ギリシャの再選挙が終わるまでは、ユーロ圏からのギリシャに対する恫喝が止まらない。米・英資本のユーロ売りもすごい。ギリシャのユーロ離脱やユーロ崩壊シナリオが蔓延し、ユーロ安・株安という危機対策催促相場が続いている。

ユーロ/ドル(日足) 休養十分から強烈なトレンド相場に発展

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

独占資本主義によるバブルの発生と崩壊を繰り返してきた世界経済だが、最近は金融危機や不景気の規模が大きすぎて、危機への対策として国家が全面的に介入せざるを得なくなっている。

リーマン危機をうけて米国では金融機関が抱えた巨額の不良債権を政府が公的資金で買い取った。FRBが最後の貸し手として金融界に無制限に融資を続け、金融システムを維持している。リーマン危機後、米国は市場原理を放棄したといってよいだろう。時代は独占資本主義から国家独占資本主義に転換している。だから、結局、欧州危機でも同じことが繰り返されるだけだ。

国家独占資本主義に転換してから市場のモラルハザードが酷くなり、資本主義は腐敗の色を強めている。2009年11月にドバイショックが起こったのは、超高層ビル(バブルの塔)が建ったからではない。当時、米国のQE1が終了するという出口観測が出てきたからだ。

そのドバイショックが南欧に飛び火して、ギリシャの財政危機となった。ギリシャ危機は米国のQE2で延命し、ECBによるLTRO1、LTRO2という100兆円バラマキで終息するかに見えた。しかし、「ECBのLTROは当分ない」「景気が回復している米国のQE3はない」という出口観測が出てきて、ギリシャの危機は再燃した。

米国の金融政策とNYダウ(週足) リーマン危機後、中央銀行が最大のプレーヤーに


(出所:石原順)

「偽りの景気回復」と呼ばれる今の経済は、緩和を止めると危機が起きるのである。米・欧の量的緩和の終わりは、ギリシャの終わりになる。だから、追加緩和は行われるはずだ。

日本と同じく欧州の金融政策は基本的に後手に回る傾向が強い。政治的な駆け引きもあって催促されないと動けないのである。そうこうしているうちに、危機はスペインに飛び火している。

5月29日、米独立系格付け会社のイーガンジョーンズ社が、スペインの格付けを「BBマイナス」から「B」に引き下げた。財政の悪化や銀行セクター支援に伴う政府の負担をめぐる懸念を理由に挙げている。

イーガンジョーンズ社は市場関係者の間では「もっとも信頼できる(実績のある)格付け会社」といわれており、「公正な判断」を売りものにしている格付け会社である。同社のスペイン格下げは、4月17日・4月30日、5月22日、5月29日と立て続けである。

「スペインの銀行が支えるゾンビ不動産業者-7.6兆円が必要か」(5月29日ブルームバーグ)という報道では、「政府が求める引当金の積み増し額は約300億ユーロ(約3兆円)に上るが、不良債権でないとされる融資の多くが実は不良債権であるため、この額でも十分でないと不動産を専門に手掛ける金融会社イレアのミケル・エチャバレン会長は指摘する。先送りして祈るというのがスペインの政策だ。真実を語らないよう求める非常に大きな圧力がかかっているため、誰も問題の大きさを数字として把握していないと語った」と、スペインの不動産不況の実態が語られている。スペインの金融機関は国債評価損も大きくなっているが、スペインの不動産バブル崩壊はこれから本番を迎える。

スペイン10年国債(左)とスペインIBEX株価指数(右)の日足

投機筋の売り仕掛けでECBは追い詰められている


(出所:石原順)

フロリダのディズニーワールドに行けば、世界でもっとも景気のよい国を知ることができる。現在はブラジル人が多い。サブプライム住宅ローン危機が顕在化する2007年の夏まで、ディズニーワールドは英国人とスペイン人であふれていた。

2007年までの5年間、世界の金融機関はレバレッジを拡大すればするほど儲かる金融ビジネスに皆が踊っていた。その象徴が住宅バブルであるが、この住宅バブルに便乗して無茶苦茶なことをやっていたのは英国とスペインである。

筆者はスペインの某銀行で“凄腕債券ディーラー”と呼ばれた人物に会ったことがある。彼はもともと銀行の債券ディーラーであったが、レバレッジを拡大させてものすごく稼ぐので、ヘッジファンドを設立し独立した。筆者が会った当時はヘッジファンドの運用をしていたが、マドリードの超高級住宅地の大豪邸(某有名サッカー選手の隣の家)で大きなポジションをトレードし、飛ぶ鳥を落とすといった勢いが感じられた。

