米国人が資産運用で置かれている状況
米国においては、物価が8%台の上昇とインフレが進み、金利は上昇、株式市場はこの半年で大きく下落しています。
日本においては、物価は上がったといってもまだ2%そこそこで、金利も低い状態なので、米国人が置かれている状況について、私たち日本人には実感がわかないかもしれません。ただ、想像してみると、米国人は結構キツイ状況に置かれているように私にはみえます。
まず、米国人が資産運用で置かれている状況はどのようなものなのでしょうか? 米国株式、米国以外の株式、米国債券、米国以外の債券での運用がそれぞれどのようになっているのか、みてみましょう。
(1)米国株式
米国株式においては、代表的な指数である「S&P500種指数」でみてみましょう。ここ1年のチャートは次のようになっています。
(チャート1)S&P500の推移
昨年末までは順調に上昇していましたが、今年に入ってからは下落基調となり、ピークから一時、2割近く下げた状態となっています。
(2)米国以外の株式
米国以外の株式においては、日本と欧州についてみていきましょう。
日本の株式については「iシェアーズ MSCIジャパンETF(EWJ)」でみていきたいと思います。
(チャート2)iシェアーズMSCIジャパンETFの推移
昨年の9月中旬から下落基調にあり、ピークから2割以上下げている状態にあります。
日本人からみると、TOPIX(東証株価指数)にしても日経平均株価にしてもピークから2割も下がってはいませんが、米国人からみると、円とドルの為替が関係してくるので、日本株の下落に加えて為替の円安ドル高のダブルパンチを受ける形となっているのです。
欧州の株式については「iシェアーズ ヨーロッパETF(IEV)」でみていきましょう。
(チャート3)iシェアーズ ヨーロッパETFの推移
昨年末までは高水準を保っていましたが、今年に入ってから下落基調となり、ピークから一時、2割以上の下落となっています。欧州の株式においても、ユーロ安ドル高が効いていて、株安と為替のダブルパンチを受けています。
(3)米国債券
米国債券においては「iシェアーズ コア米国総合債券ETF(AGG)」でみていきましょう。このETF(上場投資信託)は、米国の投資適格債券市場全般を表す指数と同等水準の投資成果を目指しているものです。
(チャート4)iシェアーズ コア米国総合債券ETFの推移
価格は昨年9月あたりから下落基調となっていて、ピークから10%以上下落した状態にあります。
「金利ものの債券で、しかも投資適格債を対象としていながら、こんなに下落しているの?」と思われる方もいるかと思いますが、米国においては今年に入ってから金利が急ピッチに上昇しており、金利が上がると債券価格は下がるという関係から、大きく下落しています。
(4)米国以外の債券
米国以外の債券については、米国を除く世界の国債に投資されている「iシェアーズ 世界国債(除く米国)ETF(IGOV)」でみていきたいと思います。
(チャート5)iシェアーズ 世界国債(除く米国)ETFの推移
昨年8月ごろから下落基調となっていて、ピークから2割ほど下げた状態にあります。米国以外の国でも金利は上昇基調で、かつ、為替がドル高になっているということもあって、債券安と為替のダブルパンチを受けています。
以上の米国株式、米国以外の株式、米国債券、米国以外の債券の四つに分散投資した場合の運用についてみていきましょう。
ポートフォリオはそれぞれ25%ずつ、米国以外の株式については日本、欧州それぞれ12.5%ずつとします。米国株式のS&P500は、「iシェアーズ コアS&P500 ETF(IVV)」でみていきます。
(グラフ1)ポートフォリオの資産配分
上記のポートフォリオのここ1年のパフォーマンスは次のようになっています。
(グラフ2)ポートフォリオのパフォーマンス推移
年初来とピークからの下落率を表でまとめてみましょう。
(表1)ポートフォリオの下落率
(グラフ2)、(表1)から、米国人にとっては、米国内の株式、債券に投資をしても、米国以外の株式、債券に投資をしても、いずれも下がってしまっている状況がみて取れます。
つい半年前までは順調に増えていたために、今後の人生設計も運用で資産が増えることを前提にしていたかもしれません。それが、この半年で一転して減ってしまっているのです。加えて、生活面で追い打ちをかけているのが物価の上昇です。
米国人の生活に影響を及ぼす物価・金利の急上昇
米国における消費者物価の推移をみてみましょう。
(グラフ3)米国消費者物価指数の推移
2021年3月までは2%前後の動きでしたが、2021年4月から上昇ピッチを速め、2022年4月には+8.3%となっています。1年前に比べて8.3%の上昇、皆さんは想像できるでしょうか?
食料品は上がるし、ガソリン代も、車も家具も衣服もあらゆるものが高くなっている状態です。一方で、賃金の上昇はどうかというと、2022年4月の時間当たり賃金上昇率は、前年比で5.5%(出所:米労働省労働統計局)となっていて、物価の上昇に追い付いていない状態です。
もう一つ、住宅ローンについてもみてみましょう。米国における30年の住宅ローン金利の推移は次のとおりです。
(グラフ4)米国住宅ローン金利(30年)の推移
2021年は3%そこそこで推移していた金利が、足もとでは5%半ばまで、この半年で急上昇しています。
仮に、5,000万円を借り入れて住宅を買うことを想定してみましょう。元利均等払いで、3.5%の金利であれば毎月返済額は22万4,522円ですが、5.5%になると28万3,894円で、約6万円もアップすることになります。たったの半年でこうなってしまっているのです。
「半年前に買っておけばよかった」と言っても後の祭りです。
いかがでしょうか?
米国人にとって、資産運用においては半年前までは順調だったのに、この半年は増えるどころか急に減ってきている状態にあります。一方で、物価は8%台の上昇で、生活費がこれまで以上にかかっている。
しかし、賃金は物価の上昇に及ばない。住宅を買おうと思っていた人は、半年で急に金利が上がってしまって、それでも頑張って買うか、安い物件に変えるか、もしくは買うことをやめるかという選択を迫られる状況にあります。
このような状況下、普通に考えても、家計の支出を抑える方向に動く人は多くなるのではないでしょうか? そうだとすると、これから実体経済に影響が現れてきて、米国経済は停滞してしまうことになるかもしれません。
米国一辺倒の投資をしている方は考えどころかもしれません。
投資はあくまでも自己責任で。
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