中国国家統計局が5月16日に発表した一連の経済統計結果により、直近の景気が一層悪化している現状が明らかになりました。新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウン(都市封鎖)措置などが経済活動に打撃を与えたことが主な原因です。4月の自動車販売台数がゼロだった上海市では、6月をめどにロックダウン解除の方向で調整していると地元政府が発表。中央政府は個人消費を促すべく、住宅ローン金利の下限を下げるといった政策を打ち出しています。これらの措置や政策が景気促進の起爆剤になるのか。今回のレポートで検証していきたいと思います。

4月の上海自動車販売台数ゼロ!ロックダウンで景気は軒並み悪化

 5月16日に発表された一連の統計結果は、GDP(国内総生産)の低迷(2022年1-3月前年同期比4.8%増)が続く中国経済が好転するどころか、悪化している現状を浮き彫りにしました。いくつかデータを見ていきましょう。

 まず象徴的だったのが消費です。4月の百貨店やスーパーでの売り上げ、インターネット販売を合計した社会消費品小売総額は前年同月比11.1%減。下げ幅は3月の3.5%から顕著に拡大しました。1~4月で見ると、前年同期比で0.2%減でした。

 私から見て特筆すべきなのが、統計局は、自身のサイトでこれらの結果を発表する際に、「自動車以外の小売総額」という結果を並列して公表した事実です。そして、同額は4月が8.4%減、1~4月が0.8%増という結果。要するに、自動車販売額の鈍化が消費全体の足を引っ張ったということです。

 中国自動車工業協会は5月11日、4月の新車販売台数が前年同月比約48%減の118万台だったと発表しました。減少は2カ月連続で、下げ幅は3月の約12%から拡大しています。1~4月の販売台数は約769万台で、前年同期比約12%減。低迷する数字の背景には、当局によるコロナ抑止策がもたらす移動制限により、個人消費が途絶えてしまっている現状や、サプライチェーンの混乱により生産が滞っている現状などが挙げられます。

 例として、上海市自動車販売業協会が5月16日に発表した資料によれば、4月を通じてロックダウン下にあった同市における4月の自動車販売台数はゼロ(2021年4月は2万6,311台)。市民の大半が自宅から出られず、自動車ディーラーも休業している状況下では当然と言えば当然ですが、「ゼロ」という数字にはインパクトがあります。

 生産を見ても、4月の生産(全国)は前年同月から約46%減、1~4月も前年同期比で約11%減となっており、中国式ロックダウンが、供給側、需要側を含めた経済活動に及ぼす影響がいかに大きく、厳しいかを物語っているといえます。

 その他の数字を見てみましょう。

 4月、工業生産の下げ幅は、前年同月比2.9%減少で、2020年3月以来のマイナスを記録。1~4月の不動産開発投資は前年同期比2.7%減、1~3月も0.7%増と低迷していたが、さらに悪化しました。また1~4月の住宅販売は、面積ベースで前年同期比25.4%減、販売額ベースで32.2%減となり、中国のGDP全体の3割近くを占めるとされる不動産業界の低迷が浮き彫りとなっています。

 農村部を含まない都市部における「調査失業率」は、3月の5.8%から上昇し、4月は6.1%と悪化。2022年通年の目標は「5.5%以内」ですから先行きは楽観視できません。4月のCPI(消費者物価指数)は2.1%上昇と、1、2月の0.9%、3月の1.5%から明らかな上昇傾向が見られます。ウクライナ危機を含めた世界情勢の影響を受ける形でのインフレリスクを当局は懸念しているようです。ウクライナとゼロコロナが中国経済にとって「ダブルパンチ」となる局面はしばらく続きそうです。

上海ロックダウン「解除」秒読みは本当か?

 5月16日、4月の経済統計結果を説明すべく記者会見を開いた国家統計局の付凌暉(フー・リンフイ)報道官は、上記の数字は「コロナショックがもたらした短期的変化であり、段階的、外在的なものである」と説明。4月に見舞われた消費の低迷に関しても、「感染拡大が抑制され、生産、生活の秩序が正常な状態に回復していけば、これまで抑えられていた消費が徐々に放出されるはずである。4月中下旬以来、国内の感染状況は全体的に抑え込まれており、上海や吉林でも徐々に好転している。これらは適度な消費環境を創造するのに有利に働く」という見込みを述べています。

 注目されるのはやはり本格的なロックダウン開始(3月28日)からすでに1カ月半以上が経過した上海で、いつそれが解除されるかでしょう。

 5月17日、上海市政府は記者会見を開き、同市内16の地域で「社会面ゼロコロナ」を達成したと主張しました。「社会面ゼロコロナ」とは新しい概念で、政府が重点的に閉鎖管理している地域以外での新規感染者数が3日連続でゼロになることを指すようです。コロナの感染拡大、およびそれを封じ込めるために採用してきたロックダウンが経済活動に及ぼす影響を懸念する同市が、少しでも成果を市内外にアピールするために編み出した造語と言えます。当局もそれだけ必死なのでしょう。