ところが、サブプライム住宅危機とリーマンの倒産によって彼のファンドは破産した。住宅債券の暴落でやられたのだ。ファンドに自己資金のほとんどを投入していたため、個人でも壊滅的な打撃を受けたようである。問題は、彼のファンドは銀行の別働隊であり、銀行の本体も彼と同じ運用(コピーキャット)を行っていたことだ。その後、その銀行は好決算を続けていて、損をしたという話は聞こえてこない。時価会計が止まっているからである。

スイスやドイツの金融機関もスペインと同じようなものだ。低金利で稼ぎの減った欧州の金融機関は高収益を狙って米国のサブプライム住宅ローン市場に参入したが、サブプライム危機後は大きな損失に苦しんでいる。

現在、ユーロ圏のあぶない金融機関は中央銀行による緊急流動性支援(ELA)で急場をしのいでいる状況である。このようなすぐ目の前にある欧州危機を止めるには

  1. 危機国の中央銀行があぶない銀行に公的資金を投入する
  2. ECBがLTROでカネをばらまく
  3. ユーロ共同債など財政統合をすすめる

のいずれかを実行するしかない。③が理想だが、財政統合の話はなかなか進まないので、とりあえず①か②の金融政策で対処するしかないだろう。ドイツ連銀が抵抗しているが、早晩、ECBは追加の長期資金供給オペをやらざるを得ないだろう。それまでは基本的に催促相場が続く。

円相場は5月30日、「先進国では物価上昇率と人口の増加率の相関関係が2000年代に観察されるようになったと指摘した。一方、マネーの増加率と物価上昇率の相関は近年弱まっている、との見方を示した」(ロイター)との日銀総裁発言が報道されたため、「日銀は相場操縦がへたくそだ。運命論者か?」と海外投資家の怒りを買い、78円ローの介入観測ポイントを試す動きとなっている。催促されながら小出しの対応を日銀が続けるようだと、今年も過去3年続いた「5月~7月期の円高」というパターンになりそうだ。

ドル/円(日足) 2009年~2012年

5月~7月の相場(黄色のゾーン)・投機筋が想定する介入ゾーン(水色)


(出所:石原順)

ドル/円(日足)

上段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)
下段:9日RSI鈍感バージョン(赤)


(出所:石原順)

現在の中央銀行は株価を上げることが仕事となっている。リーマン危機後は中央銀行が市場にカネをばらまいて、PKO(買い支え)が行われている。相場の行方は中央銀行の政策次第だ。ギリシャ問題でここまで市場に追い込まれれば、ECBが6月6日の政策理事会で「何もしない」という選択肢はないだろう。利下げないしは新種のLTROが予想される。

ECBの資産 ドイツ連銀は反対しているが、LTRO3は時間の問題?


(出所:石原順)

今週末の6月1日には米雇用統計が発表されるが、6月20日のFOMCに向けた判断材料となろう。2009年以降の相場は「危機と政策対応(バラマキ)の繰り返し」となっている。6月は欧(6日)・日(15日)・米(20日)の中央銀行の政策によっては、相場が大幅反転に向うかも知れない。欧・日・米同時金融緩和となるか? とりあえずは、6月6日のECB理事会待ちだ。

円相場はドル/円を除き円高トレンド継続中である。現在、株安・円高で不景気風が吹いているが、2012年の円相場はトレンド相場という意味では最高の部類に入る相場展開だ。

豪ドル/円相場は26日標準偏差ボラティリティにピークアウト感が出ており、相場は5月28日に21日ボリンジャーバンド-1σの内側に入ってきた。しかし、26日ADXは依然トレンドを継続しており、相場も13日移動平均線に跳ね返されて、再び21日ボリンジャーバンド-1σの外での取引となっている。

豪ドル/円の動向はNYダウとユーロの動向次第だが、相場はテクニカルポイントの77円を割り込んでおり、目先75円まで支えがない。現在、周期的底値圏である9日RSIの20%レベルを伺う展開となっているが、この局面は順張り・逆張りともストップ・ロス注文(資産管理)を徹底したい。ボラティリティ・レベル(相場の変動率)が高い相場はリターンも大きいがリスクも大きい。気を抜いてはいけない。

豪ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ポンド/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)の支持線 フィボナッチのファンラインとアーク


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)と9日RSI(鈍感バージョン)の推移


(出所:石原順)