今週の相場は4月27日の日銀金融政策決定会合を控えて身動きのとれない展開となっている。日本はこれからゴールデンウイークに入るが、連休中の5月4日に米雇用統計、5月6日にはフランスとギリシャの選挙を控えており、神経質な相場展開が続きそうだ。

先週のレポートに「ドル/円(週足)一目均衡表の<雲>を支えとして、ドル/円も豪ドル/円の9日RSI(鈍感バージョン)の周期的な底から反発しているが、ここで買っても相場の抵抗である13-21日移動平均バンド近辺では利食いをする運用者が多い」と書いたが、円相場は多くの通貨ペアで「21日移動平均線」が重くなっており、13-21日移動平均バンドに収斂する動きとなっている。

豪ドル/円(日足) 2011年11月~2012年4月26日

上段:13-21日移動平均バンド(水色)・フィボナッチのファンライン(青)
下段:9日RSI(鈍感バージョン)


(出所:石原順)

ドル/円(日足) 2011年11月~2012年4月26日

上段:13-21日移動平均バンド(水色)
下段:9日RSI(鈍感バージョン)


(出所:石原順)

昨日のFOMCが「現状維持」で終わったことから、明日の日銀金融政策決定会合で追加緩和が決定されれば(市場の催促に対してのやる気のないアリバイ作りではインパクトがないが…)、米・英・欧が追加緩和を見送っているなかでの「日銀の周回遅れの量的緩和」という側面は強調され、円高圧力の軽減にはなるだろう。したがって、昨年までのようなブラックスワン的な超円高の動き(テールリスク)は遠のいており、一目均衡表週足<雲>の上限、20カ月移動平均線、60週移動平均線といったサポートでは<逆張り的な円売り>を考えている運用者は多い。

ドル/円 20カ月移動平均線(左)・週足一目均衡表の<雲>(中央)・60週移動平均線(右)

20カ月移動平均線=80円18銭、週足一目均衡表の<雲>の上限=80円54銭、60週移動平均線=79円30銭(いずれも4月26日現在)


(出所:石原順)

白川日銀総裁は2012年2月6日の参議院予算委員会で、「FRBが日銀の政策に近づいてきたという認識を持っている」と語ったが、翌日2月7日にバーナンキFRB議長が上院予算委員会の公聴会で、「日本はデフレで、物価は長い間低下を続けている」「銀行の資本増強も米国が2009年に実施した際のようには速くなかった」と述べて、日本とは違うことを強調した。

バーナンキFRB議長は昨日25日のFOMC後の記者会見でも、「デフレ回避に向け米国は(日本より)大胆かつ予防的に取り組んだ」と語り、バブル崩壊後の金融政策の機動性に日米の違いがあるとの認識を示している。

「カネが回れば景気はよくなる。銀行がカネを貸さなくなると、不景気=デフレ不況になる。カネが回らないなら、中央銀行がヘリコプターでカネをばらまく」この単純なロジックを拒否し、日銀は過去10年間デフレターゲット政策をとってきたというのが、バーナンキFRB議長の見方である。

しかし、わざわざFRB議長に聞かなくてももう答えは出ているのである。それは下のチャートの日本の10年国債金利と日経平均の推移をみればわかることだ。日本は「失われた20年」というデフレ+ジリ貧路線を歩んでいるのがはっきりわかる。

日本10年国債利回り(左)日経平均株価(右)の日足 1988年~2012年4月26日

日本の大不況はマクロ経済政策と金融規制の一連の失敗の結果、長期金利2%以下と日経平均株価1万円以下は経済の死?


(出所:石原順)

市場や政治家の日銀への催促は非常に厳しいものがあり、日銀が27日の金融政策決定会合で「何もしない」という選択肢はもはや考えにくいが、万が一何もしないようだとマーケットが受けるダメージは計り知れない。万が一、日銀追加緩和見送りという結果になれば、ドル/円相場は政策催促の円買い相場となるだろう。

ドル/円(日足) ギャンアングルと平行サポートライン(赤)


(出所:石原順)

リーマン危機後の相場は中央銀行の政策(バラマキ金)次第である。したがって、今後のドル/円相場を考える上で、日・米の金融政策日程がとても重要となってくる。

日銀とFRBの金融政策会合予定日

日銀は4月および10月の政策委員会・金融政策決定会合において、先行きの経済・物価見通しや上振れ・下振れ要因を詳しく点検し、そのもとでの金融政策運営の考え方を整理した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を公表している。また、1月および7月の金融政策決定会合では、その直前に公表された「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)以降の情勢の変化を踏まえたうえで、先行きの経済・物価見通しを評価した「中間評価」を公表している。

もう、お解りであろう。2月14日に「物価目標1%」の看板を上げてしまった以上、4月・10月の「展望レポート」の月と1月・7月の「中間評価」の月に日銀は市場や政治家から「追加緩和」を催促されることになるのである。

日銀とマーケットとのコミュニケーションの問題はあるが、やりたくなくても「政治的圧力」で日銀は脱デフレへの追加緩和に進まざるを得ない。これが、今年の円高への逆戻りを防ぐ防波堤になるのではないか? と考えている海外ファンドは多い。

一方、FRBの方はリーマン危機後のデフレ回避に向け、これまで大胆かつ予防的に政策対応や銀行への資本注入を非常にすばやく実施してきた。現在、米国株が高いので、追加緩和は見送っている。しかし、「FRBによるおカネの供給量が足りなかったことが1930年代の大恐慌の原因だ」と考えるバーナンキFRB議長は、6月には次の手を示唆する可能性が高い。大統領選挙の日程を考えると、遅くとも7月には追加策が必要となるだろう。「FRBは二度と同じあやまちは繰り返しません」と言っている“ヘリコプター・ベン”が「何もしない」ということはないと思われる。

今年の相場はFRBのQE3観測が高まったり後退したりで、市場参加者は右往左往している。QE3が実施されれば米国株はやはり上がるだろう。むずかしいのがドルの動きである。QE3の内容が「不胎化QE」になると言われているからだ。「不胎化QE」は金融緩和等によって市場への資金供給を行った後、通貨供給量を変化させないように市中から資金を吸収することである。

「不胎化QE」であればドルの下落は限定的となる。株がFRBの政策に素直に反応しているのに対して、ドルインデックスはオペレーションツイスト以降、ドル高方向で推移している。QE1・QE2の時のように通貨供給量が大幅に変化していないからだ。米国の量的緩和策によるドル安圧力も過去2年とは違う結果となるだろう。

NYダウ(週足)と米国の金融緩和策 2008年~2012年

米国株はFRB政策次第


(出所:石原順)

ドルインデックス先物(週足)と米国の金融緩和策 2008年~2012年

不胎化QE3ならドルはさほど下がらない?


(出所:石原順)