米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。

 米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合株価指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種指数」があります。

 これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。

 そこで2022年6月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します(株価、配当利回りなどのデータは2022年5月17日現在、為替は1ドル=130円で計算)。

 その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な3つの違いについて、お伝えします。

(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。

※米国に上場していても米国籍企業以外の場合、配当金にかかる源泉税率は日本との租税条約によって異なり10%ではありません。

(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。

(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ無駄に手数料を支払うことになります。

米国高配当株1:カナディアン・ナチュラルリソーシズ(CNQ)

 独立系エネルギー企業の大手で、北米、英領北海、アフリカ沖で事業を展開しています。
本社はカナダにあり、カナダ国内では最大級の天然ガス・原油生産企業で、オイルサンドの採掘では世界有数の企業となっています。

 時価総額は727億ドルで、日本円で約9兆4,500億円となっています(USD=130円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「探鉱開発事業(Total Exploration and Production)」で、続いて「オイルサンド採掘&アップグレーディング事業(Oil Sands Mining and Upgrading)」、「輸送&精製事業(Midstream and Refining)」、となります。

「探鉱開発事業」では、北米、北海、アフリカの3つの地域で原油、天然ガス液体および天然ガスの探鉱、開発、生産およびマーケティングを行い、「オイルサンド採掘&アップグレーディング事業」ではオイルサンドの採掘・精製を行っています。

競合他社

 競合他社として、独立した探鉱および生産会社であるコノコフィリップス(COP)、米国、中東、アフリカで石油とガスの探鉱・生産活動を行うエネルギー会社であるオキシデンタル・ペトロリアム(OXY)、主にテキサス州西部のパーミアン盆地で事業を展開している石油・ガスの探査・生産会社であるパイオニア・ナチュラル・リソーシズ(PXD)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値を上回って推移しています。また、22年連続で増配しています。

 原油や天然ガスの価格が昨年の秋ごろから上昇するにつれて、カナディアン・ナチュラルリソーシズの株価も上昇してきました。

 また、自社株買いも行うなど積極的な株主還元の効果もあり株価は右肩上がりで上昇しています。

 今後も資源価格の高止まりが予想され、しばらくは好調な業績による株価上昇が期待されます。

業績動向

 2022年5月5日開示の四半期決算では、1株利益・売上ともに市場予想を上回りました。

 資源価格が高止まりする中、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の損益分岐点がカナディアン・ナチュラルリソーシズは1バレルあたり30ドル台半ばとなっており、現在の資源高の状況で大きな利益を生み出す結果となりました。今後も資源価格が下落する可能性は低く、好調な業績が続くと予想されます。

 次回2022年8月4日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。

注意点

 OPEC(石油輸出国機構)プラスでの原油増産ペース拡大の話題が出た際には、業績に大きな影響を与える可能性があり注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2.33ドル
配当利回り:3.70%
株価:62.95ドル(約8,200円)

 この銘柄、権利落ち日は6月16日の予定(権利実施は7月5日)です。

 配当利回りは5月17日時点で3.70%、株価は62.95ドルでおよそ8,200円から購入できます(1USD=130円計算)。

 2019年からの最高値は68.78ドル、最安値は7.74ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株2:B&Gフーズ(BGS)

 米国、カナダ、プエルトリコで冷凍食品および家庭用品の製造、販売、流通を行っています。
創業から100年以上の歴史を有し、その間にさまざまな企業を買収したことで現在では傘下に50以上のブランドを展開しています。

 時価総額は16億5,400万ドルで、日本円で約2,150億円となっています(USD=130円換算)。

事業の注目ポイント

 事業は「常温保存食品&冷凍食品(shelf-stable and frozen foods)」の単一事業となります。

 その中で、売上の中心ブランドは「グリーンジャイアント(Green Giant – frozen)」で、続いて「クリスコ(Crisco)」、「オルテガ(Ortega)」と続いていきます。

「グリーンジャイアント」では、冷凍野菜を中心に取り扱い、「クリスコ」ではショートニングや植物油のナンバーワンブランドとして製造・販売を行っており、他にもさまざまなブランドで多種多様な製品を取り扱っています。

競合他社

 競合他社として、食用および非食用の生物栄養素から持続可能な天然成分を開発・生産し、食品、ペットフード、燃料などの業界の顧客向けに、成分やカスタマイズされた特殊ソリューションを提供するダーリン・イングレディエンツ(DAR)、包装食品、飲料、醸造と産業顧客向けに一連のでんぷんと甘味料食材を製造・販売するグローバル企業であるイングレディオン(INGR)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値まで戻っていませんが、配当は2018年以降横ばいで推移しています。
コロナ発生以降、家庭での食事の機会が増えたこともあり業績は好調に推移し、それに伴って株価も上昇しました。

