財務省の招きでIMF(国際通貨基金)の調査団(日本担当チーム)が今年の2月6日~2月13日(2月14日追加緩和の前日)まで日本に滞在していた。IMFは2011年11月23日ウェブサイトで、「日本国債の利回りが突然急騰し債務が突然持続不可能となり、国際経済を揺るがす恐れがある」と警告したが、これは日本政府の「増税キャンペーン」の後押しだと言われている。

これまで一貫して「実効為替レートからみて、円高は適正」とコメントしていたIMFだが、最近は「円が高くなっているのは事実」などと、発言のニュアンスが変わってきている。無策の円高・デフレが進み、シャッター商店街化が進行している日本だが、「経済規模が大きすぎて救えない」日本の不況に対し、IMFとしても日本経済の底割れを回避したいようだ。

だが、IMFの目的は日本を支援することではない。「欧州危機の財源」を目当てに「追加の拠出金」を要求したと噂されている。IMFは中国には大きな顔をされたくないので、日本にカネを出して欲しいのだ。噂ではその<交換条件>が、「日銀の追加緩和とセットであれば介入も黙認する」と言うことであったようだ。

昨日4月17日、日本政府はIMFの資金増強に600億ドル(約4兆8,000億円)の支援を行うことを明らかにした。IMF加盟国が「欧州自身の金融安全網の拡大が不十分」として拠出をためらっているなか、日本政府は気前よく追加の拠出金に応じた。

このように政治的な円安誘導の環境は整ってきているのだが、日銀の動きが市場の期待を裏切る形となり、円安は一服してしまっている。

ブルームバーグの『本当は緩和やりたくなかった日銀、一貫性なく市場混乱-水野元委員』(4月18日)というインタビュー記事では、日本銀行の審議委員を務めた水野氏が、「日銀が市場の期待に働き掛けることの重要性にようやく気付いて2月14日に動いたと信じた市場参加者を日銀はがっかりさせてしまった」、「今月27日の決定会合で何もしないという選択肢はもはやないだろう」、「多分、本当はやりたくない政策をやっている」「市場は日銀の情報発信に戸惑っている。日銀は市場を味方につけることに失敗している」と語っている。

市場からさんざん催促されてから、対策を打っても効果がないのは下のチャートをみてもわかる。市場が日銀に期待しているのはポーズやアリバイ作りではなく「デフレ脱却に向けた大胆な政策」である。FRBの追随で緩和を行っても、市場に対するインパクトはない。

日銀の追加資産買い入れとドル/円相場 2月14日はサプライズがあった


(出所:石原順)

4月27日の日銀金融政策決定会合がどのような結果になるのかわからないが、「長期国債の購入5~10兆円増額」や「購入対象国債の長期化」くらいでは、市場へのインパクトはないだろう。しかし、それも実施しないようだと、市場に与える負の影響はとても大きくなる。

本日の日経新聞には、『日銀、物価予測上方修正へ、目指す1%には届かず』という記事がCPI(消費者物価指数)のチャートとともに掲載されている。「物価目標1%」という低いインフレ目標を掲げているところが、10年以上にわたりデフレターゲット政策を続けてきた日銀らしいが、「物価目標の2%への引き上げ」くらいは発表しないと円安誘導はむずかしい。

世界の主要な中央銀行は2.0%をインフレターゲットにしている。日本のように10年以上も「デフレ茹でカエル状態」となっている国は、3%程度のインフレ目標を掲げないとインフレ期待は生まれにくい。

下のチャートではCPIが0%を超えて上昇に向っているが、これは日本のデフレを牽引しているテレビとエアコンを銘柄変更したためだ。テレビを「普及品」から「最新モデル」の価格に変更したのである。

日銀のインフレターゲットとなっている日本のCPI(消費者物価指数)の推移 2008年1月~2012年2月

テレビ価格の上昇? でCPIも上昇・これまでCPIがゼロに戻ると日銀の金融緩和が止まってきた


(出所:石原順)

日本経済の諸問題は円を印刷することで解決に向う問題が多いのである。デフレ・通貨高(円高)・国の借金など、主要な経済問題解決の答えは「円を大増刷する(円の価値を下げる)」ことであろう。基より現在、「緊縮財政」と「消費税引き上げ」による財政再建路線を標榜している日本の通貨政策は、ポリシーミックスの帰結として、「緊縮財政+金融緩和+円安」しかない。

「バブルの恐怖」という過去のコンプレックスを土台とした日銀の及び腰金融政策が今後も続くのか、デフレ脱却への意欲を示すものになるのか、4月27日の決定は今後の円相場のカギを握っていると言えよう。ここで、日銀が動かないと「年央の円高」という例年のバイアスが強くなる。

ドル/円(日足) 年央の円高バイアスを払拭できるか?


(出所:石原順)

いずれにせよ、4月27日の日銀金融政策決定会合において、日銀の対応策が「FRBの追随に過ぎない」と判断されれば、日本の要因による大幅な円安進行は期待しにくくなる。相場は以前の状況に戻り、為替相場の基本構造である「金利差相場」が続くことになろう。

米・日2年国債金利差(緑)とドル/円相場(赤) 2011年11月1日~2014年4月17日


(出所:石原順)

豪・日2年国債金利差(青)と豪ドル/円相場(赤) 2011年11月1日~2014年4月17日


(出所:石原順)

さて、先週のレポートにも書いたように、4月26日FOMC、4月27日の日銀金融政策決定会合までは、基本的にNYダウ次第の相場が展開されている。ドル/円(週足)一目均衡表の<雲>を支えとして、ドル/円も豪ドル/円の9日RSI(鈍感バージョン)の周期的な底から反発しているが、ここで買っても相場の抵抗である13-21日移動平均バンド近辺では利食いをする運用者が多い。4月27日まではそういった“小すくい” 商いを続けるしかないであろう。来週の結果を待ちたい。

NYダウ(日足) 2011年10月~2012年4月

RSIの周期的な底を付けて、いったん反発
上段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)
下段:9日RSI(鈍感バージョン)2011年8月~2012年4月


(出所:石原順)

ドル/円(週足)と一目均衡表の<雲> 2011年~2012年4月

ドル/円の強力な支持帯


(出所:石原順)

ドル/円(日足) 2011年10月~2012年4月

RSIの周期的な底を付けて、いったん反発
上段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)
下段:9日RSI(鈍感バージョン)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 2011年9月~2012年4月

RSIの周期的な底を付けて、いったん反発
上段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)
下段:9日RSI(鈍感バージョン)


(出所:石原順)