6月5日の夜、G7緊急電話会合が行われた。1時間半に及んだ会談だが、欧州問題についての進展はなく、共同声明も発表されなかった。しかし、この会合後、マーケットでは「売られすぎの修正=買い戻し相場」が進行している。

G7緊急金融電話会談のポイントは話の中身ではなく、それが米国の呼びかけ(音頭取り)で行われたことである。欧州の危機に対しては斜に構えていた感のあった米国が、米国株安に背中を押されて緊急会談をもちかけたのである。これは市場に安心感を与えたようだ。「危機が起これば対策が出てくる」というプット・オプションの確認である。

「アップルとフェイスブックが下がれば再選に黄信号が点る」と揶揄されているオバマ政権は、米国株式市場の動向にかなり気を揉んでいる。雇用統計が3カ月連続悪化しているなか、欧州債務問題に巻き込まれて選挙戦に悪影響が出るのはまずい。

乱暴なことを言えば、株価や為替相場のトレンドを決めるのは米国であり、世界の中央銀行であるFRBである。欧州や日本が相場のイニチアチブを取ることは不可能だ。オバマ政権が選挙対策で欧州危機に介入してきたというアピールは大きい。

アップル(左)とフェイスブック(右)の日足 オバマ政権は株価を注視


(出所:石原順)

G7緊急金融電話会談が行われるほど逼迫した状況で、「6月6日ECB理事会ではなんらかの対策が打たれるのでは?」という観測が直前になって盛り上がり、「利下げや流動性供給策」を当てにした政策期待買いと売り方の買い戻し相場が展開された。

ユーロ/ドル(日足) 標準偏差ボラティリティはピークアウト

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

しかし、ECB理事会の結果は不発に終わった。利下げ云々はやっても効果がないのでどうでもよいが、「追加の金融緩和の実施や示唆がなかった」のはあきらかに失望である。それでもリスク回避とならなかったのは、前日から市場がシュート・カバーおよびストップロス・ハンティングの買い戻し相場が続いていたからである。過去、7週間にわたりショートが溜まりに溜まっていたので、需給が買い戻し優勢になっていたためだ。

シカゴIMMのユーロポジション


(出所:石原順)

ドラギECB総裁は「金融政策は財政措置の欠如を埋められない」「さらなるLTROが効果的かどうか?」「一部の問題はECBの政策とは何の関係もない」 「政府のEFSF利用の是非を決めるのはECBの仕事ではない」など、政治の問題は中央銀行では穴埋めできないことを強調し、月末のEUサミットのまで行動を取らないことを示唆している。スペインの国債の危機的状況にもかかわらず、ECBは国債買い入れを12週間連続で見送っており、やる気のなさが目立っている。

とりあえず、ECBが「市中銀行に対する最長3カ月の資金の無制限供給を少なくとも2013年1月15日まで継続」したことで、市場は一旦落ち着いている。しかし、ドラギECB総裁が「欧州の債務危機の深刻さは、米証券大手リーマン・ブラザーズ破綻後の状況には程遠い」と呑気なことを言っているので、再び催促のユーロ売り・株売りが再燃する可能性は大きい。

ECBの無策の穴を埋めたのはQE3観測である。「極めて力強い緩和策が必要」「さらなる資産買い入れは正しい方向への一歩」(エバンス・シカゴ連銀総裁)、「先週末の弱かった米雇用統計によって示される回復減速により、一段の金融緩和措置の検討が必要」「ツイストオペ延長は検討中の選択肢」(ロックハート米アトランタ連銀総裁)、「成長見通しが悪化すれば追加緩和が正当化」「MBSを含めた長期証券の追加購入が効果的な道具」(ウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁)、「景気回復促すため超緩和的な金融政策かなり長い間必要」「 経済情勢が悪化すれば、一段の緩和策を実施する余地がある」「政策金利見通し指針か追加的なバランスシート行動が必要」(イエレンFRB副議長)と、6月QE3を示唆する要人発言が相次いでいる。

欧州の危機的状況を覆すには、欧・日・米の同時緩和が理想的だが、日本や欧州は後手に回る(催促されないと政策を打たない)ので、市場の期待はFRBの政策に向いている。仮にオバマが落選すれば、バーナンキFRB議長はクビになる。米国の投資銀行は「非常に高い確率で6月20日にQE3が実施されるだろう」と予測している。

QE3に期待して、直近のマーケットは「ドル安・株高」に振れている。FRBメンバーのハト派発言が続いているので、本日、日本時間23:00から行われるバーナンキFRB議長議会証言で「議長が早期のQE3実施を示唆するのではないか?」との憶測も出ている。

「株高・ドル安・円安」の買い戻し相場が続く中で、昨日からクロス円相場は大きく戻している。26日標準偏差ボラティリティのピークアウトとともに円相場は相場が21日ボリンジャーバンド-1σの内側に入り、強い円買いトレンド相場は一旦終了した。

米雇用統計後からたびたび覆面介入の噂が出ているが、78円割れは「介入観測」を囃して投機筋が短期的な買い仕掛けを行ったようだ。円売り介入が実施されても、介入では長期円高デフレトレンドは変わらない。円相場の行方は日銀が大胆な緩和策を行なうかどうかにかかっている。

豪ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 9日RSI20付近(黄)

上段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)
下段:9日RSI(鈍感バージョン)


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ポンド/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ドル/円(日足) トレンドなし

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ドル/円(日足) 9日RSI30付近(黄)

上段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)
下段:9日RSI(鈍感バージョン)


(出所:石原順)

5月24日に「相場の反転はあるか? 6月相場のアノマリー」というレポートを書いたが、米国の10年国債は6月に入り急反発している。債券関係者にとって「6月」と「8月」は鬼門といわれるが、この米国債金利の反転が今後の株高やQE3を示唆する動きなのか、興味深いところだ。

米10年国債金利(日足) 債券は6月に売り抜けるのがいい?


(出所:石原順)

世界経済は積極的な財政出動と金融政策が必要な状況にある。それが政治的な反動で動いていない。財政出動がないので、今の経済は金融政策だけで廻っている。はたして、6月20日に米国はQE3を実施するのか否か、筆者の興味はその一点につきる。