 直近も、他社の冷凍野菜製造事業買収を発表するなど積極的な投資を行っており、事業拡大による株価上昇につながっていくか注目です。

業績動向

 2022年5月5日開示の四半期決算では、売上は市場予想を上回りましたが、1株利益は市場予想を下回りました。

 販売価格の引き上げなどで売上高は上昇したものの、原材料費および輸送費の大幅な増加など、予想を上回るコストインフレによって1株利益は市場予想に届きませんでした。

 B&Gフーズは自社製品に対する消費者の強い需要が続いていることから、2022年度通期の売上予想を引き上げている一方、今後のインフレについては完全に予想することができないとしており、コスト上昇にどのように対応していくかが株価の明暗を分けそうです。

 次回は2022年8月4日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 インフレが業績に与える影響について予想しづらい点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.9ドル
配当利回り:7.91%
株価:24.01ドル(約3,100円)

 この銘柄、権利落ち日は6月下旬予定(権利実施は7月下旬予定)です。

 配当利回りは5月17日時点で7.91%、株価は24.01ドルでおよそ3,100円から購入できます(1USD=130円計算)。

 2019年3月からの最高値は41.05ドル、最安値は11.63ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株3:クロノス・ワールドワイド(KRO)

 酸化チタンの製造・販売会社で、約100カ国、4,000社以上の顧客に酸化チタンの販売を行っています。酸化チタンメーカーとしては欧州最大であり、「KRONOS®」ブランドの下、40 種類以上の酸化チタン顔料を含む幅広い製品ポートフォリオを顧客に提供しています。

 時価総額は18億3,700万ドルで、日本円で約2,400億円となっています(USD=130円換算)。

事業の注目ポイント

 事業は「酸化チタン運営事業(TiO2 operations)」の単一事業となります。

「酸化チタン運営事業」では酸化チタンを製造・販売し、それらを国内外の塗料、プラスチック、製紙メーカーなどの顧客に提供しています。酸化チタンはコーティング、プラスチック、紙、インク、食品、化粧品などさまざまな製品に利用されています。

競合他社

 競合他社として、パーソナルケア、在宅ケア、農薬、鉱業およびその他の用途および油田化学品の燃料添加物と原料として使用するための特殊化学品の開発・製造・ブレンディング・マーケティング・供給に従事する専門化学会社であるイノスペック(IOSP)、二酸化チタン顔料、特殊グレード二酸化チタン製品および高純度チタン化学物質、ジルコンを含むチタン製品の製造と販売を行うトロノックス・ホールディングス(TROX)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値まで回復していませんが、配当は3月に増配しています。

 コロナ発生以降、工場停止などにより酸化チタンの売上が落ち込み株価が下落しましたが、その後経済の正常化とともに株価は回復してきました。

 今年3月には、2019年以来となる増配を行っており、今後も経済回復に伴う株価上昇が期待されます。

業績動向

 2022年5月4日開示の四半期決算では、1株利益・売上高いずれも市場予想を上回りました。

 酸化チタンの販売価格の上昇、販売量の増加により売上高は拡大した一方で、原材料費やエネルギー費などの製造コスト上昇、ならびに対ユーロでの為替変動の影響で2022 年度第 1 四半期の営業利益は 、前年同月比で約500万ドル減少しました。今後は、直面するインフレにどのように対応していくかで業績は左右されそうです。

 次回2022年8月10日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。

注意点

 売上の約6割は米国外であげており、今後も為替の影響により業績が左右される可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:0.76ドル
配当利回り:4.77%
株価:15.91ドル(約2,100円)

 この銘柄、権利落ち日は6月上旬予定(権利実施は6月中旬予定)です。

 配当利回りは5月17日時点で4.77%、株価は15.91ドルでおよそ2,100円から購入できます(1USD=130円計算)。

 2019年からの最高値は18.27ドル、最安値は7.14ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株4:プリンシパル・ファイナンシャル・グループ(PFG)

 企業や個人、機関投資家に資産運用や保険を含む幅広い金融商品とサービスを提供しています。特に、世界的な高齢化の進展にともない、退職金積立、退職金資産運用、退職金管理の各ソリューションに対する需要が高まっていることから、それらのサービスを中心に事業を展開しています。

 時価総額は177億ドルで、日本円で約2兆3,000億円となっています(USD=130円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は、「リタイアメント&インカムソリューション事業(Retirement and Income Solutions)」で、続いて「米国保険ソリューション事業(U.S. Insurance Solutions)」に、資産運用業を行う「プリンシパルグローバルインベスターズ(Principal Global Investors)」や「プリンシパルインターナショナル(Principal International)」と続いていきます。

