3月8日、FRBは「FRB、新タイプの量的緩和策“不胎化QE”を模索」という記事をWSJに書かせた。量的緩和第3弾=QE3への観測気球である。「今後数カ月内に追加的な緩和策が必要になった際、将来インフレが引き起こされる懸念を抑える新タイプの債券購入プログラムを検討している。関係者への取材で明らかになった」(WSJ)との文言から、「バーナンキFRBは数カ月以内にQE3に踏み切るのではないか?」という憶測を呼んだ。

その後も、エバンズ米シカゴ連銀総裁やダドリーNY連銀総裁からQE3をにおわすような発言が続いていたが、バーナンキFRB議長が3月26日に「米失業率を低下させるには経済成長がさらに加速する必要があるとの考えを示し、FRBの超低金利政策の正当性を主張した」(ロイター)ことから、QE3への思惑が再びマーケットで話題となっている。

米国は失業率が9.1%から8.3%まで下がり表向き改善している。しかし、リーマン危機後、米国の雇用は700万人減ったままである。職安にいかない人が増えたので、失業件数は統計上減っているが、新規雇用は月間ベースでリーマン危機前の75%に留まっている。バーナンキFRB議長が、「経済成長ペースが緩やかな状態となっていることと失業率の低下は幾分一致していない」と述べているのは、そのような背景があるからである。

一体、中央銀行や政府は何のために景気対策を行っているのか? それは、つまるところ、雇用の維持である。もとよりジョブレス・リカバリーとなりやすい米国の景気回復だが、雇用状況がこのような脆弱な状況でバーナンキFRBが出口戦略を模索することなどありえない。FRBは物価の安定と同時に雇用の安定にも責務を負っているからである。

QE3に対しては「バベルの塔」であるとか、「インフレを招く」などの多くの反対意見が渦巻いている。しかし、以下のチャートを見て欲しい。米国の失われた10年と日本の失われた20年のチャートである。少しくらい景気がよくなったからと言って利上げなどの引き締めに転じると、墓穴を掘るといういい例だ。

米国の失われた10年=NYダウ(左)と日本の失われた20年=日経平均(右)


(出所:石原順)

左は1920年~1945年のNYダウのチャート、右は1985年~2011年の日経平均株価のチャートである。1929年の大恐慌が世界恐慌に発展していったのは、「金融政策の誤りが重なったためであった」と、バーナンキFRB議長は指摘している。その結果として、1939年からの第二次世界大戦という「戦争」へと繋がっていく。日本も過去10年間、日銀がデフレターゲット的な政策を採り続けたため、失われた20年を経験することとなった。

エバンズ米シカゴ地区連銀総裁は3月16日に、「最近の心強い経済情報にかかわらず、米連邦準備理事会(FRB)として成長促進に向け一段の対応が必要で、対策を怠れば景気低迷が10年以上続く恐れもある」(ロイター)と発言している。量的緩和政策は副作用やモラルハザードの副作用があるものの、歴史を振り返れば「戦争をする」よりはよい政策であろう。

というわけで、「安心しないことが非常に重要だ。道のりはまだ遠く、多くのなすべきことがある。われわれはそれをやり続けなくてはならない」と市場に警告するバーナンキ議長が、「今すぐには追加緩和に踏み切らないものの、オペレーション・ツイストの期限が切れる6月にはQE3の実施に踏み切るのではないか?」という観測が増えてきた。

現在のマーケットはバーナンキFRB議長の「QE3への地ならし」を素直に反映した動きとなっている。

バーナンキFRB議長はQE3の障害となる原油・ガソリン高に対しては不快感を示している。3月28日には「原油高で米欧が戦略備蓄放出を検討、数週間以内に実施か」(ロイター)というヘッドラインが出て、「フランスが米英と戦略備蓄の放出について協議していることが明らかになった」と報道されている。

原油先物(日足) QE3実施の障害となる原油高を牽制・備蓄放出を匂わす


(出所:石原順)

米マクロ経済指標の好転で上昇していた米国の長期金利に対しても、早期の利上げの可能性を打ち消す発言をし、緩和的な金融政策の維持がなお必要だとの考えを強調している。住宅PKO(価格維持)を考えているバーナンキFRB議長にとって、住宅ローン市場を直撃する長期・超長期金利の上昇は牽制する必要があろう。その結果、米国債金利はチャートポイントで折り返し下落している。

米30年国債金利(日足) 住宅市場を直撃する金利上昇を牽制


(出所:石原順)

NYダウ(日足) 投機筋はバーナンキ・プットをあてにして、再び買い出動?


(出所:石原順)

バーナンキFRB議長はうまく市場をコントロールしていると言えるが、市場はバーナンキFRB議長の牽制=「QE3への地ならし」で押し戻され、方向感を失っている。

ドルインデックス先物の動きを見てみよう。2月はドル高で推移していたものの、3月の半ばからはドル安基調だ。FRBは「不胎化QE」など、大幅なドル安にならない緩和策を模索しているものの、QE3は基本的にドル安要因である。ただし、今のところドルインデックスに大きな方向性は出ていない。

ドルインデックス先物(日足) 明確なトレンドは発生していない

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶)
9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

100兆円をばらまいた欧州は当面、緩和打ち止めとなりそうだ。一方、米国のQE3は6月との観測が多く、まだ時間がある。このような状況下で当面の相場の行方を決めるのは、4月追加緩和が期待されている日銀の動向である。

昨今の相場動向は中央銀行の政策次第だ。日本バブル相場の持続条件として、(ECBに続いて)市場の期待を集めている日銀の追加緩和が4月27日に実施されなかった場合、日本株や円相場は失望する可能性がある。

白川日銀総裁が3月24日にワシントンで行った講演で「金融緩和政策の副作用と限界」を指摘したことで、緩和期待が薄らいでいるという声もある。グローバルマクロと言われるファンドの連中も、日本のマネタリー・ベースが伸びていないことに「首をかしげている」といわれている。4月27日の日銀会合の結果がどうなるかで、相場の方向性は大きく変わってくる。そういった意味で4月27日までは大きなトレンドは発生しにくいかもしれない。

日本のマネタリー・ベース 2月・3月と急収縮したことで、4月追加緩和を疑う声も…
それとも、政治的圧力でアリバイ作りの4月追加緩和が行われるのか?


(出所:石原順)

ドル/円(日足) 過去3年間は4月高値、5~7月円高というドル/円相場の基本パターン相場が続いてきた。今年は日銀次第である。


(出所:石原順)

上記に述べてきたような理由で、円相場も調整相場に入っている。新年度入りで円安期待が強いクロス円だが、基本的に株の動きをみながらの動きとなるだろう。

ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶)
9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶)
9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ニュージランド/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶)
9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

カナダ/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶)
9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶)
9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)

仕手通貨となっているユーロは売りポジションが減らないので、仕手戦の様相を呈している(1.35-1.30で投げと踏みの応酬)
上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶)
9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)