「5月に売り抜けろ」といわれる5月相場だが、これはヘッジファンドの多くが<5月・11月決算>(顧客の決算の1カ月前)となっている事情が大きく影響している。一方、本日2日の米WSJ紙には『今年は「5月に売れ」には従うなと警告』との記事も出ている。筆者は5月相場に対するこだわりはないが、4-6月期の相場は1-3月期よりやりにくいという感触を持っている。

日経平均株価やNYダウの動きをカレンダーで観察すると、「10月に買って半年間運用する」のがもっとも効率のよい投資法だと言われている。相場に絶対の法則はないが、「前年の第四四半期(10月・11月・12月に買って)、第一四半期(1月・2月・3月)に売る」という運用手法は比較的報われると思っている。

上記の株の運用手法はドル/円相場にも転用ができる。下のチャートは2000年以降の日経平均株価とドル/円の月足である。第一四半期(1-3月期)が緑、第二四半期(4-6月期)が黄、第三四半期(7-9月期)が白、第四四半期(10-12月期)が赤で色分けしてある。

日経平均株価(月足) 2000年~2012年


(出所:石原順)

ドル/円(月足) 2000年~2012年


(出所:石原順)

チャートを見ると、株もドル/円も「前年の10-12月期の押し目を買って、1-3月期の高値で売り抜ける」という手法が有効であった年が多い。2010年第四四半期から2011年第一四半期のドル/円相場ではこの手法は報われなかったが、今年の相場(2011年第四四半期から2012年第一四半期)の相場では有効に機能した。

ドル/円(月足) 2009年~2012年

前年の10月~12月(赤)に買って、1月~3月(緑)の高値で売ると効率がよい?


(出所:石原順)

さて、為替相場は逆張りの「ドルの売り場」である1-3月期を通過し、4-6月期という比較的特徴のない時間帯にある。主要中央銀行の総資産が10兆ドルに迫るなか、不景気の株高という金融相場が展開されている。ECBの100兆円バラマキに続く「超金融緩和」と期待された日銀の2月14日サプライズは、日銀の市場との対話の失敗により再び「デフレ期待値」が上がっている状況だ。

「日銀は本当はやりたくない政策をやっている」と既に世界の投資家から見透かされており、「インフレ期待」は急速にしぼんでいる。相場は「期待」で動くからだ。円安→株高の流れが出来つつあっただけに、残念なことである。会見や講演の度に日銀総裁はインフレの副作用ばかりを強調するが、「需要不足の日本で急激なインフレなど起こるのか?」と海外投資家は首をかしげている。

日銀の本音は「円高がよい」ということである。インフレを気にしているのではなく、日本経済の命綱である日本国債の金利が上がるのがイヤなのだ。円安で株が上がり、その結果として金利が上がるのはよい現象なのだが、やはり金利上昇を恐れているのであろう。政治家も官僚も円高が好きだが、家電業界の崩壊や国策企業エルピーダメモリの倒産(円高による日本のシャッター商店街化)で、そうは言っていられなくなったというのが現状であろう。

日銀のアナウンスによるデフレ期待値の再上昇を受けて、市場では「円高・日本株安・日本国債金利安」のトリプル・デフレ相場が展開されている。

今週の相場で注目されることは、ドル/円相場が4月終値で20カ月移動平均線を割り込んだことである。5月2日現在、ドル/円の20カ月移動平均線は79円95銭近辺で推移している。現在、相場は再び20カ月移動平均線の上に位置しているが、20カ月移動平均線の下抜けでドル/円相場の参加者は様子見気分が強くなった。

それでも日銀は「物価目標1%のゴールまで緩和姿勢を続けなければならない」ので、ドル/円相場の下値は昨年までの相場と違って下値は堅くなるだろう。IMF拠出金との絡みで、介入も実施しやすくなっている。2011年11月および2月安値を最終防御ラインとして、79円~78円台には多くのサポートが存在する。移動平均リボンを見ると、1~3カ月の市場参加者の平均コストは81円90銭~80円30銭となっており、上値のほうは82円が重くなるだろう。

ドル/円 60週移動平均線(左)・20カ月移動平均線(中央)・週足一目均衡表の<雲>(右)・5月1日現在


(出所:石原順)

ドル/円 移動平均リボン(左)支持・抵抗線(右)


(出所:石原順)

豪ドル/円(左)とドル/円(右) フィボナッチのファンラインと9日RSI(鈍感バージョン)


(出所:石原順)

ECBのモンスターオペが一服し、日銀への過剰な期待感が剥落した状況で、市場の関心(マーケット・テーマ)は「為替相場の親玉であるFRBの政策」に移っている。依然、6月QE3観測が根強く浮上するなか、6月20日のFOMCまでは「経済指標に一喜一憂する相場」が続くだろう。つまり、米国金利に左右される相場が展開される。米国金利の動向を注視したい。

日本10年国債(左)と米10年国債(右)の日足

米長期金利はバーナンキFRB議長のコントロール下で低下中・消費税法案もなんのその、日本長期国債はバブル相場邁進中


(出所:石原順)

米・日2年国債金利差とドル/円相場(左)・豪・日2年国債金利差相場と豪ドル/円相場(右)3月半ばから相場が転換


(出所:石原順)

インフレ懸念がありながら、オーストラリア、ブラジル、中国、インドといった成長力のある国がすべて利下げ方向に向っているのは興味深い現象だ。なぜ、利下げをするのか? それは不景気だからである。世界はまだリーマン危機後のバランスシート調整の最中にある。バランスシート調整中は銀行がカネを貸さないので不景気になる。さりとて、どの国も財政出動する余裕がない。だから、景気回復までの時間稼ぎのために中央銀行が金融緩和をしているのだ。

現在、世界景気は金融政策だけで廻っている。米国は2013年度から本格的な緊縮財政に入る。追加の金融政策なくしては、景気が持たないであろう。海外の報道では「オバマ政権は再選のためになりふりかまわぬ株価PKOを考えている」そうだ。QE3に向けての障害となる「インフレ」懸念だが、コモディティ市場をみると中南米主体の大豆先物が一極集中の暴騰相場となっているが、米国の管理下にあるコーン先物や原油先物はレンジ相場が続いている。3月29日のレポート「バーナンキによる相場操縦、6月QE3はあるのか?」に書いたように、米国債やコモディティ市場はQE3の地ならしや大統領選に向けたFRB管理下にあるといえよう。

コーン先物(左)・原油先物(中央)・大豆先物(右)の日足


(出所:石原順)

ドルは前回4月6日の雇用統計の悪化を受けてQE3観測が再燃し、その後、米金利低下→ドル安基調が続いている。その意味で、今週5月4日(金)に発表される米雇用統計の結果は大きな意味を持つ。市場予想は非農業部門雇用者数が17.5万~15万人増ということになっているが、ゴールドマンのアナリストが12万増を予想するなど、テールがやや長くなっている。米雇用統計だけは、結果を見てみないと分からない。いずれにせよ、雇用統計の結果で追加緩和観測の有無が騒がれ、ドル相場の方向性が見えてくるだろう。

米国の雇用の増減 1992年~2012年


(出所:石原順)