相続で上場株式や投資信託、債券などをもらうケースが増えている

 筆者の本業は税理士なので、相続に絡んだ仕事も数多く行っています。どなたかの相続が発生したとき、亡くなった方(被相続人)が持っていた上場株式や投資信託、債券などを、相続人が相続によりもらうというケースによく遭遇します。

 そして相続によりもらった上場株式などを、そのまま保有し続ける相続人の方もいますし、お金に換えようと売却する方もいます。

 相続でもらった上場株式などを売却するときにはいくつか注意する点がありますので、今回はそれらについて解説していきたいと思います。

相続で税金がかかったのに、相続でもらった株を売ると再び税金がかかる?

 よくある誤解が、相続の際に相続税がすでにかかっているので、相続でもらった株を売っても税金がかからない、というものです。

 筆者がお客さまに「相続税がかかっていても、相続でもらった株を売ったら税金がかかりますよ」と説明すると驚かれたり、二重に税金を取るなんてけしからん、と怒ったりする方もいます。

 なぜ相続税がかかったにもかかわらず、相続財産を売却するとまた税金がかかるのか? それは相続財産を売却した際にかかる税金は所得税・住民税であり、相続税とは全くの別物だからです。

 相続税とは、被相続人から相続人への財産の移転という事実に着目して課税されるものです。一方売却による所得税・住民税は、買った価格と売った価格の差(キャピタルゲイン)に対して課税するものなので、そもそも根本的に別物なのです。

ケーススタディーで考えてみましょう

 例えば被相続人から相続人へ、A社株1,000株が相続されたというケースを考えてみます。相続が発生したときのA社の株価は5,000円だったとすると、A社の相続税評価額は5,000円×1,000株=500万円です。

 もし相続人がこのA社株を、相続が発生したときと同じ5,000円で売却したら、所得税・住民税はかからない、と勘違いしてしまう方が結構多いです。

 1株5,000円で相続したものを1株5,000円で売ったのだから、税金が出るなんておかしい、と思ってしまうのです。

 しかし、所得税の考え方は、「相続により取得した株の株価は、被相続人が取得したときの価格を引き継ぐ」というものです。

 ですから、被相続人がA社株を1株2,000円で買っていたとしたら、相続人がA社株を売却したときの取得価格は、相続のときの1株5,000円ではなく、1株2,000円になります。

 その結果、(5,000円-2,000円)×1,000株=300万円の売却益が発生し、これに対し所得税・住民税がかかってくることになります。

 なお、相続税と所得税・住民税がダブルでかかってしまうことに対する措置として、相続が発生してから3年10カ月以内に相続財産を売却した場合、売却した財産につき負担した相続税相当額を取得価格に加算できます。その結果売却益が圧縮され、所得税・住民税が軽減されることになります。

被相続人の取得価格が分からない場合

 ですから、相続人が被相続人から相続により受け取った株を売却するときは、被相続人の取得価格、つまりいくらで買ったかが分からないと税計算ができないのです。

 もし被相続人の特定口座に入っていた株式であれば、特定口座での取得価格を引き継げばよいので問題ありません。

 しかし、一般口座に入っていた株式の場合は、取得価格を確認することが必要です。

 ただ、かなり以前に買ったような株については、いくらで買ったかが分からないケースがとても多いです。

 そこで、国税庁のホームページでは、取得価格を確認する方法をいくつか紹介しています。

・購入時の取引報告書があればそれを使う
・購入した証券会社に顧客口座元帳が残っていればそれをみる
・手帳やメモ、預金通帳などの出金記録により購入した金額が分かればそれを使う
・株主名簿などで名義書き換え日が確認できれば、その日の株価の終値を使う

 もしこれらの方法でも分からなければ、売却額の5%を取得価格とすることができます。

 ただ、これだと余計な税金を支払うことになってしまうケースもあります。例えば、先に説明した事例であれば、本当の売却益は300万円なのに、売却額の95%が利益になるため、売却益は5,000円×1,000株×95%=475万円に膨らんでしまいます。

 本人が亡くなってからだと、取得価格を確認することもかなり難しくなります。もし特定口座で管理していない株などがあるようなら、相続が発生する前に、いくらで買ったかを調べるようにしておきましょう。余計な税金を支払うことのないよう、事前の準備をしておくことを強くお勧めしておきます。