 直近のデータを見ると、上海市における新規感染者数(無症状者含む)は、5月15~17日までの3日連続で1,000人以内となっています。ピークを記録した4月17日が2万7,000人だったことを考えると、感染者数は明らかに減少傾向にあることが分かります。

 今後の展開ですが、同市の宗明(ゾン・ミン)副市長によれば、6月中の全面解除に向けて、これから3段階に分けて、段階的に解除していくとのこと。

 第一段階(5月17~21日):新規感染者数を減らし、感染者数のリバウンドを防ぎ、閉鎖管理区域における人数を減らしていくものの、解除や人の移動は制限し、市全体として低い水準の社会活動を保つ。

 第二段階:(5月22~31日):新規感染者数をさらに減少させ、管理区域の範囲を減らし、感染抑制を常態化した、かつ水準や分野をカテゴライズした管理へと転換させる。

 第三段階:(6月1~中下旬):感染拡大のリバウンドを厳格に防ぎ、リスクを制御する前提で、全面的に常態化管理を実施、市全体の正常な生産、生活秩序を回復する

 中国的な用語で分かりにくいかもしれませんが、ポイントは三つあるように思います。

(1)一気に全面解除するのではなく、地域、業界別に段階的に解除していく点
(2)「全面解除」=「制限なし」ではないという点
(3)期限は確定も、明言もしないという点

 上海市政府は「社会面ゼロコロナ」で成果をアピールしていますが、6月という目安、方向性は掲げるものの、具体的にいつまでに「全面解除」するかは確定できないということでしょう。先週、上海市の高校で教鞭を執る知人と話しましたが、同市教育局から「5月末には生徒たちを復学させるべく準備するように」という通達が非公式に来たとのこと。

 ロックダウンの影響を受け、上海市では大学受験と高校受験が約1カ月延期され、それぞれ7月7~9日、11~12日に実施されることが確定しています。同知人は、「受験の日時が確定したからには、少なくとも受験日の一カ月前には復学し、準備をしなければ間に合わない」と指摘。実際に、上海市政府は、受験生を優先的に復学させる旨を表明しています。

 このように、学生も一気に復学というのではなく、地域や年次別に、段階的に実施していくということなのでしょう。生産や労働の現場、外出や移動の制限を含め、同様だと見て間違いないはずです。「解除」を受けて経済活動がどのくらいの規模、速度、程度で回復したのかを判断できるのは、早くても7月以降になると私は見込んでいます。

景気回復の鍵を握るロックダウン動向と中央政府による規制緩和

 中国政府は2022年のGDP成長率目標を「5.5%前後」に設定しています。1-3月は4.8%増と3期連続で5%を割り、上記のように、ロックダウンの影響を直接的に受けている4-6月の数字も芳しいものになるとはなかなか思えません。

 最大の鍵を握るのは、やはり習近平(シー・ジンピン)総書記が4月29日の中央政治局会議で再度強調したように、コロナ抑制策の経済活動への影響を最小化できるか否かにかかっているでしょう。

 例として、上海市でのロックダウンが6月中下旬に向けて、段階的、ただ確実に解除していく過程で、生産や消費が回復するような局面が期待されます。上記で例に挙げた自動車業界に関して言えば、中国全体の自動車の10%が上海で製造されています。

 中国中央電視台(CCTV)の報道によれば、中国最大の自動車メーカーの1つ上海汽車集団(SAIC. 600104;上海)の工場では、5月9日時点で、従業員全体の8割に当たる4,000人以上が職場に復帰、5月末までに通常の業務を再開することを目指しているとのことです。

 同社の職場復帰は例外的に早く、決して、日本企業を含め、上海を拠点にしている企業や工場が同様とは言えません。それでも、生産、労働、消費の現場が徐々にでも活発化していくことが経済再生にとって不可欠だと言えます。足元、北京市や天津市でも1日2桁の新規感染者数が記録されていますが、「第二の上海」が出現するか否かが、中国経済の「次」を占う上で一つの鍵を握るでしょう。

 上海が「ロックダウン解除」に向けたかじを切る中、北京では、5月15日、中国人民銀行(中銀)と中国銀行保険監督管理委員会が、住宅ローン金利の下限を、1軒目を買う人を対象に従来の4.6%から4.4%に引き下げると発表しました(2軒目以降の下限は変わらず)。「不動産市場の安定的かつ健全な発展を促進するため」(中銀)、要するに、低迷する住宅市場をてこ入れして景気を浮揚させる狙いを鮮明にした形です。

 前述したように、住宅販売額は足元で明らかに鈍化しています。不動産や自動車と並んで、個人消費を促す上で要となる商品であるのは論をまちません。実際、私自身の周りを見ても、当局によって定められた住宅ローン金利を巡る規制が原因となり、不動産購入に踏み切れない知人は少なくありません。規制緩和は景気回復に向けて一つの鍵を握るでしょう。

 習指導部としては、景気回復を促すためであれば、打てる政策は全部打つ姿勢をむき出しにしています。これらの措置が、5月、4~6月の統計結果に成果として表れるのか、見ものです。