

このような観測気球(市場との対話か?)を上げているようでは、いつまでたってもインフレ期待が上がらずデフレから脱却できない。株安・円高で政治家が騒がないと動かないので、「Too little too late」の小出し政策を続けてデフレ=国債PKOを維持していくということだろう。

海外勢は「規模もスピードも遅い。どうせ日銀は緩和負けする」と、日本の緩和政策に対してはサジを投げている。デフレとは現金がバブルしている状況をいうが、こんなことだと円安も進まず日本株の上値も重くなりそうだ。日本経済の危機的問題や諸悪の根源はデフレだが、既得権を持っている人にとってデフレは天国なのである。

最近、海外のファンドから「日本の金利が上がるとどうなるか?」ということをよく聞かれるが、日経ヴェリタスの6月24日号に「国債、みんなで買うほど恐くなる」という記事が載っていた。「あまりに国債保有が増え、株式保有が減った結果、国内銀行では全年限平均1%の金利上昇と日経平均の4,000円下落がもたらす評価損がほぼ同じになった」と書いてある。

何がきっかけになるか解らないが、資金の逆流がそう遠くない将来に起こりそうである。どのみち良い円安は進まず、デフレによるシャッター商店街化の果てに、「最悪の日本売り=円安」が襲ってくるという図式になるだろう。

日本10年国債金利(左)と日本10年国債先物(左)の推移 1989年~2012年
金利が1%上がると大変なことに…


(出所:石原順)

ドル/円(週足)

ドル/円相場は日米金利差が動かない(金利差がない)状態で膠着、週足をみると21週移動平均線と-1シグマおよび一目均衡表の雲の中での往来相場となっている
上段:26週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13週移動平均線(赤)・21週移動平均線(青)・21週ボリンジャーバンド1σ(茶) 9週RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

金曜日の6月米雇用統計は、失業率が8.2%、非農業部門雇用者数が+9.6万人の予想となっている。今回は予想のハードルが低く、実際の数字が出てみないとどういう反応をするのかわからない。第三四半期入りしたファンド勢も、「雇用統計の発表までは相場のシナリオを組みにくい」と述べている。ブレの大きい指標なので、リスク管理をお忘れなく!

米雇用統計の推移 失業率が8.2%、非農業部門雇用者数が+9.6万人の予想に対しての反応は? 大幅に悪化ならQE3?


(出所:石原順)