「リタイアメント&インカムソリューション事業」では、信託およびカストディアンサービス、個人変額年金などを提供し、「米国保険ソリューション事業」では個人ならびに団体向けに傷害保険や生命保険などを提供し、「資産運用業」では中南米とアジアで個人顧客にリタイアメント・ソリューションを、機関投資家向けには資産運用サービスを提供しています。

競合他社

 競合他社として、主に保険、年金、福利厚生および資産管理サービスの提供を行う金融サービス会社であるメットライフ(MET)、会社を通じて、生命保険、年金、退職関連サービス、投資信託、投資運用など、さまざまな金融商品およびサービスを提供する金融ウェルネス会社であるプルデンシャル・ファイナンシャル(PRU)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値近辺で推移しています。また、配当は昨年増配しています。コロナの影響で一時的に株価は下落したものの、その後徐々に回復し、現在はコロナ発生前の水準を上回って推移しています。また、増配とともに自社株買いも行っており、そういった結果が株価回復の理由の一つのようです。

業績動向

 2022年4月28日開示の四半期決算では1株利益は市場予想を上回りましたが、売上高は市場予想を下回りました。

 売上こそ市場予想に届かなかったものの、1株利益・売上高ともに前年同期の水準を上回っています。主要事業である「リタイアメント&インカムソリューション事業」でも、退職年金基金運用において、加入者からの預金額が増えたことなどが、好調な業績につながりました。

 次回2022年7月28日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。

注意点

 アジアでは、中国、香港などで事業を行っており、魅力的なマーケットである半面、リスクを多く抱えた地域であり、それらの地域が今後業績への影響を及ぼす可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2.56ドル
配当利回り:3.65%
株価:70.08ドル(約9,100円)

 この銘柄、権利落ち日は6月1日の予定(権利実施は6月24日)です。

 配当利回りは5月17日時点で3.65%、株価は70.08ドルでおよそ9,100円から購入できます(1USD=130円計算)。

 2019年からの最高値は78.95ドル、最安値は24.16ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株5:アリコ(ALCO)

 米国最大のかんきつ類生産企業の1つであり、それらを生産する土地の保全事業も行うアグリビジネス企業です。フロリダ州8郡に約8万3,000エーカーの土地と、フロリダ州全域に約9万エーカーの鉱区を所有しており、これらの土地を利用し2つの事業を展開しています。

 時価総額は3億1,500万ドルで、日本円で約409億円となっています(USD=130円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「アリコシトラス事業(Alico Citrus)」で、続いて「土地管理&その他事業(Land Management and Other Operations)」となります。

「アリコシトラス事業」では自社所有の土地におけるかんきつ類の生産、栽培および販売、ならびに第三者のためのかんきつ類園の管理を行っており、「土地管理&その他事業」では放牧権、狩猟権、石油採掘権のリースなどを行っています。

競合他社

 競合他社として、さまざまな地域の国々でローカルに、あるいはグローバルに栽培・調達された新鮮な果物と野菜を提供して、各国で小売、卸売り、フードサービスの各チャネルで流通・販売されるドール(DOLE)、商品取引、エタノール、および植物栄養素の分野で北米全域にて事業を行う、農業事業を営む多角的な企業であるアンダーソンズ(ANDE)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値を上回って推移しており、配当は昨年増配を行っています。

 コロナ発生後、マーケット下落の影響を受け株価は約3割下落しましたが、その後少しずつ株価は上昇し現在はコロナ発生前の水準まで株価は回復しています。オレンジなどの消費量が増えていることや、かんきつ類の収穫量が増えていることからマーケットが荒れている中でも業績は安定しており、株価は上昇しています。

業績動向

 2022年5月9日開示の四半期決算では1株利益・売上ともに市場予想を下回りました。

 年初にフロリダ州を襲った寒波の影響で、かんきつ類が収穫を迎える前に落果し、収穫量が前年同期で10.3%下落したことで業績予想を下回る結果となりました。しかし、一方でかんきつ類全体の生産量の減少に伴いかんきつ類価格が上昇していることで業績の急激な悪化を避けることもできています。今後は、収穫量が拡大することでの業績拡大が期待されます。

 次回は2022年8月8日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 自然が相手のため気候変動による業績への影響が大きく、その点は業績を読みづらい銘柄であることは注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2ドル
配当利回り:4.80%
株価:41.59ドル(約5,400円)

 この銘柄、権利落ち日は6月下旬予定(権利実施は7月上旬予定)です。

 配当利回りは5月17日時点で4.80%、株価は41.59ドルでおよそ5,400円から購入できます(1USD=130円計算)。

 2019年からの最高値は43.08ドル、最安値は23.01ドルとなっています(終値ベース)。

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